夫との死別、離婚で滞納→給料や生命保険の差し押さえも…「国民保険料が高すぎる」支払いに困窮する人々
文春オンライン / 2024年12月17日 6時0分
写真はイメージ ©ideyuu1244/イメージマート
〈 収入が低く病院にも行けない…「保険料が高すぎる」60代男性を苦しめる“重い負担” 〉から続く
ジャーナリスト・笹井恵里子さんは年間88万円の国民健康保険料を突きつけられ、高額で絶句したという。『 国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと 』(中公新書ラクレ)より、保険料の支払いに困窮する人々の事例を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 から続く)
◆ ◆ ◆
配偶者との死別、離婚を機に滞納に陥る
かつて滞納相談センターの相談員だった師岡徹氏(師岡徹税理士事務所)も、自身が関わった2つの差し押さえの事例を紹介してくれた。
夫を亡くし、3人の子どもを抱えながら働く女性がいた。九州に住むその女性は現在は会社員として勤務しているものの、亡き夫の市民税や、死別後の自身の国保料、固定資産税の未納分が30万円、延滞金も発生していた。女性が「月々1万円であれば納付が可能」と主張しても、行政は聞く耳をもたず、女性の18万円の給料を全額差し押さえた。
「私から行政に全額差し押さえは違法であること、また納税についても『家計の状況を鑑みることができないのか』と言っても、『できない』の一点張りで。これまでの裁判の事例や国税徴収法の話をまじえて交渉し、請願書などを作成して、結果として月々市民税3000円、国保料3000円の支払いで落ち着きました」(師岡氏)
もうひとつのケースは、市民税24万円、国保料90万円を滞納している千葉県在住の女性。数年前に離婚し、その過程で滞納が膨らんでいったという。
女性は行政と毎月3万円の分納を約束したものの、途中で支払えなくなり、やがて「生命保険の差し押さえ通知」が……。女性はそれだけは勘弁してほしいと、師岡氏のもとに駆け込んだのだった。
「彼女は毎月手取り28万円程度を得ていたものの、日給制の仕事なんですね。何かで休めば、翌月の給料が減ってしまう。給与や支出の状況を明らかにし、確実に支払い可能であるのは月々1万円ということを丁寧に説明して、やっと合意できました。2つの事例から、一度レールから外れてしまうと社会復帰が遠のくという、日本のシステムの脆弱性を感じました。多くの人が『自己責任』という言葉に追い詰められ、支払い能力を超えた返済額を約束してしまうのです」(同)
たしかに特に女性は、配偶者との死別や離婚を機に国保料を含めた税の滞納に陥りやすいのかもしれない。
経済的困窮、受診遅れによる死亡も…
近年、経済的困窮により医療を受けられない人も増えている。全日本民主医療機関連合会(民医連)が「2023年経済的事由による手遅れ 死亡事例調査概要報告」を発表した。全日本民医連加盟事業者の患者、利用者のうち、
(1)国保税(料)、その他保険料滞納などにより、無保険もしくは資格証明書、短期保険証発行により病状が悪化し死亡に至ったと考えられる事例
(2)正規保険証を保持しながらも、経済的事由により受診が遅れ死亡に至ったと考えられる事例
を調査している。
つまり(2)は、保険証はあるのに、窓口で支払う一部負担金が支払えないということだ。
報告書にある一部を紹介する。
〈 <40代女性。母・兄と3人暮らし。母は認知機能の低下が顕著。本人が日常生活を介助。兄は精神疾患があり、身の回りのことはできるが母の介護は難しい。本人は非正規雇用で物流関係の仕事をしていた。母の介護相談時に地域包括の職員が同席した娘の体調が見るからに不良と判断し、本人は経済的困窮により拒否したものの無料低額診療事業を紹介。検査の結果、子宮筋腫、肝硬変、大動脈弁二尖弁など。他院を紹介されたが、本人は経済的理由で拒んだ。説得。その後生活保護申請にも行くことができ、今後の受診を考えていた矢先に心肺停止。救急搬送され死亡>〉
そのほか80代男性で生活保護基準の140%の年金収入があったものの、いくらかかるかわからないという医療費への不安があり受診控えでがんにより死亡したケースや、保険料が払えず無保険になった例もあった。
民医連事務局次長の山本淑子氏は「厚労省は『無保険はありません』と言いますが、手元に保険証がなく、資格証明書発行ですと窓口で10割負担ですから無保険状態と同じ」と指摘する。
「保険料を払っていなくて保険証をもっていないから自分は医療を受ける権利がないと我慢する。国保料そのものが高すぎて負担が重すぎて払えないのに、払わないんだからいけないんだという自己責任の風潮ですよね。だから手遅れを生んでしまう。また特にコロナ禍では会社勤めを辞めざるをえなくなって、国保にうまく移行できずに保険がない状態という人も一時期増えました」
たしかに私もコロナ禍での救急医療現場を密着取材していた際、所持金が8円で公的医療保険に加入していない40代男性を見かけた。お金がない、住むところがない、死にたいが死ねないと、その男性は救急車を呼んだのだ。決して許される行為ではないが、八方塞がりの状況に胸が痛くなった。
山本氏も医療現場で働くベテランのソーシャルワーカーに尋ねると、「どうしてこんなになるまで放っておいたの?」という人が少なくないという。
「経済的に困窮した結果、受診控えで病気が悪化しているというケースが目立ちます。私が毎年この調査をしていてつらいのは、爪に火をともすような生活のなか保険料を払って、保険証があるのに、窓口での負担が払えなくて我慢して重症化したり、死亡した事例を知る時です。なんのための保険証なんだろう。保険証があれば安心して、そして負担なく、医療にかかれるようにならないといけません」
(笹井 恵里子)
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