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「薬は体に毒だからね」「砂糖玉で病気が治るか!」父が“反医療”に染まってしまった…当事者が明かす、外からは見えない深刻な家族の問題

文春オンライン / 2024年12月24日 11時0分

「薬は体に毒だからね」「砂糖玉で病気が治るか!」父が“反医療”に染まってしまった…当事者が明かす、外からは見えない深刻な家族の問題

『うちは「問題」のある家族でした』菊池真理子(KADOKAWA)

 虐待、DV、ネグレクト……家族の中で起こる問題は、外からは見えづらいからこそ深刻になりやすく、助けを求めることも難しい。「毒親」という言葉が注目されてからは、そんな実態に対する理解も進んだが、依然として問題は起こり続けている。

 漫画家の菊池真理子さんも、問題を抱えた家庭で育った。アルコール依存症の父と宗教にハマった母のもとでの苦難の日々は『「神様」のいる家で育ちました』(文藝春秋)や『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)といった著作に描かれている。

 菊池さんは、毒親から生き延びたかつての子どもたちを取材しコミック化した『 毒親サバイバル 』(KADOKAWA)に続き、家族に問題を抱えた当事者10名に取材したノンフィクションコミック『 うちは「問題」のある家族でした 』(KADOKAWA)を上梓した。ここでは同書より1話を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/ コミック本編を読む )

◆◆◆

幼い頃は家族の抱える問題に気がつけない

――『うちは「問題」のある家族でした』刊行おめでとうございます。今作は家族に問題を抱えた当事者10名に取材した作品と伺っています。この作品が生まれるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

菊池真理子さん(以下、菊池) これまで、親との関係に悩む人の話を何冊か描いてきましたが、取材をするにつれ、親が悪いというだけでは片づかない問題が多いことに気がつきました。また当然ですが、家族のトラブルは親子間だけではありません。もっと広い視野で家族をとらえたら、新たに見えるものがあるのではないかと思ったことが、この作品を描くきっかけになりました。

――“貧困”の回で、明らかに貧しい家で暮らしているのに「自分と貧困が結びついていなかった」という主人公の子ども時代の描写がでてきますが、当事者ならではの視点や感じ方が描かれていてハッとなる場面が多々ありました。取材の中で、菊池さんの印象に残った当事者ならではの視点や考え方がありましたら、教えていただけますでしょうか。

菊池 生い立ちをうかがった方に共通していたのは、幼い頃は家族の抱える問題に気がつかなかったという点です。ほかの家庭を知らない子どもにとっては、親との暮らしこそが普通で、基準になることが、あらためてわかりました。だからこそ最後のエピソードのように、まわりの大人がアドボケイト(編注:支援者のこと)の役割を担っていかないといけないのだと思います。

きょうだい児、マルチ2世、陰謀論…それぞれが抱える「問題」

――最近話題にあがるようになったテーマもありました。その中のひとつ、障害や病気を持つ兄弟姉妹を抱える“きょうだい児”について、取材の印象や問題への菊池さんのご意見、また“きょうだい児”回の感想など教えていただけますでしょうか。

菊池 実は私の親しい友人もきょうだい児です。これまでパートナーに打ち明けるタイミングや、親亡き後の相談を受けてきましたが、うまく答えられませんでした。部外者である私が口を出すには、センシティブすぎると感じていたのです。けれどそれは言い訳で、たんに私は逃げていたのでしょう。マンガの中に「きょうだい児にもいろいろな人がいる」というセリフがありますが、やはり友人の思いも選択も、マンガとはまったく違います。私はただ、目の前の人の話に真摯に向き合えばよかったのだと、今回教えていただきました。

――マルチ商法に関わる親を持つ“マルチ2世”についても、取材の印象や問題への菊池さんのご意見、“マルチ2世”回の感想など教えていただけますでしょうか。

菊池 やはり“宗教2世”との共通点を強く感じました。親がおかしいと思っても、親のバックには巨大な団体があるので、子どもはどうしたって数で負けて追いつめられます。どんどん心の交流がはかれなくなっていく様も、まったく一緒でした。“宗教2世”と問題の構造は同じなのに、“マルチ2世”はメディアで取り上げられることも少なく、もっと社会問題化されるべきだと思っています。マルチビジネスそのものにも、法がきちんと介入してほしいところです。

――“陰謀論”の回は、コロナ禍という社会的に危機的状況に陥った中でクローズアップされた問題でした。この回の感想、また社会の問題が家庭に与える影響について菊池さんのご意見を伺いたいです。

菊池 いわゆる陰謀論者と言われる人たちは、コロナ禍であぶり出される前から、因子とでもいうべきものを持っていた方々なのかもしれません。未知のウィルスやワクチンに対しての恐怖はあってもおかしくありませんし、私もありました。けれどそこから行き過ぎてしまう人たちは、平たく言えばなんらかの「生きづらさ」を持っていたのではないでしょうか。今回はそんな顕著な例を描くことができたと思っています。

 一方、社会の側にも不安をあおるような言説やビジネスが溢れていますから、個人を責めるのも違うと感じます。「反医療」も同様ですが、陰謀論は今後、無視できない規模になっていくのではないでしょうか。社会の問題と家庭は切り離せないですし、悩む家族も増えることでしょう。

――今回題材となった9つの家族の問題、菊池さんが一番気になったのはどの問題だったでしょうか。感想、ご意見をお伺いしたいです。

菊池 みなさん貴重なお話を聞かせてくださいましたし、どれが一番と決めることはできません。ただDV回のこの結末は、ノンフィクションでは初めてではないでしょうか。

家族の問題は「家族だけで解決すべき問題」ではない

――今作の主人公たちは、様々な方法で問題と向き合い、乗り越えていきます。その向き合い方について、菊池さんのご感想、ご意見をお伺いさせてください。

菊池 家庭の状況は個々で違いますから、みなさんその中での正解となる道を選ばれているのだなと感じました。スッキリ問題解決の方ばかりではありませんが、混乱の状況からは抜け出して、進む方向は見定めておられるのでしょうね。

――取材内容を作品として描くときに気をつけたこと、また描くポイントなどを教えていただけますでしょうか。

菊池 それぞれの「問題」から遠いところにいる読者さんにも伝わるよう、わかりやすく描くということを心がけています。けれどそのために、お話をしてくださった方が大事にされているエピソードを削ったり、端折ったりしなくてはならず、心苦しい面もありました。数十年の人生を、たった16ページにまとめるわけですから。事実そのままは描けなくても、エッセンスだけはしっかり伝えようと工夫したつもりです。

――菊池さんが『うちは「問題」のある家族でした』で描きたかったことや今作に込めた想いを教えてください。

菊池 家族の問題は、家族だけで解決すべき問題ではないということが、一番描きたいことでした。

「きょうだい児」「貧困」「DV」「ギャンブル依存症」「ヤングケアラー」「児童虐待」については、社会には支援の体制があります。それでもうまく機能しないことが多いのは、人員や予算不足といった政治的な理由のほかに、社会の無理解や偏見が邪魔をしているせいでしょう。私たちが意識を変え、社会が成熟すれば、問題は問題ではなくなります。ひいては現在は対処しにくい「反医療」「マルチ2世」「陰謀論」といった問題にも、良い影響を与えられると思うのです。

――最後に、『うちは「問題」のある家族でした』を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。

菊池 9つのノンフィクションに登場する10人。みんな、あなたの友達だと思って読んでいただけたら、うれしいです。

(ナツメ ヤシコ)

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