「そんなことも知らないのか」部下女性への性的暴行で起訴された元大阪地検トップ(65)が女性記者に発揮していた“上から目線”の正体
文春オンライン / 2024年12月17日 7時0分
北川健太郎被告 ©共同通信社
大阪地検で検事を務めていたA子さんは、2018年9月の職場6人での懇親会で泥酔した際、上司の検事正だった北川健太郎被告(現弁護士)にタクシーで官舎に連れ込まれ、性的暴行を受けたと訴えている。6年間PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだA子さんがことしの春に検察上部に被害を打ち明けたことをきっかけに北川氏は逮捕され、準強制性交罪で起訴されている。
10月25日の大阪地裁での初公判では、北川被告は起訴事実を認め「被害者に深刻な被害を与え、深く反省し謝罪したい」と神妙に述べていた。
しかし12月10日、北川被告の主任弁護人である中村和洋弁護士が「無罪主張」に転じると発表。北川被告の考えとして以下のようなコメントを発表した。
「(起訴事実を認めたのは)事件関係者を含め、検察庁にこれ以上の迷惑をかけたくないという思いだった」「検察庁に対する組織批判により、このような方針が間違っていたのではないかと悩み、自らの記憶と認識に従って主張することにした」
さらに「北川さんにはA子さんが抗拒不能(抵抗できない)だった認識はなく、同意があったと思っていた。(A子さんが)抗拒不能な状況だったかどうかは疑わしく、被告に故意はなかったので無罪です」と説明した。
中村和洋弁護士は検察官出身で、「プレサンス事件」という有名な冤罪事件で無罪を勝ち取った腕利き弁護士である。
これを知って衝撃を受けたA子さんは11日、大阪市内で3時間に及ぶ記者会見を開き、「(初公判は)芝居だったのでしょうか」と怒りをあらわにした。
「『そんなことも知らないのか』とよく叱責されました」
「関西検察のエース」とまで崇められた北川被告はどういう人物だったのか。
司法担当時代から彼をよく知る女性記者から話を聞くことができた。
「北川被告は大の日本酒好きで、日本酒飲み放題の居酒屋などによく行きました。いつも1次会では終わらず、2次会のカラオケまで。言葉使いは乱暴で『そんなんじゃ取材できないぞ』『そんなことも知らないのか』とよく叱責されました。ただ上から目線で横柄な印象はありましたが、セクハラっぽい言動の記憶はなかったため、逮捕された時は驚きました」
北川被告はよくまっすぐ歩けなくなるほど飲み、そういう時は女性記者が自宅まで車で送ることもあったが、セクハラの記憶はないという。
「私は何もされませんでしたが、大阪地検に赴任する前には女性記者に対してセクハラをしたという噂がありました」
北川被告は検察を退官した後、大阪府警が手がける事件の弁護人などをしていたが、そこでも古巣への“気遣い”をしていたという。
「容疑者が容疑を否認している場合は依頼を受けないと言っていました。理由は『検察と闘うような事件は受けない。真っ向勝負は嫌だから』。検察組織への愛着は強そうでした」(女性記者)
被害を主張するA子さんは11日の会見で、北川被告だけでなく「もう1人のキーマン」に対しても怒りを爆発させた。歩けなくなったA子さんを北川被告と2人でタクシーに乗せた女性副検事だ。
A子さんによればこの女性副検事は、A子さんが弁護士である北川被告に検察側の捜査情報を漏らしたり、今回の被害の訴えが嘘ではないかという噂を職場で広めたりしたという。A子さんは女性副検事を国家公務員法違反や名誉毀損などの疑いで大阪高等検察庁に刑事告訴・告発し、受理されている。
A子さんと副検事はもともと「ランチもする仲」だったが、「副検事に貶められるような原因で思い当たることは?」と筆者が尋ねてもA子さんも理由がわからないようだった。
「北川被告は自分の人脈を自慢するタイプで、退官後も現役検事らと飲んでいることや、検察に大きな影響力があることを誇っていました。記者界隈では、女性副検事がA子さんを批判したのは、北川被告への援護射撃だったのではと言われています」
「私は検事です。検事として正しいことを貫きたい」
A子さんは会見で、告発に踏み切るまでのためらいと現在の心境を改めて語った。
「痛みをこらえながら、自分一人で抱えて我慢すればよかった。そうすれば、家族を苦しめることもなく、検事としてのキャリアを失わずに済んだ。一生懸命仕事をしている職員に、悲しい思いをさせることもなかった。信じていた同僚から裏切られ、信じていた元上司らから誹謗中傷され、検事総長らから疎まれることもなかった。私は自分の恥を晒しただけで、大切なものを全て失ってしまった」
そして最後に「私は検事です。検事として正しいことを貫きたい」と決意を新たにしていた。
検察官らしく、法的な枠組みなどを理路整然とした口調だったが、最後に代理人がSNSなどで寄せられた励ましの言葉を紹介すると再び涙があふれ、タオルで顔を覆った。
この事件は裁判員裁判に付されるが、A子さんは被害者参加制度を利用し、法廷で北川被告に直接質問することを求めているという。
(粟野 仁雄)
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