“生稲晃子議員の靖国参拝報道”はオールドメディアの敗北か? 他社の記者のLINEを鵜吞みにする「マヌケすぎるミス」の後に、共同通信が守った“最後の一線”とは
文春オンライン / 2024年12月17日 6時0分
生稲晃子外務政務官 ©時事通信社
韓国が注目されている。「非常戒厳」を出した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する2度目の弾劾訴追案が12月14日に韓国国会で可決された。
今回のニュースで注目したのは「民主主義」という言葉だ。為政者が暴走したときに政治はもちろん、メディアも市民社会も声をあげることができるか。長い軍事独裁政権から1987年に民主化を勝ち取った韓国は『市民の怒り、政治動かす』(東京新聞12月15日)というようにまさに“民が主役の民主主義”を見せつけたことになる。
2年前の記事がなぜ誤報だとわかったのか
さて、韓国の話題といえば少し前に日本でも大きな問題があった。こちらだ。
『共同通信「“生稲氏が靖国参拝”は誤った報道」訂正しおわび』(NHK11月26日)
共同通信は、生稲晃子外務政務官(当時の肩書は参院議員)が2022年8月に靖国神社を参拝したと国内外に配信した記事について、「生稲氏は参拝しておらず誤った報道だった」と訂正した。つまり誤報だったのである。
2年前の記事がなぜ誤報だとわかったのか。発端はこの動きだ。
『韓国、佐渡金山労働者の追悼式典に不参加表明…生稲晃子政務官の出席に反発か』(読売新聞オンライン11月24日)
生稲氏の“靖国参拝”を韓国側が問題視
韓国外交省は今年7月に国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録された「佐渡島の金山」をめぐり、佐渡市で行われる朝鮮半島出身者を含む労働者の追悼式典への不参加を表明した。日本政府代表の生稲外務政務官が過去に靖国神社に参拝していたと報じられたことなどが理由とされた。
《生稲氏の靖国参拝は2022年当時に一部の日本メディアが報道。今回の追悼行事への参加が発表された後、韓国メディアが相次いで報じ、韓国内で生稲氏の出席を問題視する声が出ていた。》(朝日新聞デジタル11月24日)
外務政務官に就任したばかりの生稲晃子氏の存在がいきなり注目されたのである。 東スポは騒ぎを見て、一面で次のように伝えた(11月25日発売分)。
お粗末すぎる誤報の顛末
『生稲 右翼扱いされていた』
独特すぎる見出しである。東スポは「永田町関係者」の声として、「保守派からは評価する声が出ている。外務政務官就任に批判のある生稲氏にとっては保守を打ち出していくのもいいかもしれません」という言葉を紹介。生稲氏にとっては「むしろチャンスかもしれない」と記事を結んでいた。ただ、気になったのはこの話題が出てから生稲氏は靖国参拝を否定していたことだ。
すると、東スポが「生稲右翼扱い」と書いた夜に事態は急転する。共同通信は「正しくは生稲氏は参拝しておらず誤った報道でした」と加盟社に訂正記事を配信したのだ。
なぜこんな誤報が起きたのか。訂正記事を読むと当時の取材過程について述べていた。「靖国神社への国会議員の出入りを取材する過程で生稲氏が境内に入るのを見たとの報告があったが、本人に直接の確認取材をしないまま記事化したと分かった」のだという。
もっとわかりやすく説明するとこうなる。
『 共同通信「生稲晃子が靖国参拝」誤報はライバル・時事通信社の記者がきっかけだった《内部資料入手》 』(週刊文春電子版11月29日)
マヌケで前代未聞の「取材過程」
週刊文春の記事によれば、「当日、手分けして靖国神社の取材にあたっていた時事通信社の記者が、生稲氏が参拝に来たとグループLINEで連絡。それをそのまま記事化してしまった」というのだ。
つまり共同通信の記者は目視を誤ったわけですらなく、LINEにきた他社記者の情報に反応してそのまま記事にしてしまったのだ。生稲氏本人に確認をすることもしなかった(皮肉なことに時事通信は生稲参拝を記事にしなかった)。
この問題が発覚したのは兵庫県知事選が終わって間もなくの頃だ。斎藤元彦氏の当選に沸く人々の間で「SNSの勝利であり、オールドメディアの敗北」と言われていたときである。共同通信の誤報でそれ見たことかという反応もSNSで見られた。たしかにマヌケで前代未聞の「取材過程」であった。信じられないミスである。
「オールドメディア」の宿命
そうして呆れる一方で、次のことも再確認した。裏付けを取っていない、確認していないことがこれだけ大問題になるのだ。これが「オールドメディア」の宿命なのだ。基本なのである。もう一つ大事な点は、誤報とわかったら訂正と謝罪を出す。これも今回確認したことだ。メディアも人も間違える。だから、間違いがわかったあとの対応が大事となる。
しかし“誤報のあと”の差を感じてしまうのが兵庫県知事選後の現在だ。あの選挙では真偽不明の情報がネットに出回り、結果として斎藤氏の当選に影響を与えたという分析が多くあった。それらの情報発信者や媒体は責任を問われたのだろうか。
今後は「誤報」以上のものとも対峙しなければならない
選挙後に朝日新聞は社説で立花孝志氏の名を挙げ、「何より、誹謗中傷や事実と異なる情報の流通をどう防ぐか」と書いた。立花氏は12月12日号の「週刊文春」で記者の質問に対し、選挙期間中の言動の数々をあっさりと翻している。こうなると今後は「誤報」以上のものとも対峙しなければいけないことになる。
私はここまであえて「オールドメディア」という言葉を使ってきたが、SNS対オールドメディアという対立軸では何も見えなくなる。デマを飛ばして平気な顔をする媒体・人物なのか、できるだけ取材をして裏付けを取り、間違えたら訂正・謝罪する媒体・人物なのか。この点も重要ではないか。
ひどすぎた共同通信の騒動を見たからこそ「伝えること」の意味を考えたいのである。
(プチ鹿島)
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