女性教師(29)を殺害して時効まで逃げ切った男の“唯一の誤算” 遺族が起こした1億8000万円の損害賠償請求に、裁判所がまさかの決断「著しく正義に反する」――2024年読まれた記事
文春オンライン / 2025年1月5日 6時0分
写真はイメージです ©AFLO
2024年、文春オンラインで反響の大きかった記事を発表します。事件部門の第4位は、こちら!(初公開日 2024/08/23)。
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足立区の小学校教諭・石川千佳子さん(当時29歳)が行方不明になってから26年。彼女を殺害した男が名乗り出て、石川さんの遺体も発見された。しかし、すでに公訴時効が成立しており、男を殺人罪で起訴することはできない。このままでは犯人の逃げ得となる可能性もあったが……。
石川さんの遺族は黙って泣き寝入りすることはなかった。男に対して逸失利益等及び原告らの慰謝料等の支払を求め、請求総額およそ1億8000万円の民事訴訟を起こしたのである。補償金が欲しいわけではない、あくまで男に社会的な制裁を与えることを求めた決断だったろう。
「殺人」の損害賠償が地裁では認められなかったが、高裁で一転
不法行為(殺害)に基づく損害賠償請求権は20年で消失するものだが、その20年をいつから起算するかが裁判では焦点となった。男が石川さんを殺害し、死体を遺棄した時点から計算すれば、26年も「過去の出来事」であるから、請求権は消失していることになる。だが、死体遺棄が「(自首するまで)現在進行形で隠し続けてきた出来事」と考えたら?
1審の東京地裁では、「殺人」は民事上でも排斥期間が経過(=時効)しているものとし、「遺体の隠匿」についての責任は認定され慰謝料330万円の賠償が命じられた。
しかし、二審の東京高裁では一審を棄却。「殺人」についても認め、4225万円の支払いを命じる判決が下された。この裁判は最終的に最高裁まで争われ、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は「被害者の死亡を知り得ない状況を、加害者があえて作り出して二十年が経過した場合、遺族が一切の権利行使を許されないのは、著しく正義・公平の理念に反する」と指摘。
「被害者の死亡を隠し続けた加害者が賠償義務を免れるのは、著しく正義に反する」として、男の上告を棄却した。
自分には何の罰も加えられないとタカをくくって自首したはずが…
石川さんの遺族は、殺害されたことを知らず、26年にわたって行方不明者として捜索していた。男が自宅の床下に掘った穴に埋めて死体を隠匿したため、遺族は石川さん死亡の事実を知ることができず、損害賠償請求権を行使する機会がないまま本件殺害行為から20年が経過した……ということである。
公訴時効の成立や民法の排斥期間を知っていた男は、自分には何の罰も加えられないとタカをくくって自首したことだろう。この裁判結果は、まさしく青天の霹靂であっただろう。
そもそも男が警察に出頭したのは、良心の呵責に耐えかねたとか、自責の念に苛まれたなどといった殊勝な理由からではなく、あくまで道路拡張工事という外的な要因によって、自宅の立ち退きを迫られ、やむなく自己保身のために自首したからだ。自責の念があれば、もっと早く自首して罪を償っていたはずである。
区画整理という日常的に起こり得る出来事が、26年もの長きにわたる“未解決事件”の真相を明るみに出した。もし区画整理の計画がなければ、いまだに事件は闇の中、未解決事件として処理されていたのかもしれない。
偶然が“未解決事件”を解決に導くことも、あるのだ。
(加山 竜司)
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