「成長スピードは尋常じゃない…」生成AI、核融合のトップ起業家アルトマン(39)はジョブズやマスクを超えられるか
文春オンライン / 2025年1月4日 7時0分
写真はイメージ ©︎AFLO
古くはトーマス・エジソンから、スティーブ・ジョブズに、イーロン・マスクまで……。近代の歴史には、テクノロジーで時代を作り変えた起業家たちがいる。
今、そうした系譜において、最前線に立っている人物は、間違いなくサム・アルトマン(39)だろう。彼が率いるOpenAI(オープンエーアイ)は、2022年に生成AI(人工知能)の「ChatGPT(チャットジーピーテイー)」で世界中を衝撃の渦に巻き込むと、その後も画像や音声、動画と能力を拡張し、「生成AI革命」の先頭をひた走っている。
アルトマンの「真髄」
すでに最新の生成モデルの「o1(オーワン)」では数学オリンピックの問題を8割以上も解けるレベルに進化し、コンピューターのプログラミング、宇宙物理、有機化学でも博士号レベルの能力を叩き出すまでになった。アルトマンは9月、「人類は(人間を超える超知性を)数千日後には手に入れるかもしれない」とまで断言してしまっている。
アルトマンは、優れたビジネスパーソンでもある。この2年、生成AIに巨額の資金が集まるなかでも、OpenAIだけはスケールが別格だ。ちょうど10月には、日本のソフトバンクグループを含む投資家群から約1兆円を調達し、創業わずか10年未満で評価額は約23兆円に達した。この額を超えるスタートアップは、マスクのスペースXのみで、日本の全上場企業を見渡しても、トヨタ1社しかない。
これら事実を並べるだけで、アルトマンがトップ起業家の一人であることは十分伝わるだろう。ただ、実のところ、彼の「真髄」は、その製品や資金では見えてこないところにある。
それは、一言でいえば、一社でヒットを産み出すだけでなく、時代ごと書き換えてしまうような「未来予知能力」を持っていることだ。そして、その点こそが、彼が、冒頭に挙げたジョブズやマスクら「歴史的なイノベーター」の系譜に名を連ねんとしている要因といえる。
そのキーワードは、「AGI(汎用人工知能)」だ。これは人類の知性を超えるレベルの知能を意味しており、アルトマンが2015年、マスクらとOpenAIを創業した際も、その「人間レベルのAIの誕生」を念頭に置いた声明文を出していた。
アルトマンに見えていた未来
当時はあまり注目されていなかったその予言は、実際この10年で現実味を大きく増しているわけだが、アルトマンが人並み外れているのは、その未来が当然やってくる前提で、いくつも具体的な手を打っていることである。
その筆頭が、核融合スタートアップへの投資だ。アルトマンは、OpenAIを創業する前の2014年から、この企業への投資に関わり、その後、個人で500億円以上を注ぎ込んでいる。その大きな理由は、「AGIの時代には、尋常じゃない量のエネルギーが必要になる」という未来が明確に見えていたことにある。
実際、ChatGPTとの対話は、グーグル検索の10倍の電力が必要とされ、今や長年停滞していたアメリカの電力需要が、AIブームを背景に反転し、今後5年間毎年9%伸びるとみられている。まさにアルトマンの予言が当たった形だ。
ほかにも、アルトマンは、AIが人間の雇用を奪う未来を念頭に、市民に無条件で月約15万円の現金給付を行う「ベーシック・インカム」の社会実験も3年にわたり実施し、報告書を出したばかりだ。
強烈なビジョンが仇にも
ジョブズがiPhoneという製品にとどまらず、「モバイルテクノロジー」で人々の生活を一変させたように、またマスクが電気自動車(EV)にとどまらず「炭化水素経済から太陽光電気経済へのシフト」を掲げて動いたように、アルトマンは「AGI」を軸に、未来自体を作り出そうとしているようにみえる。
ただ、アルトマンが、先述の起業家たちと共通しているのは、実は、こうしたポジティブなビジョンだけではない。そのビジョンが強烈すぎるあまりか、周りに多くの「犠牲」を強いていることも似通ってしまっている。
2023年11月、OpenAIでクーデターが発生し、アルトマンは一時的に追放された。その後、復帰したものの、そのドラマは、同じくアップルを一時追放されたジョブズを彷彿とさせた。
しかも、今年に入り、OpenAIでは人材の大量流出が続いている。苦楽をともにした側近幹部が何人も退職しており、11人いた共同創業者は、アルトマンを含め、わずか3人が残るだけになった。そのうちの一人だったマスクとは今や訴訟沙汰になってしまっている。
現状では、社内崩壊などは伝えられていないものの、アルトマンの強烈な経営スタイルや、AIの安全性軽視、ビジネス重視路線への転換(もともとは非営利の研究機関だった)などが、大量離脱の背景として報じられている。
急激な成長のなかで伴う痛み
同時に、生成AIをめぐる競争も苛烈になっている。ライバルのグーグルに、マスクが立ち上げたxAIなど、競合のAI企業から優れたAI製品が出ているのも事実で、OpenAIは必ずしも「1強」とはいえない状況になった。
ほんの1年前まで「AIの伝道師」として世界各国の首脳を行脚していたアルトマン自身もあまり表舞台に顔を見せなくなり、その勢いにも陰りが見える。
「急成長の一環だととらえています。成長スピードは尋常じゃないです」
OpenAIの日本法人社長は、NewsPicksの取材に対し、直近の変化についてこう答えているが、急激な成長のなかで痛みが伴っているのは間違いないだろう。
しかし一方で、ソフトバンクの孫正義社長が直近で最新モデル「o1」を「ノーベル賞級」と評したように、今も図抜けた最先端のAIがOpenAIから産まれているのもまた紛れもない事実だ。
アルトマンが、ジョブズやマスクと並び、超えられるのか――。2025年はその試金石の年となるだろう。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。
(森川 潤/ノンフィクション出版)
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