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目利き書店員が太鼓判…絶対読むべき2024年の歴史時代小説大賞が決定!

文春オンライン / 2024年12月21日 6時0分

目利き書店員が太鼓判…絶対読むべき2024年の歴史時代小説大賞が決定!

今年いちばん面白かった作品を決める恒例企画。2024年の受賞作は?

選考委員は、目利き書店員として名高い、栗澤順一さん(さわや書店 外商部兼商品管理部)、北川恭子さん(旭屋書店 アトレヴィ大塚店)、久田かおりさん(精文館書店 中島新町店)です。

◆◆◆

 ――書店員のみなさんが「いちばん売りたい時代小説」を決める本屋が選ぶ時代小説大賞も今回で14回目を迎えました。

 それぞれ書店の店頭のご様子や、書店を取り巻く環境はこの1年でどの様に変化したでしょうか?

 栗澤 ニューヨーク・タイムズ紙の「2023年に行くべき52カ所」の第2番目に「盛岡市」が選ばれた効果もあり、今年は外国人観光客が多く見受けられました。盛岡名物のわんこそばのお店や、地元でも有名な古書店が紹介されたことで人の往来が増えたのは確かです。書店文化が根付いている街として紹介され、私の勤務するさわや書店でもそれをいかに活用して本の売り上げに結び付けるのか、日々頭を悩ませています。

 久田 精文館書店中島新町店は、もともとコミックの売り上げが強い店舗なので、ゾーニングを変更したりしてテコ入れし続けています。昨今は、活字離れもあり、月刊誌や週刊誌など雑誌売り上げが苦戦していますが、店舗の新しい試みとしては、「ガンプラ」(「機動戦士ガンダム」シリーズに登場するロボットなどを立体化したプラモデル)を取り扱うようになりました。「本屋さんでガンプラ?」と思われるかもしれませんが、恐ろしいくらいに売り上げがあります。

 北川 旭屋書店アトレヴィ大塚店も外国からの観光客が多く、コミックをお土産代わりに購入していかれます。文芸書や文庫も健闘していますが、特に時代小説を心待ちにされているお客様が多い印象です。駅ビルの中という場所柄、お子様連れのお客さまも多く来店してくださいますので、児童書やそれに関連したイベントを日々企画しております。

 ――ありがとうございました。では、いよいよ時代小説大賞の選考を始めさせていただきます。

 候補作を選ぶにあたっては、まず歴史時代小説に詳しい文芸評論家の大矢博子さん、末國善己さん、細谷正充さんの3名に、今年度(2023年10月から2024年8月まで)のベスト10を選定いただきました。その中で複数の推薦がございました次の作品を候補といたしました。

 『佐渡絢爛』赤神諒(徳間書店)
 『 海を破る者 』今村翔吾(文藝春秋)
 『惣十郎浮世始末』木内昇(中央公論新社)
 『万両役者の扇』蝉谷めぐ実(新潮社)
 『茨鬼 悪名奉行茨木理兵衛』吉森大祐(中央公論新社)

 今年も、バラエティ豊かな5作品が揃いました。では早速、それぞれの作品の魅力や評価をお伺いしたいと思います。

『万両役者の扇』蝉谷めぐ実

 ――デビュー作以来、芝居の世界を描き続けている蝉谷さん。今作も芸のためならどんなことにも手を染める江戸森田座の役者・今村扇五郎を中心に、彼の贔屓たちの視点で、役者とその崇拝者たちの狂気を活写した一作です。

 蝉谷さんは、第11回『化け者心中』(KADOKAWA)以来2回目のノミネートとなります。

 栗澤 江戸時代の演劇の世界を舞台に据えた作品ということで、永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』(新潮社)を思い浮かべました。話の作りとしても共通点があるように思いました。芸の狂気は迫力がありますが、作中の「犬饅頭」という章で、登場人物である茂吉という男が狂気にはしる過程には、個人的に物足りなさを感じてしまいすっきりしなかった印象があります。

 北川 この作品のおどろおどろしさに打ちのめされました。芝居に魅せられ、主人公である扇五郎に飲み込まれて人生を狂わされてしまった人々の話ですが、中でも特に、舞台で使用する血のために、本物の犬を殺して血を集める扇五郎と彼を支える女房お栄の狂気や、その描写に迫力を感じました。扇五郎の死の真相が語られるラストも読みどころではないでしょうか。

 久田 これまでも『化け者心中』や『おんなの女房』(KADOKAWA)で江戸の芝居というニッチなところを書かれていて、江戸+芝居のジャンルといえば蝉谷さんと言ってもいいくらい活躍されてますよね。ですが、先の2作に比べると、今作はやや「江戸の芝居」の魅力が薄かった気がします。芝居や演じることを極めていく話よりも、狂気の話に重きがおかれてしまった。それによって読者を選ぶ作品になったのではという印象です。とはいえ、一世一代の最期の大芝居を打つラストの展開は、私も大好きです。

『茨鬼 悪名奉行茨木理兵衛』吉森大祐

 ――2017年に小説現代長編新人賞を受賞されデビューされた吉森大祐さん。今作は、江戸後期、財政破綻状態の伊勢32万石の藤堂家で藩主から藩政改革を任せられた若き下級武士の茨木理兵衛が主人公。彼が行った改革と立ちはだかる現実の壁とは? 歴史の中に埋もれた知られざる偉人譚です。

 吉森さんは初ノミネートです。

 北川 主人公、茨木理兵衛の目から鼻へ抜けるような賢さも読みどころですが、なにより藩政改革のため、正論を推し進めていくのにそれが理解されずに多くの敵を作ってしまう彼のつらい生き様が胸に染みる小説でした。理兵衛は生まれてくる時代が早すぎたのでしょうね。彼のことを理解して支える妻と義兄の心の温かさは物語の中でとても救いとなっています。ゆるがない信念、意思の強さを本作から学びました。

 栗澤 しっかりと組み立てられた物語でした。ただ史実をベースにしているだけにどうしても後半からラストにかけて、理兵衛が実行しようとしていた改革の動きを追うだけの物語になり、やや単調になった印象です。フィクションでもいいので別なキャラクターを用意して、物語に少し変化を出すような新たな試みがあったら物語により深みが増したのではと思いました。

 久田 時代“経済”小説、時代“政治”小説と言ってもいいですね。理兵衛の推し進めていく改革は、良いも悪いも含めて現代社会でもお手本となるのではと思いました。改革とそれに対する抵抗を描いている点で、それこそ会社員の必読図書にするといいかもしれない。情よりも知に走っていく理兵衛という人物を書くためには、淡々と一歩引いた描写は効果的だったと思います。ですが、その反面、武士が主人公の時代小説の醍醐味である、血湧き肉躍る描写の楽しみは味わえなかったかもしれません。でも、政治家のみなさんにはぜひともお読みいただきたい(笑)。

『海を破る者』今村翔吾

 ――かつては源頼朝から「源、北条に次ぐ」と言われた伊予の名門・河野家。しかし、一族の内紛により、見る影もなく没落していた。そんな折、海の向こうから元が侵攻してくるという知らせが……。アジア大陸最強の帝国の侵略を退けた立役者・河野通有が対峙する一族相克の葛藤と活躍を描く大河小説です。

 今村さんは、第12回『幸村を討て』(中央公論新社)に次ぐ5回目のノミネートです。

 北川 一族間の骨肉の争いがあって、人を信じることができなくなっていた河野六郎通有。この人物を見つけてきたことがまずすごいし、さらに彼のまわりに人買いから買い受けた西域出身の奴隷であった令那と、高麗の農民出の同じく元奴隷の繁を配置したのも見事。彼らとの交流を通して六郎が外の世界に目を向けるようになるその描き方が素晴らしかったです。やがて没落していた河野家を盛り立てて、一丸となり元を迎え撃つべく九州に向かっていくのですが、彼自身の力ではこの愚かな戦を止めることは出来ない、けれども一人でも多くの人を救うのが河野の戦、自分の役目だと奮闘する様は、まるで大作映画を見ているよう。目の前に映像が浮かんできました。六郎の人柄の良さといいますか、今村さんがつくり上げたキャラクターに共感しました。

 久田 今村さんの小説の良さって、歴史の隙間に落ち込んでいる名もなき者、弱き者たちに光を当てて掬い上げ、その生き様を見せてくれるところにありますよね。胸が熱くなる小説を読ませてくれる作家なんです。戦と平和という相反するものを改めて考えさせられる展開でした。物語を読んでもらえばわかるのですが、河野六郎という人物は、鎌倉時代の杉原千畝じゃなかろうかと私は思いました。一遍上人が要所要所で出てきますが、もう少し物語に絡んでいくのかと思いきやそうでもなかった点は、少し物足りなさが残ったかもしれません。

 栗澤 この物語の大きなテーマは、恐らく《他者を理解する》ということだと思って読みました。身近な所でいざこざばかり起こしている伯父の通時との関係性であったり、元奴隷の令那と繁という登場人物を周囲に立てることで、異国の人たちとも歩み寄って理解し合えば、分かり合えるというテーマが浮かび上がってくる。人間の力で必ずや愚かな争いは避けられるはずだ――そういう著者のメッセージがあると思うんです。大変読み応えのある小説でした。

『佐渡絢爛』赤神諒

 ――元禄の世、金銀産出の激減に苦しむ佐渡で、立て続けに怪事件が起こる。消えた千両箱、落盤事故、能舞台の斬死体……。江戸から来た奉行の荻原重秀と、広間役として先に佐渡に入っていた間瀬吉大夫は、助手の与右衛門とともに事件の真相解明に動くが――。佐渡金銀山に隠された恐るべき秘密とは?

 赤神さんは、第12回『はぐれ鴉』(集英社)以来2回目のノミネートです。

 久田 佐渡の金銀は有名だけど、実は知らないことって多いですよね。今回この小説を読んで、鉱山に根付いた文化や佐渡の豊かさに驚かされました。また登場人物たちがとても魅力的で、誰も彼もみんな大好きって思った作品です。推しを見つけて盛り上がれる濃厚な時代ミステリーでしたね。あえて物足りなさを挙げるとすると、金山、銀山を掘る穿子たちの過酷さとか苦しさがあまり描かれていなかった点でしょうか。

 北川 ミステリー仕立てで面白く読みました。久田さんが仰る通り、登場人物、特に吉大夫の人柄が魅力的ですね。グウタラで遊郭に入り浸っていても実はそこで書類を読み漁っていたり、人の気持ちにも聡く優しかったり、表と裏の顔を持つギャップに惹かれました。著者の佐渡への愛も伝わってきますね。

 栗澤 今、お二方からもお話が出てましたけれども、キャラクター造形が本当に見事です。あちこちで問題を請け負っても最後にさらっと解決してしまう吉大夫の魅力。こういう男になりたいものだと感じました。物語としては、謎解きが主軸だと思うんですけれど、その大きな柱があるにもかかわらず、物語の中心はあくまでも人。どこまでも人間の魅力を描いていて、謎はエッセンスにすぎないところが大変巧みだなと思って読みました。謎解きあり、青春あり、恋愛あり、チャンバラあり。時代小説がお好きなお客様には間違いなくおすすめできる一冊です。

『惣十郎浮世始末』木内昇

 ――時は天保の改革の頃、疱瘡が流行し、改革で幕府の政の柱も揺らぐ中、浅草の薬種問屋で火事が起きた。焼け跡から二体の骸が見つかり、北町奉行所の定町廻同心、惣十郎は配下の佐吉や岡っ引きの完治らと調べに乗り出す。犯人を捕らえたが、黒幕の存在が明らかになり――。著者が新たな地平を開いた捕物帳です。

 木内さんは、初ノミネートです。

 栗澤 1回読み終えて余韻が残り、読み直してさらにその余韻が深まり、木内さんは心情の機微を描くのが非常に上手い作家だと改めて思いました。人間の感情って単純には割り切れない。思うままにはいかないよということがそのまま描かれているんです。たとえば、主人公の惣十郎には奥さんだった郁とは別に想い人がいた。お手伝いに来ているお雅は、実は惣十郎に恋心を寄せている。こういうままならない関係性の描き方はもうお見事としか言えません。時代小説が初めてというお客様にも安心しておすすめできる一冊です。

 北川 今までの同心のイメージとはまた違った人情深い主人公が魅力でした。

人間という生き物はどこか弱いところを持っており、ついつい魔が差して罪を犯してしまうということがある。その気持ちをどう抑えていくのかとしみじみ考えさせられました。はやくも続きが読みたい作品です。シリーズ化も希望です。

 久田 捕物帳の主役は基本的にかっこいい人が多いですよね。剣の腕も立ち、鋭いひらめきで手下を自在に使って事件を解決に導く。けれども本書の主人公は、下手人を捕まえた後に上役や仕事の愚痴を言ったり、事務手続きの一切を面倒くさがったり、いままでの捕物帳の主人公からどこか外れているのに、キャラクターとして魅力があふれていて面白かった。読み心地がとにかく素晴らしい作品なので、面白い時代小説をお求めのお客様にはおすすめしやすい一冊です。

今年の本屋が選ぶ時代小説大賞は

 ――みなさまから熱いご意見を伺ってまいりましたが、議論に議論を重ねた最終投票の結果、第14回本屋が選ぶ時代小説大賞は、赤神諒さんの『佐渡絢爛』に決定いたしました。誠にありがとうございます。

 一同 (拍手)

 

 ――議論をしていただいた作品以外にも2024年で印象に残っている作品はございますか?

 栗澤 地元、盛岡で活躍されている作家の大平しおりさんの『大江戸ぱん屋事始』(角川文庫)です。理不尽な理由で勤め先の油問屋をクビになった主人公の喜助が、友人に付き添って向かった長崎でパンの作り方を学んで、江戸でパン屋を始めるっていう物語なんですよ。もともとライトノベルを書かれていた作家さんですが、新たな時代小説の書き手として地元から応援していきたいです。

 北川 畠中恵さんの大人気「しゃばけ」シリーズの最新作『なぞとき』(新潮社)が面白かったですね。江戸有数の薬種問屋の一粒種・一太郎は、めっぽう体が弱いのですが、あやかしとともに様々な騒動に巻き込まれながら成長していく。今回も安定の面白さで楽しめました。

 久田 白蔵盈太さんの『実は、拙者は。』(双葉文庫)が面白かったです。棒手振りの八五郎という平凡かつ地味な男が主人公で、人並み外れた影の薄さが悩みだけど、独り身ゆえの気楽な貧乏暮らしを謳歌してもいる。そんな彼がある事件に遭遇して、「実は」、「実は」っていろんな人の秘密がどんどん明かされていくって話なんですけど、時代小説を読まない若い世代にもウケるんじゃないかなと思います。実際にライトノベルの近くで展開していたのですが、よく動きましたね。時代小説にはどうしても難しいイメージが付き物ですが、肩肘張らずに読める作品も沢山あります。そうした作品も広めていけたらと思っています。

(「オール讀物」編集部/オール讀物 2024年11・12月号)

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