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165cm、30kgのヒト型ロボットもすでに導入間近…AI&ロボット開発から取り残された“ドラえもんの国”日本は挽回できるか

文春オンライン / 2025年1月1日 11時0分

165cm、30kgのヒト型ロボットもすでに導入間近…AI&ロボット開発から取り残された“ドラえもんの国”日本は挽回できるか

©時事通信社

 家庭で使うロボットはこれまで何か一つの単純作業を行う特化型ばかりだった。掃除なら掃除、芝刈りなら芝刈り、荷物の運搬なら運搬しかできなかった。しかし今、掃除に加えて、ドアを開け閉めしながら家中を動き回って片付けたり、洗濯物を取り入れて畳んだり、料理をしたり、といった複雑な作業を1台でこなす汎用型ロボットが開発されつつある。

 その起爆剤がChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)だ。正確にはLLMを作るのに使われるトランスフォーマーと呼ばれるAI技術である。これは大量のデータを効率的に統計処理してパターンを整理できるように考えられた骨組みのようなものだ。そこに膨大なテキストを投入し、いわば肉づけすることで、文章の続きを書いたり、翻訳をしたりするのに長けたLLMができる。OpenAIのChatGPTのほか、GoogleのGemini、AnthropicのClaudeなどLLMは数あれど、その土台は2017年にGoogleの研究者らが発表したトランスフォーマーである。

問題はどれほど複雑なタスクをロボットにさせられるか

 これをロボットに応用するといっても流暢に人と対話させるためではない。もちろんそれも可能だが、真の狙いは動作の生成にある。トランスフォーマーはテキストの他、画像、各種センサーのデータも扱える。周囲の環境に関する画像や、動作に関するデータをインプットして、トランスフォーマーをベースとする動作モデルを作れば、文章や画像を生成するように、動作を生成することだってできる。アームの各関節を何度回転させ、グリッパー(ロボットハンド)を、どの程度の力で動かして対象物を掴むのかに関する命令文を、モデルが生成してロボットを動かすのだ。

 問題はどれほど複雑なタスクをロボットにさせられるかだ。LLMの場合は、Webのテキストを与えれば与えるほど的確な推論力、豊かな表現力を獲得させることができた。ロボットでも同じ物量作戦が通用するのか。

 この問いに答えたのがGoogleらが立ち上げたOpen X-Embodimentプロジェクトだ。世界中の研究機関から提供してもらった、人間によるロボットの遠隔操作データやカメラ画像で、トランスフォーマーをベースとするモデルを作る試みである。

 2023年10月に発表された論文によれば、このプロジェクトで集まった約4.4テラバイトものデータにより作成されたモデル「RT-X」は、フォーク、スプーン、ナイフなどの食器、リンゴ、オレンジ、バナナなどの果物の他、各種の容器、家具、家電を認識して、「引き出しを開け、リンゴを掴んで取り出し、テーブルに置く」という操作などができたという。さらにモデルの学習データに含まれない物体もある程度適切に扱えるようにもなっていた。データの量や種類が多いほど、ロボットの推論力や問題解決力を向上させられる可能性が示されたのだ。

 興味深いのは、RT-Xが複数の種類(論文では9種類)のロボットに適用できたことだ。メーカーが異なるPCやスマホでも同じOSで操作できるような互換性がある程度RT-Xにも備わっていると言える。ロボットはこれまでその形状や機構に合わせ、将来遭遇しうる状況に対応すべく開発者がプログラムして動かす必要があった。

 従来のロボットが限られた環境で、限られたタスクしかできなかったのは、あらゆる形状、機構、状況をあらかじめ想定してプログラムすることが不可能だったからだ。雑多なものが置かれ、それらの位置や状況などが変化する家の中は、ロボットが特に苦手な環境だったが、それが克服されようとしている。

世界初の商用版ロボット基盤モデル「RFM-1」も登場

 RT-Xのように、特定のタスクやロボットに依存せず汎用的に適用できるモデルは、ロボット基盤モデルと呼ばれる。

 2024年3月には世界初の商用版ロボット基盤モデル「RFM-1」も登場した。開発したのは、OpenAIのロボット研究部門から独立したスタートアップの米Covariantだ。同社は以前から物流業界向けのロボットを販売し、顧客の倉庫などで稼働してきた。そこで得られたデータを使って作ったのがRFM-1である。米テスラが電気自動車を大々的に販売し、それで得られた走行データで自動運転車を作ろうとしているのと同じ戦略だ。ちなみにRFMはRobotics Foundation Model(ロボット基盤モデル)の略である。

ドラえもんを創造した国は挽回できるだろうか

 8月にはノルウェー・オスロを拠点とするスタートアップ1Xがロボット「NEO Beta」を24年中にいくつかの家庭へ試験的に導入する計画を発表した。身長165センチ、重量30キロで、ジャージのようなスーツを身に着けているせいかロボットと気付かないくらい人らしいヒト型ロボットである。試験導入の狙いは、実際の環境での動作確認と、データの収集にある。同月には中国のAGIBOTの他、米欧中の数社が家庭用ヒト型ロボットを発表するなど、にわかに競争が激しくなってきた。中国工業情報化部の計画では人間の動作を模倣して高度な作業をこなす「上級ロボット」を2025年までに大量生産するという。

 いかに動作に必要なデータを膨大に、かつ迅速に集めるかが、他社に先駆けて賢い家庭用ロボットを世に送り出す鍵を握る。しかしこの種の力業で資金力に乏しい日本が米欧中と正面から衝突しても勝つのは難しいだろう。

 ドラえもんは日本で最も有名なロボットの一つだ。ネコ型を称するが、形状、歩き方を見れば、明らかなヒト型である。どこでもドアやタイムマシンを出す四次元ポケットはさておき、まもなくドラえもんのようなヒト型ロボットが家の中を闊歩する光景が、少なくとも米欧中では当たり前になる。ドラえもんを創造した国は挽回できるだろうか。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(緑 慎也/ノンフィクション出版)

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