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倉庫街がアートの中心地に変貌! 富士山の見える「丘」が観光資源に!?……地域ブランディングの切り札は“名付け”

文春オンライン / 2024年12月20日 6時0分

倉庫街がアートの中心地に変貌! 富士山の見える「丘」が観光資源に!?……地域ブランディングの切り札は“名付け”

マンハッタンのTribeca地区 ©AFLO

「伊右衛門」「PlayStation」などを大ヒットに導いた国民的広告で知られる小西利行さんは、街づくりや地方創生のプロジェクトにも携わってきた。各界の経営者が絶賛する著書『 すごい思考ツール 』が話題のアイデアマンが、地域ブランディングの秘訣を伝える。

(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)

◆◆◆◆

名前の効果を熟知しているニューヨーカー

 先日アメリカに行った時、ニューヨーカーは名前をつけるのが本当にうまいと実感した。例えば、マンハッタンの有名な地区であるTribeca(トライベッカ)はTriangle Below Canal(キャナル・ストリートの南側の三角地帯)からつけられた名前で、もともと倉庫街だったが、NYのアートの中心地となり、その後高級住宅地となっている。

 Meatpacking(ミートパッキング)は食肉処理場や工業地域をおしゃれエリアに格上げした名前だし、SOHO( ソーホー)はSouth ofHouston Street の略で音楽とか美術の中心地となったエリア名だ。

 実は、ニューヨークでは本当の住所名ではあまりコミュニケーションされず、ある特徴を持った地区が「ひとかたまりの名前」で定義されることで、エリアごと活況を呈した街だと言われる。まさに名前の力を使って地域活性化に成功してきたわけだ。

 最新のエリアとして話題のNoMad(ノマド)はNorth of Madison Square Park の略で、ノマド(遊牧民)ワーカーという今っぽい働き方のイメージと合わせて名称化されたらしいが、この名前によりミッドタウンとダウンタウンに挟まれて無視されてきた地区がいきなり注目を浴びた。今や有名ホテルやレストランがこぞって「NoMad」を打ち出し、地区全体の価値がどんどん上昇し、出店が相次ぐという上昇スパイラルが生まれている。ニューヨーカーはやはり名前の効果を熟知しているし、名づけで価値を高めるプロでもあるわけだ。

地域の特性や共通の体験という視点で“新たに価値化”

 それに対して、日本はまだ名前の強さを使い切れていない。京都や金沢、今では山口や盛岡が(ニューヨーク・タイムズのおかげで)世界的に注目されているが、それらは住所名を前提にしたコミュニケーションにとどまっている。

 東京の「谷根千(谷中・根津・千駄木)」はエリアを名称化していて、昔の日本的な町並みや食への期待値を上げるのに貢献しているが、こうした試みがもっと増えると地域の価値はもっと高くなるだろう。その意味でも、地域の特性や共通の体験という視点で「新たに価値化する名付け」は、日本の地域の価値を上げる上で多いに開拓の余地があると思う。

 例えば、日本には富士山が見える丘がたくさんあり、その地区名に「富士見」という言葉がついているのだから、いっそそれらの地域をまとめて、「FUJIMI」という地域名で世界に打ち出せば、新しい観光資源になるかもしれない。「THE ◯◯HOTEL TOKYO FUJIMI」なんて、世界中から「行きたい!」が生まれそうだ。同じように「桜」や「水」や「野鳥」や「食」など何のテーマでもエリアの名づけは可能だし、ぶっちゃけタダなのでぜひ観光のために名前化するアイデアを実現してほしいと思う。

 これまでも、「うどん県」「餃子の街」「鋳物の街」といった「スローガン」で観光活性化が図られてきた例はあるが、上記のようにいっそ地区名にしてホテルや飲食店や商業施設でも使えばもっと価値化できるかもしれない。

「マイナスをプラスにできる」思考ツール

 ちなみに名付けはビジネス上のマイナスイメージを払拭することにも使える。例えば「雑居」を「シェアオフィス」にすればおしゃれだし、「ひとりで寂しい食事」も「おひとりさま」と呼べば誇りが持てる。地方で、賑わいがなくて閑散としている街も、「世界一静かな街」とすれば観光資源になるし、「いちごパフェ」も「いちごすぎるパフェ」と言えば俄然食べたくなる。名付けはマイナスをプラスにもできるし、プラスをさらにプラスにすることもできる強力な思考ツールだ。

 余談だが、名付けの「マイナスをプラスにする」力を間違えて使うと悪い影響も加速してしまうので要注意。例えば「覚醒剤」という名前には「覚醒」という、本来目が冴えるとか元気になるという意味の単語が入っているのでそもそも違法薬物に使われるべきではないだろう。アートディレクターの秋山具義さんは、いっそ「人生台無し剤」とか「うんこお漏らし剤」に変えたほうがいいと話されていたことがあるが、確かに抑制効果としてそのほうが適切だ。

「暴走族」という名前もいけない。暴走はしばしば映画のタイトルにも使われる青春の象徴だから、前向きな感じに捉える人もいるからだ。みうらじゅんさんが、暴走族は「おならプープー族」とかにすればいいと提言されていて素晴らしいと思った。それならたとえ暴走したい人がいても恥ずかしくて入れないだろう。

 名前の持つ力を使えば、日本をもっと魅力的にしたり、良くないことを抑制することもできる。しかも名前をつけるのはタダ。この最高の武器を積極的に使って、仕事から地域の可能性まで大いに活性化してほしいと思う。

 名前による価値化には、地域を活性化する大きな可能性があるのだ。

日本の小さな宝はあちこちに眠っている

 これからの「日本というブランドビジネス」を考える上で、どんなグランドデザインを描けるだろうか?

 そもそも日本は「規模」で世界と勝負しても勝ち目がない。なのに昭和から平成は欧米的なスタイルでの効率性とスケールを追求し、そこにリソースを集中してきた。その結果が今の日本である。でも悲観はしなくていい。日本の持つ豊かな風土や文化に目を向けると、小さくとも切れ味のいいアイデアや、世界中から愛されるコンテンツが有り余るほど存在することに気づけるからだ。

 例えば、石川県で開発され、その後も県の一部でしか栽培されていない「ルビーロマン」という品種のぶどう。とても高額な取引をされているが、栽培が難しくて希少なので世界中から引く手あまただし、このぶどうを求めて世界各地から人がやってきている。ただこれを栽培している人たちは生産を拡大しようとは思っておらず、あくまで美味しさを追求し、石川県のその土地だけでつくることを考えているという。

 ひと昔前ならブランドにして種を売るとか、世界各地でビジネスを展開するような「スケール」を考えただろうが、むしろ「少なさ」「狭さ」「希少性」を追求することで、世界が求める超優良ブランドとなって、ロングテールビジネスを成立させるわけだ。これは日本が目指すべきグランドデザインの一つだと思う。

 特に日本の地方には、このように世界が羨むような資産が多く眠っているし、そこにその地方の「歴史」や「伝統」、さらに「神話」や「祭り」を紐づけたストーリーを生み出せば、世界の人が求めるブランドになりえる。ルイ・ヴィトンをはじめとする世界中のメゾンブランドが日本の地方企業や技術とコラボを模索しているのもその証拠だ。

 でも私たちにはいつからか、欧米に対して劣っていると心のどこかで思ってしまう「卑下するクセ」が染みついていて、日本にある本質的な価値を見逃していたと思う。それはきっと、これまでの日本が目指してきた「BIG&FAST」な効率論がベースになっているからだろう。でも時代は変わった。今こそ日本らしく「SMALL& SLOW」な視点ですべてを見直したほうがいいと僕は思っている。

方言はここにしかない「宝」だ

 ローカリティの持つ底力に光を当てるという点で、星野リゾートの星野佳路代表が話していたことが面白かった。ある青森の宿の再建に向けて従業員の皆さんにアンケートをとった時のこと。集まったのは「素晴らしい山海の珍味を出せる」「海が美しい」「丁寧なサービス」といった、どの宿とも差がつかない意見ばかりだった。そこで「逆に何がダメか」を聞くと、「接客で方言が出てしまうから恥ずかしい。申し訳ない」という声が上がる。

 そこで星野さんは言った。まさにその方言こそがここにしかない「宝」だと。そこから星野リゾート青森屋が生まれ、今ではその方言を学び、「あおもリンガル」になることを目指す人が数多く訪れる名宿になったわけだ。

 若い世代や世界の人々から見れば、「方言はダサい」どころかその土地の文化を味わえる「宝」だ。それを見つけ出し「売り物」に変えた手腕を聞いて、さすが星野さんだと僕は膝を打った。まさに、「BIG&FAST」な思想が生んだ「地方より都会が勝っている」という偏見を覆し、「SMALL& SLOW」の観点で日本の価値を再発見した最高のケースだと思う。

 スターバックスの「47JIMOTO フラペチーノ®」も「SMALL&SLOW」な発想から生まれたものだ。47都道府県それぞれの味を一つひとつつくることが、どれだけ非効率なことか。それは一度でもチェーンビジネスをやったことがある人なら痛いほどわかる。でも彼らはやってのけた。それはJIMOTOの魅力をJIMOTOで楽しむというローカルの価値を本気で信じていたからに他ならない。

「大衆から小集へ」と先にも記したが、まさに日本の「小集」である地方の力は素晴らしく、しかもそれをあわせれば世界を動かす大きな力になる。それはただ規模の拡大を求めたスケールではなく、スモールな力を信じて束ねることで得られる力だ。

 ここからも、日本の価値を再認識できるブランディングが見えてくるのではないだろうか。

(小西 利行/ライフスタイル出版)

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