《中学受験シーズン到来》桜蔭が女子御三家の中で“頭ひとつ抜けた”一番人気である意外な理由「学校の教育力よりも…」
文春オンライン / 2025年1月8日 11時0分
写真はイメージです ©AFLO
過熱する一方の首都圏の中学受験熱。東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県の中学受験率は過去最高値の更新が続き、東京都ではついに18%を超えた。中でも文京区では、今年も私立中学への進学者が50%近くに達している。この数字には国立や都立の中高一貫校へ進んだ生徒の数は含まれないため、中学受験をする子の割合はさらに高いことになる。
筆者は数年にわたって中学受験家族の取材を続けてきたが、あらためて痛感するのは中学受験の“主役”は親であり、そして大学受験まで続く6年にわたる戦いの始まりでしかないことだ。
御三家を筆頭に偏差値上位校への入学を決めた家庭には“策士ママ”がいることがとても多い。また、女子校として最多の東大合格実績を誇る桜蔭の成功を支える“裏の事情”も見えてきた。
この秋発売となった『 中学受験のリアル 』(集英社インターナショナル)では5年間の取材で特に印象に残った15組の親子の生々しい受験模様をまとめている。
過干渉によってトラブルを引き起こす“策士ママ”も
中学受験をすると言っても最近は大学入試の総合型選抜さながらの特色ある入試を実施する学校が増え、ペーパーテストだけの勝負ではないところも出てきた。
そのため、中学受験への準備の仕方は多様化し、インターネット上では情報が飛び交い、前にも増して熱心な親が増えている。情報が手に入れやすくなったのはいいことのように思えるが、一方で情報過多によるデメリットも生じている。
例えば、偏差値上位校を目指す研究熱心な親の中には塾名だけでなく〇〇塾の〇〇校舎あるいは〇〇先生のいる校舎に入れたいなど、入塾から綿密に考える人も多く、過干渉によって子どもに精神的なトラブルが生じる家庭も出ている。
女子御三家入学を果たしたA子さんの家庭は、娘がまだ幼い頃から中学受験を視野に入れていた。当初から御三家を考えていたわけではないが、受験をすることは決めており、中学受験において親の手厚いサポートは必須だと感じていたという。
しかし夫婦ともにフルタイムで働いていたため、時間を確保するために「第二子の出産」を利用することにしたという。つまり産休・育休や時短勤務が使える時期に長女の中学受験がくるように妊娠の時期を綿密に計画したのだ。
第二子が計画通りに生まれ、母親は時間のゆとりを持ってA子さんの中学受験に備えた。塾は難関中学受験で有名なSAPIX(サピックス)。サピックスはプリント学習が中心だが、量が膨大で、自分で完走できる子どもは多くない。
そこでA子さんの母親は、テストで点数が取れなかった問題をチェックし、プリントの中から似た形式の問題を見つけて印刷し、学校から帰ってくる前に机にセットしておくようにしたという。
「学校から帰って一休みしたら、机に向かうよう習慣をつけていました。その日にやるべきことを私の方で管理して、勉強だけに集中できるよう心がけていました。こうしてセットしておけば、すぐに勉強がはじめられます」(A子さんの母親)
確かに小学生の場合、「鉛筆がない」「テキストがない」「今日はどこからやろうか」と考えるうちに時間だけが経ってしまい、テキストを開いたときにはすでに飽きているということも多い。親がここまで準備をしておけば、本人が「今日はどの問題をやろうか」と考えることはなくなるため、効率的とも言える。
幸いA子さんは勉強が好きで、解けない問題があると時間を忘れて取り組むほどの根気を持ち合わせていたため、母親のサポートもあって見事に御三家合格を果たした。
だが教員の中には、こうした状況に危惧を覚える人もいる。都内の難関中学で教える教員は、困り顔でこう話す。
「学校でも、先生に言われるまで何もせずに待つ子が増えていると感じます。『指示待ち人間』なんて言われますが、その元凶は親の“管理しすぎ”にあるのではないでしょうか。お膳立てをしてもらわないとできないのでは、大人になってから困ります。自分で勉強も組み立てていけるようになってほしいのですが……」
人生、親がいつまでも手助けしてやれるものでもない。せっかく憧れの難関校に入学しても、親に下駄をはかせてもらい入学した子の場合、入ってから辛くなる子も少なくないのだ。
女子御三家の中で桜蔭の人気が高い「教育力」以外の理由
そして中学受験の志望校選びでは、ほとんどの親が校風など以上に卒業後の進路を重視している。難関大学への合格実績に魅力を感じる家庭は多いが、それが本当に学校のおかげかどうかは意外と見極めが難しい。
例えば、女子御三家の中で桜蔭は東大合格実績においては頭一つ抜けているが、学校の教育力そのものよりも、“大学入試の邪魔にならない”ことを重視して入学する家庭もあるほどだ。
今年出会ったB子さんの家庭が桜蔭の受験を決めたのもまさにこの理由だった。B子さんは現在、私立難関大の医大生になっているが、母親は中学受験のはるか前から現在に至るまでの道のりを綿密に考えていた。
B子さんの母親は大企業で総合職として働いているが、忙しいからといって子どもの教育を妥協したくなかった。まず小学校のタイミングで、中学受験を見据えて受験の面倒も見てくれる私立小学校を受験し合格。
入学した小学校はそのままエスカレーターで偏差値60超えの中高一貫校に進める学園だが、B子さんの母親にとってその入学権利はあくまでも「保険」で、本命はさらに偏差値の高い外部中学の受験だった。B子さん以外にも外部中学を受験する子どもは多く、学校側も家庭のこうしたニーズをくみ取って中学受験のアドバイスも手厚かったという。
桜蔭は「通塾しなくていい」というが、6割の生徒が鉄緑会に
だが、だからといって中学受験の勉強を学校に任せておけばいいということではない。外部の塾に通うのは当然で、B子さんは早稲田アカデミーに入塾した。
B子さんの成績は順調に伸び、見事に第一志望の桜蔭中学校に入学。母親がB子さんに女子御三家の中でも桜蔭を薦めたのは、“その先”を考えていたからだ。
中学に入学すると、B子さんはすぐに東大入試で有名な鉄緑会に入会した。鉄緑会とは、東大進学を目指す子を専門に教える塾で、トップクラスの中学・高校の生徒の多くが在籍している。今年の在籍数を調べてみると、桜蔭から同会に入会している生徒は891人。桜蔭は中学から高校までで全生徒数が1400人ほどのため、実に6割の生徒が鉄緑会に入っていることになる。
B子さんは後に東大から医学部に志望を変更したが、鉄緑会は国立大学対策に役立つため、退会はせずにプラスで医学部専門の塾に通うことに。母親は、これは桜蔭だったからできたことだと話す。
「元々いた私立の付属中学は宿題が多いことで有名でした。桜蔭はほとんど宿題がありませんから、助かりましたよ。あのまま付属中に進学していたら、学校の宿題の多さにやられて塾の勉強との両立が難しかったと思います」(B子さんの母親)
B子さんの家庭が桜蔭に期待したのは、上を目指す子が集まる学校であることに加えて「塾通いの邪魔にならない」ことだったのだ。
数字の上では、毎年70人前後という女子御三家の中でぶっちぎりの東大合格者数を出している桜蔭。すでに麻布や都立日比谷も抜いて最上位グループに食い込んでいるが、生徒の親たちは学校での勉強よりも、塾の力を信じているのではという気もしてしまう。
桜蔭側は「通塾はしなくていい」と保護者に伝えているが、ほとんどの子が外部の塾に通っているのが実情で、実績によってトップ大を目指す親たちの心を掴んでいる。
子供以上に親の思惑を巻き込んで、学校の序列もめまぐるしく変わる中学受験業界から目が離せない。
〈 “抜毛症”に苦しむSAPIX女子に、スパルタ家庭教師の罵声で薄毛になった子も…過酷すぎる中学受験の世界で「省エネ受験」が流行る納得の理由 〉へ続く
(宮本 さおり)
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