“抜毛症”に苦しむSAPIX女子に、スパルタ家庭教師の罵声で薄毛になった子も…過酷すぎる中学受験の世界で「省エネ受験」が流行る納得の理由
文春オンライン / 2025年1月8日 11時0分
写真はイメージです ©AFLO
〈 《中学受験シーズン到来》桜蔭が女子御三家の中で“頭ひとつ抜けた”一番人気である意外な理由「学校の教育力よりも…」 〉から続く
中学受験を目指す家庭の急増とともに、競争は激化の一途をたどっている。小学校低学年で塾に入り、小学校生活をまるまる受験勉強に費やすストレスによって「髪が薄くなる」などの症状に悩まされる家庭もある。
一方で、そのストレスを避けてお金も時間もプレッシャーもほどほどの“省エネ受験”を目指す家庭も現れ始めている。中学受験の「二極化」はどのように進んでいるのだろうか。
脱毛症のように、一部の髪が薄くなる異変が
都内に住むC子さんは第一志望だった女子御三家の1つに合格して現在はその学校に通っている。しかし受験の期間、両親はC子さんの髪が日に日に薄くなっていくことを心配していたという。
もともと勉強が好きだったC子さんは、3年生の2月に入塾テストを通過してSAPIX(サピックス)に通う権利を手に入れた。中学受験の世界で、3年生の2月は「通塾開始の王道」と言われている。
SAPIXは成績によってクラス分けされるが、C子さんは常に成績トップのクラス。小学校から帰ると自らテキストを広げ、両親が「勉強しなさい」と叱ったことは一度もなかった。しかしある時、両親はC子さんの頭部に異変を感じた。脱毛症のように一部の髪が薄くなっていたのだ。
C子さんの様子を観察すると、机に向かって問題を解いている時に、自分の手で髪の毛をピッと抜いていることがすぐわかった。しかし本人に聞いても自覚はないという。
ストレスが原因だと考えた両親は、長時間机に向かうC子さんに対して「少し休んだら?」と促したが、本人はなかなか休もうとはしなかった。受験が終わると症状は治まり、今は元気に学校に通っているという。
こうして自分で髪を抜いてしまう症状を抜毛症と呼ぶ。小学生くらいの子どもに多く見られる症状で、主な要因はストレス。親や教師の言うことを聞く「良い子」ほど症状が出やすいとされている。
C子さんはSAPIX→女子御三家という中学受験のエリートコースだったが、そこまで高い偏差値の学校を目指さない家庭でも「髪」の問題の話は何度も耳にした。
容赦なく怒号が飛び、母親にも聞こえていたが…
首都圏在住のDくんは受験の期間、周りが見てもはっきり分かるほど頭部の髪が薄くなっていた。症状が現れたきっかけは「家庭教師」だったという。
中学受験を目指すことを決めたDくんは最初、日能研という塾に通うことになった。こちらもSAPIXと並ぶ大手の塾だ。小学3年生で入塾してしばらく順調に通っていたが、高学年になると成績が伸び悩んだ。日能研では成績順に座席が決まるため、プレッシャーも大きい。落ち込むDくんに母親は励ましの言葉をかけたが解決の気配は見えなかった。
そこで母親が家庭教師をつける提案をすると、Dくんが「やってみたい」と答えたため、中学受験指導のプロを名乗る家庭教師にお願いすることを決めた。
ところが、迎え入れた男性の家庭教師はかなりのスパルタで、宿題をやっていなければ容赦なく怒号が飛び、その声は部屋の外にいる母親にも聞こえていた。それでもその厳しさがDくんのためになるのならと静観していた。
しかししばらくすると、Dくんの髪が明らかに薄くなっていることに気づいた。あの怒号まじりのスパルタ式がDくんのストレスになっていると感じた母親は、本人に家庭教師を止めようと話をしたのだが、意外にも本人はこれを拒んだという。というのも、この家庭教師についてから模試での成績が上がり始めていたのだ。
「止めたくない!」と強く訴えるDくんに押し切られる形で、母親はこの家庭教師との契約を受験まで継続することに。ところが、志望校の受験結果は「全落ち」。出願の間に合う学校を受験してなんとか合格し、一度も見学に行ったことのない私立中学だったが、現在はその学校に通っている。本人の言葉で続けた家庭教師だったが、それがDくんを苦しませていたのではないかと母親は今でも後悔を抱えている。
抜毛症について医師などに話を聞くと、身体に症状が出ている場合は何よりも休むことが必要だと口を揃える。中学受験が迫ってくるプレッシャーの中で本人も親も休む判断をするには勇気が必要で、決断が遅くなる家庭も多いが、「止める」のではなくあくまでも「休む」ということで、本人の気持ちに寄り添う様子を見せるのが重要だという。
こうして3年がかりで王道の中学受験をする家庭がいる一方、最近目にするようになったのが1年間や半年といった短期間の準備で合格を目指す“省エネ受験”だ。
省エネが可能になったのは、2教科入試や英語入試、特色入試と言われる新タイプ入試を導入した学校の存在が大きい。
御三家を筆頭に難関校では国語、算数、理科、社会の4教科受験が必要なため、合格を目指すには1年の勉強では時間が足りない。しかし、国語と算数のみに絞った2教科入試や、特色入試ならば短期間での合格も無謀な話ではない。
中学受験の世界で、いち早く特色入試を導入したのは立教池袋中学校だと言われている。AO入試と呼ばれる第2回入試がそれにあたり、算数と国語の2教科試験と、自己アピールにより合否が決まることになる。過去の合格者には、ずっと続けてきたピアノの腕前を披露した子もいたという。
大学入試で総合型選抜入試が脚光を浴びる中、中学入試でも立教池袋のような方式を導入する中高一貫校が増えてきたのだ。
3年間の塾代300万円が短期集中なら1/3に
まだ偏差値的にはそれほど目立つ存在ではないが、家庭教育に詳しい岩田かおりさんは「心身の健康を壊すほどの受験はおすすめできません。中学の名前よりも、どんな学びができるかの中身で選ぶ時代です」と親にも子にも負担の少ない新タイプ入試を奨励する。
岩田さんの主宰する教育コミュニティの中にも、大手の塾には通わず私立中学に合格した家庭がある。対策を新タイプ入試に必要な国語力の強化に絞り、半年だけ個人経営の塾に通って第一志望校の合格を手にする親子が出てきたという。
省エネ受験では、かけるお金もミニマムに済む。大手塾に通えば3年生でも年間30万円ほどは必要で、6年生になれば100万円を超える。夏休みの夏期講習だけで30万円を超える塾もざらにある。小学3年生から通えば3年間でかかる費用はざっと300万円だ。
それが半年だけの短期集中の省エネ受験ならば、100万円以下の費用で合格を手にする家庭もある。短期決戦のおかげで子どものストレスや疲弊も少なく、入学後も勉強に対するモチベーションが保たれる子が多い。
新タイプ入試を導入後しばらく経つ学校では、すでに中学受験から6年が経ち大学進学実績もわかりつつある。難関大学に合格するケースも少なくなく、「中学受験でどれだけ頑張っても結局大学が一緒なら省エネ受験の方がいい」という声もあるほどだ。
いまでも説明会で保護者の競争心を煽る話をする大手の塾も多いが、中学受験はゴールではなくほとんどの家庭はその後の進路も重視している。
中学受験が呪縛になるか、親子の良い思い出になるか。選択肢が増えることで、親の悩みはさらに広がっていきそうだ。
(宮本 さおり)
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