〈日欧米中露、民間が開発競争〉人類は再び月に降り立てるか「日本の総合力が発揮できる領域と…」
文春オンライン / 2025年1月1日 11時0分
写真はイメージ ©AFLO
2024年1月、日本の月探査機SLIMが月面に着陸することに成功した。世界では5番目となる月面着陸であるが、日本としては初めての月面着陸となる。
1969年、アポロ11号が月面着陸を果たし、人類は地球以外の天体に初めて足を踏み入れた。しかしそれから半世紀以上にわたって、人類は月へと向かうことがなかった。これは、月に向かうためには膨大な資金が必要で、それを国家として支出するのが困難であったことが最大の要因である。
再び動き出した世界各国の月探査
アポロ計画はアメリカがソ連に対抗し、核兵器の輸送手段としてのロケット技術を誇示する側面が大きかった。月面に人類が降り立ち、宇宙競争に勝ったことで、その最大の目的が達成されてしまい、それ以上国家予算をつぎ込む理由が失われてしまったのである。
また、アポロ計画による探査で、月には水が乏しく、人間が居住するためには過酷な環境であることも明らかになった。地球から水を持っていかない限り、人類の滞在は不可能と考えられたのである。
この風向きが変わったのは1990年代である。アメリカの小型月探査機2機が月探査を実施した結果、月に水(氷)が存在する可能性が高いことが見出されたのである。水は、アポロ計画では探査されなかった月の両極地域、とりわけ南極地域に多いことも明らかとなってきた。
さらに、宇宙開発技術が進歩し、小型で高性能な宇宙輸送手段が次々に実用化され、宇宙への輸送コストが低減されてきた。このような機運から、21世紀に入り、世界各国が月探査に乗り出すようになってきた。ヨーロッパが2003年に「スマート1」、中国が2007年「嫦娥(じようが)1号」、インドが2008年に「チャンドラヤーン1」を打ち上げた。その中で日本は2007年に月周回衛星「かぐや」を打ち上げ、アポロ計画以来となる大型の月周回探査を実施した。
2010年代となると、月探査は周回探査から着陸・ローバー(月面を走行できる車)探査へと移行する。そして、中国がこの分野で一歩抜け出す形となる。2013年には嫦娥3号で中国は旧ソ連・アメリカに次ぐ世界で3番目の月着陸国となり、またローバーの走行にも成功した。2019年には嫦娥4号を月の裏側に着陸させることにも成功している。
「人類の滞在」を目指す国際共同探査
このような中、2017年にアメリカが打ち出した有人月探査計画が「アルテミス計画」である。この計画は人類を再び月面に降り立たせるものであり、合計3回の飛行により、人類の月着陸を実現させる。
ただしアポロ計画と異なる点としては、単に月面に人類を送るだけではなく、継続して人類を月面に送ること、そして人類を月面に滞在させることを目標としていることである。
アルテミス計画は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した新たなロケットである「宇宙輸送システム」(SLS)と、同じく新たに開発した宇宙船「オリオン」を使用する。新規性が高いため、まず無人の打ち上げが2022年11月に実施され、無事成功した。
今後は、2025年9月に2回目として有人打ち上げが計画されている。4名の宇宙飛行士が月を周回し地球に戻ることになる。そして、2026年9月の3回目の打ち上げにより、再び人類が月面に降り立つことになる予定である。
アルテミス計画は国際共同探査として進められており、日本も重要な役割を担っている。2028年以降、日本人宇宙飛行士2名が月面に降り立つことが政府間の覚書として締結されたほか、日本からは宇宙航空研究開発機構とトヨタ自動車などが開発している有人与圧ローバーが本計画のために提供される。
一方、中国も有人月探査計画を打ち出している。本計画では、2035年ころをメドに、国際月研究ステーション(ILRS)を月面に構築することが主眼となっている。この計画はロシアを大きなパートナーとして、やはり国際計画として進んでいる。
また、中国は着実に無人月探査を進めており、2024年6月には嫦娥6号により、世界で初めての月の裏側からのサンプルリターンに成功した。
日本の企業も次々と参入
このような国家による月探査に加え、月探査・月輸送は民間企業によっても推進されている。2024年1月には、NASAが資金を拠出し、民間の月着陸機を月面に送る「商業月輸送プログラム」の第1号機が打ち上げられた。1号機は残念ながら月に到達できなかったが、2号機は月面に到達することに成功した。
また、日本の民間企業アイスペースは、自ら開発した月着陸機「ハクトR」2号機を2024年12月に打ち上げる予定である。1号機は2023年4月に月面着陸に挑んだが失敗に終わっており、2回目の挑戦で確実に着陸を目指す。
また、日本のベンチャー企業ダイモンは、超小型ローバー「ヤオキ」を2024年冬に、先の商業月輸送プログラムにて月に送る計画である。
月探査が熱気を帯びている理由は、月面の水の存在の可能性により、宇宙飛行士の滞在への障壁が大幅に緩和されたことによる。アルテミス計画での着陸地点も、水が存在するとされる月の南極域が予定されている。
その先2030年代には、人類の月面滞在も検討されており、すでに日本の民間企業でもそれに向けた技術開発に取り組むところが増えている。月面で水を取り出す技術、月面で建物を構築する技術など、従来の宇宙開発の枠を越えた技術が必要とされる一方、日本の総合力が発揮できる領域ともいえる。
人類が再び月へと足を踏み入れるタイミングは刻一刻と近づいている。国家グループ間の競争、民間企業のビジネスとしての月輸送など、様々な要素が織り交ざりながら、月探査はこの数年で大きな山場を迎えようとしている。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。
(寺薗 淳也/ノンフィクション出版)
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