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「日本だけが『遅れた』国になる」天皇を男性に限定するなら半分の「象徴」でしかない

文春オンライン / 2024年12月25日 6時0分

「日本だけが『遅れた』国になる」天皇を男性に限定するなら半分の「象徴」でしかない

23歳の誕生日を迎え、上皇ご夫妻にあいさつをするため仙洞御所に入られる愛子さま ©時事通信社

 現在、皇室には皇位継承権を有した男性皇族が3人しかいない。しかも、第三位の常陸宮は天皇の叔父、第一位の秋篠宮は天皇の弟にあたる。次の世代は悠仁親王しかいない。安定的な皇位継承のためには、今すぐに女性天皇を認めるような皇室典範の改正を行うべきであろう。

 歴史上、十代8人いた女性天皇は「中継ぎ」であったという説明がよくなされる。しかし、日本古代史の最新の研究によって、この考え方は否定されている。その時期の皇族のなかで、政治的に優れた年長の女性が天皇に即位していた。

 ならば現在でも、人間的に優れた人物であれば、男性でも女性でも関係なく天皇に即位することが、「伝統」的な考え方に合致しているのではないだろうか。むしろ、現在の象徴天皇制は、その人物がいかなる考えを持ち、行動をするのかがメディアを通じて伝えられ、それによって人々に支持されている。性別に関係なく人物本位というのは、歴史上だけではなく、現在の象徴天皇制のあり方とも合致する。

順風満帆ではなかった愛子さまの“足跡”

 2001年12月1日に誕生した愛子内親王は、皇太子の娘として、常に注目を浴びる存在であったが、必ずしもその足跡は順風満帆なものとは言えなかった。適応障害の診断を受けて療養生活に入った雅子妃への批判、愛子内親王自身も学習院初等科のときの不登校騒動や15歳のときの摂食障害報道など、メディアにおいては必ずしも好意的に取りあげられてきたわけではなかった。

 しかし、平成後半くらいから、次第にその人物像が注目を浴びるようになる。学業成績は常にトップクラスであることが、たびたび記事となった。

 令和となり、天皇と皇后の存在が取りあげられるなかで、家族3人での姿もメディアに注目されるようになった。両親と一緒の場面でのほほえましいやりとりから、愛子内親王の等身大の姿が人々に広まった。

 さらに2022年3月17日には、成年の記者会見を行い、その場でも一人で記者を相手にユーモアある回答を展開し、その姿も高く評価された。

 学習院大学卒業後、日本赤十字社へ就職したことも注目された。大学院進学や留学が予想されていたなかで、人の役に立ちたいという理由から就職を、しかも災害被災地への対応などを担う日本赤十字社へ、そしてボランティアに関する業務に従事するなど、象徴天皇制のあり方とも合う仕事に就いた。その意味で、愛子内親王は人間的にも問題ない。

 現在の日本社会は、女子差別撤廃条約の批准、いわゆる男女雇用機会均等法の制定など、これまで以上に性別による差をなくす方向性へと向かっている。男女平等の社会が実現するように様々な努力がなされているなかで、なぜ天皇だけが男性に限定されるのだろうか。

 それを規定したのは明治期である。そのときは、陸海軍を統帥する大元帥としての天皇の存在があり、男性に限定する必要があった。「家制度」が構築されるなかで、戸主である夫に絶大な権限を持たせる必要があった。だからこそ、国のトップである天皇も男性でなければならなかった。しかし、いずれも現在ではなくなった。それゆえ、今では天皇を男性に限定することも相容れない思考になる。

 天皇は日本国憲法において、「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と定められている。それがなぜ、半分の男性しかなれない制度になっているのか。それこそ、半分の「象徴」でしかない。

日本だけが「遅れた」国になる

 現在、国会では女性天皇に関する議論は行われていない。女性皇族が結婚後も皇族に残って公務を行う女性宮家案、敗戦後に皇族から離れた旧宮家と呼ばれる人々を皇族の養子にする案、の二つが検討の対象となっている。

 しかし、前者は安定的な皇位継承にはまったく意味がない。愛子内親王や佳子内親王が結婚後も皇族に残ったとしても、その子どもなどは一般人として扱われる。結局は、これから数十年間、公務を担ってもらう人を増やすだけの方策である。つまりこれが実現したとしても、基本的には悠仁親王しか次世代で天皇になる皇族はおらず、その妻は男性皇族を産まなければならないというプレッシャーに押しつぶされる。そんな男性と結婚しようとする女性はいるのだろうか。

 そこで、後者が急浮上したのかもしれない。旧宮家の男性ならば男系男子が保たれる。そう考えた特に保守的な人々は、この案を声高に主張し、そうした人々が支持基盤である自由民主党がこの案を推進しようとしている。

 しかし、旧宮家と呼ばれる人々は、70年以上前に皇族から離れた存在である。一般人として生まれて育ってきた人々が、皇室の血筋だから明日から皇族に入ってもらいますよと言われても、本人は納得するだろうか。また、私たちもその人を皇族として迎え、扱うことができるのだろうか。もし彼らのスキャンダルが皇族に入った後に報道された場合、象徴天皇制全体に傷がつき、取り返しのつかないことになる危険性もあるだろう。

女性皇族が結婚後も皇族に残り…

 ならば、女性皇族が結婚後も皇族に残り、女性天皇となる道が一番シンプルであり、わかりやすいのではないか。

 世界的にも、長子優先の王位継承という傾向が強くなっている。次世代のヨーロッパの王室は、女王が多くなる。ひとり、東洋の日本だけが「遅れた」国になってよいのだろうか。

 女性も天皇になることができる長子優先の案が認められれば、皇位継承は安定する。次の天皇になるべき人が、そのための心構えを準備できるからである。平成から令和でもまさにそうであった。

 立憲民主党の代表になった野田佳彦は、代表選中、女性天皇を認めるべきと発言した。国民世論も、女性天皇を認めるべきとの声が多数である。与野党が一致してこの方向に策を進めるべきだろう。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(河西 秀哉/ノンフィクション出版)

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