20代で絶縁した父から突然「遺産も家もお前に相続する」と言われ…父親から虐待を受けた47歳芸人が、それでも“認知症の親”を介護したワケ――2024年読まれた記事
文春オンライン / 2025年1月8日 7時0分
ゲーム芸人・フジタさん ©杉山秀樹/文藝春秋
2024年、文春オンラインで反響の大きかった記事を発表します。家族部門の第4位は、こちら!(初公開日 2024/09/21)。
* * *
フジテレビ系列のドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で壮絶な生い立ちが話題になった、ゲーム芸人・フジタさん(47)。小学校入学直前に母親が急死し、その後、父親が同級生の母親と暮らすようになったため、小学生にして一人暮らしを強いられた。
20代から父親と絶縁状態だったフジタさんだが、数年前に「家に来てほしい」と連絡を受けて再会。その後、父親の認知症が発覚し、フジタさんが介護をすることになる。彼はどんな思いで、自分を捨てた父親の面倒を見ていたのか。本人に話を聞いた。(全3回の3回目/ 1回目 から読む)
◆◆◆
絶縁状態だった父親から突然、連絡が来たワケ
――お父さんから「とにかく家に来てほしい」と連絡があったそうですが、どんな用件だったのですか。
フジタさん(以下、フジタ) 認知症になる少し前なので、何年か前の正月だったと思うんですけど。当時81歳になっていた父から連絡があって会うことになり、これまでのことを正式に謝ってくれました。そのすぐ後に認知症になったので、何かを察していたんですかね。
――謝罪をされたとき、フジタさんはどのようなご心境でしたか。
フジタ 嬉しかったんじゃないでしょうか、一応。父親はああ見えて、僕の母親が死んでしまった直後なんかは優しくしてくれていたので。だから僕は小学2年生の頃から、すべて内縁の妻となった同級生の母親がいけないんだと思っているんです。まあ、本当はわからないですけどね。
あと、その日は謝罪の他に、遺言書作成の話もされました。内縁の妻に遺産相続するんじゃないかと思っていたんですが、家も含めて僕に相続する、と。
――そのお話を聞いたとき、意外に思いましたか。
フジタ そうですね。内縁の妻には「家はあげる」と言っていたらしいのですが、「婚姻関係じゃないとその権利がないから」というようなことを父親は言っていました。そのことを知った内縁の妻は、すごく怒っていました。それがきっかけで、父親が認知症になったあとに関係が切れたことに繋がったのかもしれませんね。
父親の認知症が発覚し、フジタさんが介護をすることになって…
――お父さんの認知症が発覚したのはそのすぐ後ということですが、「介護をしよう」と自然に思えたのでしょうか。
フジタ いや、自然にというよりは問題が起きてしまって。警察や消防隊の方から、父親のことで僕に連絡が来るようになったんです。例えば「お金を盗まれた」と思った父親が警察に通報をして、でも実は自分が使っていたとか、ちょっと転倒して救急車を呼ばれるたびに僕に連絡があるので、「介護せざるを得なかった」というのが最初だったかもしれないですね。
――お父さんの認知症の症状に気付いたのはどういう経緯でしたか。
フジタ 銀行で下ろしたお金を盗まれたと思ったり、「スーパーで買った商品が盗まれた」と言うので防犯カメラで見てもらったところ、実際は買ってすらいなかったとか。そういう「盗まれた」という妄想が2回くらい起こったときに、認知症ではないかと。それで病院で診てもらったところ、やはりそうであることがわかりました。
父親は認知症になってからも、内縁の妻にお金を渡し続けていた
――介護が始まってからは、付きっ切りで一緒にいたのでしょうか。
フジタ そうですね、最初はどういう感じで介護をするのかわからなかったので、とりあえず一緒に住み始めて、2年くらいは。薬を飲んだか、食事を食べたかどうかも自分でわからなくなってきていたので、生活をともにして。
普通は市に相談してケアマネジャーに繋いでもらうとかするんだと思うんですけど、最初はどうしたらいいかわからなくて。後日介護の判定をしてもらうと、最初は要介護2だったのが要介護4になり、ヘルパーとデイサービスをフルで使える状態になったのでそれからは一緒に住まなくなりました。
――介護費用はフジタさんが負担されたのですか。
フジタ そうです。父親の収入は年金だけなので、施設や老人ホームに入居するとなると全然お金が足りなくて。さらに父親は、内縁の妻にお金を毎月渡していましたから、そのお金も僕が負担していたような形です。
――それはいつ頃からですか。
フジタ 僕が「認知症かな」と気付いたあたりですかね。それでも「どうしても会いたい、お金を渡したい」と言って。だからしばらくは僕がお金を渡していたんですが、今度は内縁の妻が、父親の年金を「自分が管理する」と言い始めて。年金を管理すれば、お金を全部自分のものとして使えると思ったんだと思います。でも父親は金遣いが荒い人なので、それもすぐに「やっぱり無理だ」ということになりました。
そこで話をして、お金を渡すのをなしにしてもらうように言うと「わかった」と。それから父親が亡くなるまで、内縁の妻とは一切会ってないです。
今年4月に84歳で父親が亡くなった経緯
――お父さんは、今年4月に84歳で亡くなられたそうですね。
フジタ 虚血性心不全だったそうで、救急隊の方から連絡があって病院にすぐに行ったのですが、すでに亡くなっていました。施設で発作が起こり、僕に電話があった時点でもう意識がなく、呼吸も止まっていたと。
僕は去年の11月に結婚して、父が亡くなる1週間くらい前に子どもが生まれたんです。その報告の電話をしたときは元気そうで喜んでくれていたんですね。ちょうど亡くなった日の昼に子どもを連れて会いに行く予定だったのですが。
――内縁の妻は、お父さんが亡くなったことに対してどんな様子でしたか。
フジタ 報告はしたんですが、葬式には来なかったですね。内縁の妻の子どもであるK君も、もう20歳を過ぎたその子どもも、僕の父親に育ててもらったにもかかわらず葬式に顔を出しませんでした。
――お父さんが内縁の妻にお金を渡していたのは、愛情表現なのでしょうか。
フジタ 色々と話を聞いた結果、そうだと思います。認知症で足も悪くなってきたのに、どうしてもお金だけは手渡しで渡したいと。洗脳なのか、愛情なのかわかりませんけど、執着していたように思いますね。
父親とちゃんとした話をしたかった
――フジタさんご自身は、介護を通してお父さんとの関係を修復したいという気持ちがありましたか。
フジタ 修復というより、父親と何も話したことがなかったので、もう少し大事な時期にちゃんとした話をしたかったです。最後の1年くらいは内縁の妻が一切関わらず、2人きりで過ごせたといえばそうですが、認知症だったので、過去の話や今の家族の話なんかはできませんでしたね。
――具体的に、どのような話をしたかったのでしょうか。
フジタ 僕の人生のことや進路のことも相談したかったですね。それは子どもの頃もずっとそうでしたけど。妻にも会ってもらいましたが、わかっているかどうか微妙な感じで。でも、孫が生まれることはわかったようで、すごく喜んでいたので。
――ご結婚されて、お子さんも生まれたそうですが、家族を持ってから、フジタさんのお父さんへの思いに変化はありましたか。
フジタ 父親になったら父親の気持ちがわかるかと思いきや、わかんないですね(笑)。何で僕を殴ったり、家から出ていって内縁の妻と暮らしたりしたんだろうとしか言いようがないです。ある意味、あれが洗脳ではなく、それだけ人を好きになれたのだとしたらすごいことだとは思います。
「こういう子どもがいたことを…」フジタさんが壮絶な生い立ちを公表した理由
――家族を持つことへの不安はありましたか。
フジタ 自分が育てられたのと同じことをやってはいけない、と思って子育てをしたとしても、それが正解とは限らないじゃないですか。そういう不安はもちろんありますし、自分がつらい目に遭ったからこそ、とにかく寂しい思いをさせないようにはしたいと思っています。
――フジタさんが生い立ちを公表、発信しているのはどういう理由からなのでしょうか。
フジタ 「こういう子どもがいた」ということって、誰にも知られなければ、本来ならなかったことになるじゃないですか。それがメディアを通して世の中に伝われば、嬉しいなと思って。
今だったら子どもでも何かしら発信できるので、その点では昔に比べればどうにかなるのかなと。ただ、こうした問題が発覚した時に難しいのは、本人が児童養護施設に行きたくないと考えているケースもあるということなんですよね。
子どもにもっと選択肢や決定権があればいい
――フジタさんはそうだったのでしょうか。
フジタ 僕は小学生の頃、1人で住んでいたけれど家に居たかったですし、クラスメートがいる学校からも離れたくなくって我慢していたんです。大々的に先生に助けを求めていたら、僕は家にいられなくなったと思うんですよ。
僕は転校が、死ぬことよりも怖かったかもしれないです、当時は。今考えれば、別に大したことじゃないように思えますけれど。子どもにとっては世界の全てがそこにありますからね。
――世間には家族の関係に悩んでいる人も多いと思いますが、何か伝えたいメッセージなどありますか。
フジタ 転校や児童養護施設の話もそうですけど、子どもにもっと選択肢や決定権があればいいと思います。今は子どもにまつわる何かしらの意思決定において、子ども本人よりも保護者の意見が優先されたり、あるいは役所や施設の決定によって生活環境が移されてしまう。
例えば学校でいじめに遭っていて、そこにいたくないのであれば逃げさせてあげるのは大事だと思うんですけど、同じ学校に通い続けたい場合に、子どもにとって大きな傷になってしまうと思うんです。
もちろん親との関係が良くなくて、保護しなければ子どもに危害が及ぶ可能性があるケースなんかでは難しいと思うんですけど。必ずしも、子どもの居場所を奪うことだけが正義ではないんじゃないかなと、僕は思います。だからこそ、もっと色々な選択肢が増えて、子どもがSOSを出しやすい環境が社会全体で整って行くといいですね。
撮影=杉山秀樹/文藝春秋
(吉川 ばんび)
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