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「禊は終わった感がある」ジャニーズ事務所解体から1年、メディアが「知らんぷり」するジャニーズ問題のリアル

文春オンライン / 2024年12月31日 11時0分

「禊は終わった感がある」ジャニーズ事務所解体から1年、メディアが「知らんぷり」するジャニーズ問題のリアル

©時事通信社

 ハーヴェイ・ワインスタイン、ジミー・サヴィル、ジェフリー・エプスタインら世界的に有名な権力を持った性犯罪者と同種の存在であったジャニー喜多川氏(2019年87歳没)。60年間にわたり数百人の子どもたち(男子児童)を凌辱してきたその犯罪は、被害者が「人類史上最悪の性虐待事件」と語ったように異常かつ悪質なものであった。筆者が記者として取材した1999年の週刊文春ではその犯罪行為をキャンペーンで報じたが、当時からこの24年間、大手メディアはそれを問題視することはなく、2023年のBBC報道によってようやく顕在化した。

「現在の先進国においては児童虐待に加担した企業は世論の圧力によって閉鎖か大規模な改革に追い込まれます。またそうした企業の商品は、この場合はタレントかもしれませんが、犯罪との関与をきちんと説明しない以上、二度と扱われることはありません。取引先も同様の扱い。道義的責任は免れないのです」(米ジャーナリスト)

ジャニーズ問題はすでに「過去の話」

 海外メディアに切り込まれ世間の批判を浴びた結果、メディアや広告を支配する立場にいたジャニーズ事務所は同年10月に解体。事業継続社の「SMILE-UP.」とタレントマネージメントの受け皿になる新会社「STARTO ENTERTAINMENT」に分かれ再出発した。だが、被害者の補償状況を含め、旧ジャニーズ事務所を取り巻く環境、長年隠蔽する側に従ってきた業界はどう変わったのか。

「禊(みそぎ)は完全に終わった感がある」。テレビや広告、芸能関係者を取材するとこの意見が大勢を占めた。取材感は「過去の話」と、もはや取り上げるべき問題ではないという消極的なものだ。「日々新しいニュースが入ってくるのでそっちを報じるのが当然」とテレビ局報道幹部が弁明するように、国連人権理事会がジャニーズ問題を未曾有の性犯罪・人権侵害と非難するわりには国内における風化は激しく、実際に報道頻度は著しく減少している。

 被害者のケア・補償を行うスマイル社は2024年9月13日時点で、被害者救済委員会から補償内容を通知した524人のうち、96%に当たる501人と補償内容で合意し、492人に補償金を支払ったことを明かした。補償窓口への申告者数は998人になったが、そのうち連絡が取れなくなってしまっている申告者が237人に上るとした。

告発した人々への誹謗中傷

 そして2024年9月には、元所属タレントが性加害の認定や謝罪を求めて活動してきた「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が解散した。トラウマに苦しみながら性被害を告発した方々の勇気には敬意を表するべきであるが、SNSでは「補償金が欲しいだけの連中」「売名行為」という陰湿な攻撃やセクシャリティにまつわる誹謗中傷が彼らを二重に傷つけている実情があり、被害を訴えていた元所属タレントの40代男性が自殺したことが2023年11月にわかった。恋愛や性行動がわからない少年期に受けた“魂の殺人”は親きょうだいや親友、配偶者にも話せない秘密であり、生涯そのトラウマから解き放たれることはない。

組織的に隠蔽・看過してきた業界全体の罪

 ジャニー氏はすでに亡くなっており、「刑事事件になっていないため報道に及び腰だった」という新聞記者の証言がある。だがそれは、後ろめたさを隠す保身のための言い訳にすぎない。深刻な性犯罪を芸能界の通過儀礼として黙認し、関係する業界全体で組織的に隠蔽、あるいは知っているのに見過ごしてきたことが主犯を最終的に放免した。

 筆者はジャニー氏の姉メリー藤島氏(故人・ジャニーズ事務所の実質的経営者)と面談した際、彼女の金と権力を背景にした異常なまでの万能感を目の当たりにしたが、弟の性癖について「かわいそうな子」と憐憫していたこと、元所属タレントを侮辱する発言、身内絶対優先の利己主義に呆れた。同時に、その支配力に恐怖を感じたのは二度三度ではない。これまでジャニーズ事務所がアメとムチを使い分けメディアをコントロールしてきた60年間の重みは、わずか1年で一件落着となるのであろうか。 

 長年昵懇だったメディアは「長いものに巻かれる」のが常態化し、つまるところ知らんふりで済ませているようだ。

「特にテレビ局は芸能と一蓮托生で、報道はどんどん軽視されている。あるテレビ局の上層部は『本物のジャーナリストは必要ない』と言い、タレントを積極的に報道番組に起用。永田町や芸能プロとうまくやると評価が上がります」(社会部記者)

徹底した検証が不可欠

 さて一方で、騒動の影響で旧ジャニーズから独立・移籍したタレントの動向が注目されたが、個々の活動にもよるとはいえ、旧事務所の圧力はなく伸び伸びと活躍しているように見える。

「滝沢秀明氏が社長を務めるTOBE(トウービー)への移籍組はNHK紅白が出演を熱望しています。残留組の一部は冠番組が大人気です」(民放芸能デスク)

 もはや業界関係者は当事者であったことを忘れているようだ。2024年10月、NHKは旧ジャニーズのタレントの起用を再開する方針を明らかにした。

 しかし将来似たような不幸が起きないようにするには、徹底した検証が不可欠である。旧ジャニーズ事務所は補償の進捗状況を数字のみで示しているが、それではまったく物足りない。同社は厚い壁を作っているようだ。メディアの追及もほとんどない。もちろん人権に配慮しつつではあるが、何が起きたのか具体的に説明し、後世のために記録に残しておく必要がある。徹底した秘密主義を貫いてきたジャニーズ事務所は、それが企業DNAだと常々思うのだが、せめて欧米先進国並みに情報開示はすべきであろう。構造的かつ重層的な問題を含み、検証に数年はかかるはずのこの事件をいっときの騒動で終わらせてはならない。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(中村 竜太郎/ノンフィクション出版)

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