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大企業が続々と“参戦”...マージャンMリーグはプロスポーツになれるか

文春オンライン / 2025年1月3日 17時0分

大企業が続々と“参戦”...マージャンMリーグはプロスポーツになれるか

©時事通信社

 2017年の11月、大手IT企業・サイバーエージェントの藤田晋社長から「マージャンの企業リーグをつくりたい」という構想を聞かされた時は、身体が震えた。企画書の表紙には「Mリーグ」と書かれていた。

イメージが悪いマージャンをエンタメ色が強いスポーツへ

 マージャン界という小さな世界でライターやイベントの運営などで生活していた私にとって、その話は大きすぎた。

 だが、目の前にいるのは藤田晋だ。彼がつくりたいというのだから、来年には形になっているのだろう。私たちはそれに応えることができるのか。大きなリスクを承知でマージャンのために動いてくれる藤田さんに、迷惑をかけてしまうのではないだろうか。

 大きなリスクというのは「ほらやっぱり、マージャンみたいなものに関わったらロクなことにならない」という声があがることだ。それまでもマージャンはコンテンツとして強かった。テレビで対局番組をやれば高視聴率を叩き出していたのだが、スポンサーが付かなかった。

 イメージが悪かったからだ。

 古くは1998年の和歌山毒物カレー事件で、容疑者が自宅で3人マージャンをしていたことが報道された。最近では2020年に黒川弘務元検事長の賭けマージャンを「週刊文春」が報じたが、こういうことがあるたびに「やっぱりマージャンは」という目で見られる。

 企業からは「大衆に愛されるコンテンツではあるが同時に危険もはらんでいる」と判断され、スポンサーがつかない。

 金がないと大きなことができないので、マージャン界はずっと細々とやってきた。

「脱ギャンブル化」をアピール

 その流れを「Mリーグ」が変えた。

 藤田社長が自らチェアマンとなり「ゼロギャンブル宣言」を行った。賭けマージャンに関わった選手は永久追放という厳しい姿勢を打ち出すことで、企業に安全性をアピールした。サイバーエージェント自身がチームを持って参戦することで、大きな説得力が生まれた。藤田さんは真っ暗な洞窟に先に入って「この先に楽しいものがありますよ」と、身を挺してパフォーマンスしてみせたのである。

マージャンが持つ意外な“強み”

 企業人としての藤田晋への信用と、彼とつながることができるメリット。「それでもやはりマージャンは」という懸念。様々な打算を働かせた上で決断を下した6社が「一線」を越えて名乗りを上げた。

 2018年7月17日に発足記者会見が行われ「渋谷ABEMAS(サイバーエージェント)」以外に「赤坂ドリブンズ(博報堂DYメディアパートナーズ)」「EX風林火山(テレビ朝日)」「KONAMI麻雀格闘倶楽部(コナミアミューズメント)」「セガサミーフェニックス(セガサミーグループ)」「TEAM RAIDEN/雷電(電通)」「U-NEXT Pirates」の6社が参加し、計7チームでリーグ戦が行われることが発表された(現在は「KADOKAWAサクラナイツ」「BEAST X(BSJapanext)」の2チームも参加している)。

 選手の中には、俳優の萩原聖人さんもいた。萩原さんはドラフト会議で「雷電」に1位指名され、Mリーグを通じて、マージャンを知らない人たちにも面白さを届ける役割を担ってくれている。

 マージャンは個人競技としてプレーされてきたが「Mリーグ」はチーム戦を採用した。選手たちはスーツではなくユニフォームを着て試合に臨むことになった。

 パブリックビューイングも開催された。マージャンは相手に情報を与えてはいけないゲームなので、観客がいては話にならない。だからシアターのような場所に観客を集めて、スポーツのように大声で応援できるようファンをリードした。

「Mリーグ」以前は2か月に1冊程度のペースだったマージャン関連書籍の発行は倍以上になった。2023年末には、少女漫画誌「なかよし」が付録にカードマージャンセットを付けて話題になった。Mリーガーになった選手の「X」のフォロワーは数倍になった。民放の番組でマージャンが取り上げられる機会も増えた。小学生の大会が行われ、神奈川県の高校でマージャン同好会が発足した。

「Mリーグ」によってマージャンがスポーツになろうとしている中で、意外な「強み」が注目されるようになってきた。マージャンは男女混合で平等に戦える唯一の競技かもしれないのである。

強い女性選手に憧れるファンも急増中

「Mリーグ」では個人成績トップの選手をMVPとして表彰するが、6シーズン中3シーズンが女性選手だ。全選手の男女比は男性2に対し女性が1程度なので、むしろ女性選手の方が強いと言える。

 男性を相手に勝ち切る女性選手たちに憧れる女性マージャンファンも増えた。自分ではマージャンをプレーしないが、観戦するのは好きだという「観る雀」というスタイルのファンも急増中だ。

 約50年前、黎明期のプロマージャン界が模したのは、囲碁や将棋の世界だった。何とかして「権威」をつけようと地道な努力が行われてきたが、実はマージャンに似合うのは、そんな堅苦しいものではなくて、大衆的な娯楽のイメージだ。

 マージャンを野球やサッカーのようなエンタメ色が強いスポーツへと寄せていった藤田チェアマンの目論見は成功した。

「U-NEXT Pirates」を2度の優勝に導いた小林剛プロは「藤田さんがつくってくれたすごいものを、私たちが力を合わせてより良いものにし、後に続く人たちに残さなければならない」と常々言っているが、選手たちがこういった認識を持ち続ければ「Mリーグ」は「ファンのために戦うプロスポーツ」として成熟していくだろう。

「Mリーグ」の閉会式で、満席のファンを前にし「Mリーグは毎日常に面白い。こんなに素晴らしいマージャンに感謝します」と、無邪気にコメントする藤田さんの笑顔を見て、私が7年前に抱いた不安が杞憂だったことを思い知らされた。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(黒木 真生/ノンフィクション出版)

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