川崎の老人ホームで“1ヵ月で3人が転落死”…目撃者も監視カメラもなく「事件は迷宮入り寸前」それでも犯人が見つかったワケ(2014年の事件)
文春オンライン / 2024年12月22日 17時0分
要介護の老人たちが立て続けに転落死した理由とは…。写真はイメージ ©getty
今から10年前の2014年、神奈川県川崎のある老人ホームで1ヵ月の間に3人もの高齢者が転落死した。被害者はすべて要介護、一人で動くのも大変な高齢者の転落死が相次いだ理由とは? そして事件が「迷宮入り」しなかった理由とは? ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『 殺人の追憶 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
老人3人を転落死させた老人ホーム職員
「なんですか? 時間がないんですよ。17時半から歯医者なんで。撮影、やめてもらっていいすか? 帰りますよ。人の目もあるんだから」
――施設の入居者3人が転落したときの状況は?
「いまはお話しできない。私の判断だけではそういう話はできないんですよ」
――誰かの関与も疑われています。
「関与がどういう意味かわからない」
――転落死が起きたすべての夜に勤務していましたよね?
「私が当直していたのは事実です。でも、なにも関与していないんですよ。現場に居合わせたという事実もありません」
――では、一連の出来事についてどう感じていますか?
「私の判断だけではなにも語れないんです。本当は言いたいこともあるんですが、施設との関係もあるし、しゃべれない」
――転落死を伝える報道を見て、どんな気持ちか。
「不安な気持ちがあります」
――不安とは?
「自分が疑われているのではないか、という不安です」
――なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか?
「個人的には、転落事故は食い止められたんじゃないかと後悔しています。自分が関わっていた方々が亡くなってしまうなんて」
これは、入居者3人を転落死させたとして殺人罪に問われ、後に死刑が確定した男による、逮捕前の答弁だ。男は当時、私が記者をしていた写真週刊誌『FRIDAY』で、一緒に取材で回っていた同僚記者からの質問に対して、終始落ち着いた口調でこう返していた。
2014年9月初旬のことだ。短髪で小太り。特徴はひときわ目立つ黒縁メガネくらいか。どこにでもいそうな普通の青年は、このとき逮捕の瀬戸際に立っていたにもかかわらず、あるのは「自分が疑われている不安だけ」だと関与を否定し、焦りは微塵もみせてはいなかった。
男は誰で、当初は関与を否定していたこととは何か。介護施設元職員の今井隼人(当時21歳)で、神奈川県・川崎市内の老人ホームで高齢の男女3人が相次いで転落死した事件である。
事件は2014年11月~12月にかけて起きた。現場は川崎市内の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町(※現在は名称が変更されている)」。京急川崎駅から歩いて10分ほどの場所に、その建物はある。
近隣住民は語る。
「老人ホームから怒鳴り合う声が聞こえました。その後、救急車両の音が聞こえて、気づけば下に人が転落していました」
「事件が起きたころ、頻繁に救急車のサイレンが聞こえました。最初は老人ホームだからと気にもとめなかったけど、あまりに連続したのでよく覚えています」
事件は「迷宮入り」かと思いきや…
施設は2011年秋に開業した鉄筋コンクリート6階建て。介護居室数は80で、すべて個室。入居料は月額22万円。介護保険を利用する多くの高齢者が暮らしていたここで、入所者3人の不審死が相次いだのだ。
11月3日夜から4日未明の間に要介護3で当時87歳男性・丑沢民雄さんが4階403号室号室のベランダから転落して死亡。
12月9日と31日にも、要介護2の86歳・仲川智恵子さんと、要介護3で96歳・浅見布子さんの女性2人が、それぞれ4階403号室と6階601号室のベランダから落ちて命を落とした。
いずれも時間帯は深夜。そして、この施設では毎晩3人の職員が宿直していたが、その足跡を追うと、入居者3人が転落したすべての夜に勤務していたのが冒頭で関与を否定していた今井だったのだ。
要介護2とは、支えがないと立ち上がったり、歩けない状態を指す。食事や排泄などの場面では、見守りや手助けが必要になる。そして要介護3になると、食事や排泄だけでなく、着替え、歯磨きなどあらゆる場面で介助を必要とする。ベランダの手すりの高さは約120cmだった。しかも女性2人は、いずれも身長140cm台と小柄だった。
足が不自由で小柄な方々がベランダを飛び越えて自死する、はずがない――死亡者3人の要介護レベル、背丈や手すりの高さ、そのどちらからも事故ではなく事件であることは、私でも容易に想像された。
ところが意外や、蓋を開ければ目撃者はおらず、監視カメラも設置されておらず、遺書もないことで捜査は暗礁に乗り上げていた。しかも、転落死があったすべての夜に勤務していた今井が「疑われているなという自覚はあったが、突き落としてはいない」と任意の取り調べで関与を否定したことで打つ手はなくなり、警察は司法解剖もせぬまま事故処理しようとしていた。
初動捜査では、警察は事故や自殺の可能性が高いとの観点から、殺人事件を扱う捜査一課との情報共有や連携要請をしていなかったという。そうしたこともありこの連続不審死は、よもや“迷宮入り”寸前だったのだ。
〈 「死んじゃうよ」“女性の首を2秒絞める職員の姿”も…高齢者3人が転落死しただけじゃなかった「川崎の老人ホーム」の“地獄絵図”(2014年の事件) 〉へ続く
(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
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