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「死んじゃうよ」“女性の首を2秒絞める職員の姿”も…高齢者3人が転落死しただけじゃなかった「川崎の老人ホーム」の“地獄絵図”(2014年の事件)

文春オンライン / 2024年12月22日 17時0分

「死んじゃうよ」“女性の首を2秒絞める職員の姿”も…高齢者3人が転落死しただけじゃなかった「川崎の老人ホーム」の“地獄絵図”(2014年の事件)

川崎の老人ホームで起きた惨劇とは? 写真はイメージ ©getty

〈 川崎の老人ホームで“1ヵ月で3人が転落死”…目撃者も監視カメラもなく「事件は迷宮入り寸前」それでも犯人が見つかったワケ(2014年の事件) 〉から続く

 2014年、1ヵ月の間に3人もの高齢者が転落死した神奈川県川崎のある老人ホーム。不自然な死が続いたことで世間から注目を集めるにつれて、同施設の問題がさらに浮き彫りになる。職員たちが入所者に罵声を浴びせ、ときには暴力まで行うその悪質実態とは…。ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『 殺人の追憶 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

事故死から一変、殺人事件へ

〈〈自室以外から転落死か96歳、裏庭で発見 川崎・老人ホーム/神奈川県〉

 

 川崎市幸区の老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で高齢の男女3人が相次ぎ転落死した問題で、市は7日に会見を開き、転落の状況や施設内での過去のトラブルなどについて明らかにした。昨年12月31日未明に6階から転落した女性(当時96)は、居室とは別の部屋のベランダから裏庭に落ちたとみられるという。

 

 市によると、女性は施設北東側の609号室に入所していたが、施設内の通路を挟んだ601号室の下の裏庭で倒れていた。要介護度3と認定されていたという。601号室には別の入所者がいた。

 

 昨年11月4日未明に4階から転落した男性(当時87)と、同12月9日未明に同階から転落した女性(当時86)も同じ裏庭で発見された。施設の報告書では、いずれも「県警の現場検証の結果、転落による事故」とされていたという。県警は経緯に不審な点がないか改めて慎重に調べている。

 

 市によると、市内には2千前後の介護事業所があるが、ベランダからの転落死の報告は昨年度、この3件だけだった。市は近く、施設側に再発防止を再度指導し、入所者らの不安を取り除くために一連の経緯を丁寧に説明するよう求める。

 

 一方、今年5月に入所者の女性(当時85)の家族から「虐待を受けた」と訴えがあり、市は今夏、施設側に改善を求めた。職員4人が、女性に「死ね」と暴言を吐いたり、頭をたたいたりするなどしたという。

 

(朝日新聞 2015年9月8日朝刊)〉

 マスコミの取材レースが本格的に始まったのは、川崎市健康福祉局高齢者事業推進課の関川真一課長が会見で「短期間に3件も起きたのはあまりにも不自然」と話し、朝日新聞が転落の状況や過去のトラブルについての一報を打った2015年9月8日ごろからだった。

 警察は、1・2件目については事故死扱いしたが、3件目が起こり捜査方針を一変。前述の通り今井を任意で聴取するなどして水面下で捜査を続けていた警察が、容疑者・今井隼人の名前と住所をマスコミに漏らしたことで、どよめきが起こり、多くのメディアが各現場に急行したのだ。

 冒頭の答弁は、そうしたメディアスクラムのなかで今井に直撃取材した結果だ。私も御多分に漏れず、「Sアミーユ川崎幸町」などの関連現場を回っていた。

 今井の名前と住所を漏らした背景には、今井を追い詰めるには材料が乏しいことがあった。当時を振り返れば、状況証拠しかなかったことは確かで、これを打開したい警察がマスコミを使い事件を炙りだそうとしていた感すらあった。

 このとき、警察が今井を疑う理由は3つあった。一つ目は、繰り返しになるが、入居者3人が転落死したすべての夜に宿直していたのは今井、ただひとりだったことだ。

 二つ目は今井の素行である。今井は2015年1~4月の間に、入居者3名の居室から現金11万6000円と指輪など4点を盗んでいた。この窃盗事件で、警察は今井を同年5月21日に逮捕。今井は執行猶予付き有罪判決を受け、施設からは懲戒解雇された身だった。

 三つ目は第一発見者だ。それが2件目の仲川さんの場合を除き、いずれも今井だったのだ。

男性職員4人が入所者に「死ね」と暴言

 一方、「Sアミーユ川崎幸町」では、別の問題も起きていた。2015年に入り、一連の転落死以後も、さまざまなドラブルを起こす問題施設であることが露見したのだ。

 同年3月には、男性入居者(当時83歳)が浴槽内で死亡する事故が発生していた。

 同年5月、認知症を患っていた入所者の女性(当時85歳)に対して、今井とは別の男性職員4人が「死ね」と暴言を吐いたり、頭をたたいたりするなどの虐待を日常的に働いていたことが、家族が隠し撮りした映像からわかった。

 私が虐待を受けた女性の長男を直撃し、『FRIDAY』で報じたのは9月半ばのことだ。女性の長男から証拠として提供された映像には、女性をベッドに放り投げる――「死んじゃうよ」と言い続ける女性の首を2秒ほど絞める――など計4回の虐待が映っていた。

 女性の長男は、「短期間で3人が転落死する状況を防げなかった施設です。一歩間違えば、自分の母もどうなっていたかわかりません」と憤りをあらわにした。そして「刑事告訴も検討している」と続けた。

 テレビ、雑誌、インターネットを通じて拡散される虐待映像や今井の素行。それらに突き動かされるようにして一連の不審死に集まる世間の注目。警察は、これらを追い風に今井を追い詰めていったのである。

事件から1年以上過ぎて、ついに犯人逮捕

 時が経つにつれ、世間と同様に、私も今井のことなど忘れかけていた。2015年10月末には、「Sアミーユ川崎幸町」の運営会社と同系列の介護施設(千葉県内)でも2件の転落死があったことがわかり、2015年12月9日には件の虐待事案に対して今井とは別の元職員の男性3人を暴行と業務妨害容疑で書類送検する方針を固めたことが報じられたが、今井に関しての捜査状況は一向に漏れ伝わってこなかったからだ。

 しかし2016年2月15日、事態は急変する。一連の不審死発生から1年以上が過ぎたこの日、思いがけず事件が弾けたのだ。

 今井逮捕の一報が入ったのは翌日のことだった。

(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))

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