なぜ私は『松島トモ子 サメ遊戯』のような映画を作り続けているのか…「バカ映画」の巨匠・河崎実監督かく語りき
文春オンライン / 2024年12月31日 6時0分
©藍河兼一
〈 『ウルトラセブン』でキリヤマ隊長を演じた中山昭二が河崎実監督の『キリヤマ』に出演…その後電話の向こうで無言になったワケ 〉から続く
明治大学を卒業後、CM会社に就職した河崎実監督だったが、当時は「ウルトラマンがラーメンを食べるようなバカ企画」がなかなか通らない。結果、会社を辞めてしまった河崎監督は……。日本映画界を第一線で支える映画監督に若き日を振り返ってもらう好評インタビュー・シリーズの第8弾。(全4回の3回目/ 4回目 に続く)
◆◆◆
『地球防衛少女イコちゃん』でプロデビュー
―― これは河崎さんが企画を持ち込んだんですか?
河崎 もちろん。バンダイにプレゼンして、500万くれといってね。それで勝ち取って。オリジナルビデオだけど。だから、これが商業デビューになったんだよね。
―― 1本目は16ミリ撮影ですね。
河崎 16ミリ。スクーピックという記録映画用のカメラがあったの知ってる? あれ買って。
―― レンズは換えられないですね。
河崎 ズームしかないからね。まあ、これで十分だということで。で、買って撮った。ただ、仕上げはビデオなんですよ。フィルムの素材をビデオにして、合成はビデオ合成。
―― 現場的には自主映画とあまり変わらなかった?
河崎 完全に自主映画だよね。
―― でも、初めて人のお金で作った映画だったんですね。
河崎 そうそう。なんだか全然分からないわけですよね。香盤表とか予定とか。助監督は居るんだけど、学生の後輩なので。だから、ほんと恐ろしかったね。とにかく自分が全部両肩に背負って。新宿駅のホームに立ってる時に、あまりのプレッシャーで逆にハイになって、飛び込んじゃおうかな、みたいなね。
―― エッ?
河崎 もう命がけでやるしかない、そういう感じで全力で撮ったよね。
―― 科特隊本部みたいなところはセットでしたね。
河崎 あれはお金をかけたんですよね。
―― あれも自分で作ったんですか?
河崎 いや、あれはCMの時の付き合いのプロの人に頼んで。2面のパネルだけどね。
『ギララの逆襲』は予算億単位。でもコケた
河崎 『イコちゃん2』からは完全に、スタッフ構成は撮影、照明、録音、メイク、衣装、みんなプロの体制になりましたよ。自ずとね。
―― 予算もだいぶ増えたんじゃないですか。
河崎 今度はそうなると、スタッフの拘束費がかかるじゃない。今までみたいに自主映画で無限に撮るみたいなことはできなくなってきたからね。だから、なおさら段取りをやるというのを覚えたからね。覚えざるを得なかったというか。今もそうなんですよ。来月の映画も俺が全部やってるんだから。
―― 準備を。
河崎 うん。準備、美術、小道具、香盤表、演技事務。昔と全く変わらないというかね。この後、だんだん大作映画になって、『いかレスラー』(04)とか『日本以外全部沈没』(06)とか、俺の第2バブル期だけどさ。
―― 『ギララの逆襲』(08)なんかもかなり予算がかかってますよね。
河崎 あれはかかりましたよ。億単位で。
―― じゃあ、それが最大規模ですか?
河崎 あれがマックスだね。まあ、コケたけどね(笑)。
―― そうですか。
河崎 残念ながら。まあ、ベネチア映画祭に招待されたのが唯一のインチキの誇りですよ。映画ってやっぱりインチキじゃないですか。俺はそう思うんですよね。見世物小屋と同じなので。
―― これは松竹に企画を持ち込んだんですね。
河崎 『日本以外全部沈没』が当たったので、向こうから話が来たんですよ。
―― ああ、そうですか。
河崎 「うちにギララっていう怪獣が居るんですけど、どうですかね」っていう。「もちろんやらせていただきます」って。
―― それはそうですよね。
河崎 『ギララ』は井筒(和幸)監督とか大森(一樹)監督とかいろんな監督が撮りたがっていたんだけど。
―― そうなんですか。
河崎 ただ、普通の監督が撮ったら10億円かかるじゃん。だから無理だったんだけど。わけの分からない監督だったら安く上げてくれるんじゃないかと思ったけど、ちょっと当てが外れたよね。
―― でも、ビートたけしさんが出てましたね。声だけ?
河崎 いやいや。声とキャラクター権と。
―― タケ魔人の顔は相当本人に似てましたもんね。
河崎 だから、俺はそういうキャスティングの人なんだよね。無名の人ばっかりでいい映画が作れる監督も居るじゃないですか。『カメラを止めるな!』とか、最近の『侍タイムスリッパー』もそうだけど。俺は違うんだよね。誰が出てるんだ、ってことが大事。
キャスティングが企画の肝
―― キャスティングで企画が決まる的な? 企画ありきのキャスティングですよね。
河崎 企画があって。例えば最新作の『松島トモ子 サメ遊戯』っていうやつも、これはサメのゲームのプロモーションビデオを作るはずだったんだけど、じゃあサメに襲われる役は誰がいいかなといったら、ライオンとヒョウに食われた松島トモ子さんでいいんじゃないかって。松島トモ子がオーケーしてくれたから企画が転がっていくという。
―― なるほど。ポスターのビジュアルとタイトルとキャスティングで、それだけで河崎さんの映画のすべてが伝わってくる感じがありますよね。
河崎 そうだね。今日、ヨネスケさんが『徹子の部屋』に出て、俺の『突撃!隣のUFO』(23)っていう映画の話をしてくれてね。この人がUFOに突撃するっていうだけの映画だから。これで俺の好きなUFOのネタができる、っていう。
―― 必ず怪獣映画エッセンスは入ってきますよね。
河崎 大体着ぐるみは出てくるからね。3メートルの宇宙人。
―― そうやって次々に成立しているのがすごいですよね。未亡人で壇蜜さんのとか。
河崎 『地球防衛未亡人』(14)。これは当たったんだよ。
―― タイトルとキャスティングでみんな「エッ」と思ったんじゃないですか。
河崎 だから、俺の映画ってそれだけなんだよね(笑)。
―― でも、そこに河崎さんという名前があるとちょっと安心感があるのは確かです。
河崎 『いかレスラー』ぐらいからでしょう。この人はバカなんだ、っていう。
最初からバカって言っておけば怒られない
―― そういうポジションの監督ってそれまでいなかったですよね。
河崎 俺はこういうキャラクターもののお笑い映画しか撮れないんですよね。しかもユルい笑いの。『ヅラ刑事』(06)とか。だから、企画ものですよね。出オチというか。
―― それは最初から狙っていたわけじゃなくて、だんだんそうなったんですか?
河崎 俺も腐ってもプロなんで。まあ、ほぼ腐ってるけど(笑)。
―― いやいや(笑)。
河崎 ほんとほんと。やっぱり分かってきたわけだよ。人がどう俺を見るか。最初からバカって言っておけば怒られないし。だから、そういうポジションに行こうと思ってね。
―― 今、年2本ぐらい撮られているじゃないですか。
河崎 3本撮ってるね。
―― ああ、そうですか。
河崎 来年、俺の劇場公開作3本あるんだもん。
―― それだけ撮っている監督はあんまり居ないですよ。
河崎 あなたも撮ってるじゃないですか。
―― 僕はそんなペースじゃないです。
すべては人との出会い
河崎 それもスタッフというか、人のおかげですよ。もう亡くなったけど、叶井俊太郎という、『アメリ』を配給したプロデューサー。あいつが居なかったら俺も『いかレスラー』以降の映画は撮れてないし。
―― そこで確立した感じはありますね。
河崎 そうだね。あいつとの二人三脚で。実相寺監督との出会いもそうだけど、本当にすべての人との出会いですよ。家族もそうだけど。それに感謝して、バカなようだけど真面目にやってるっていうことしかないよね。俺、奇跡だと思うよね。俺が映画だけでやっていけるのは。
―― そうですね。
河崎 まあ、当然いろいろ大変なんですよ。裏ではいろいろ大変なことが起きているんだけど、やっぱり表面上は白鳥のように水面を優雅に。で、下ではもがいているというね。『巨人の星』の花形満が言ってたことですよ。
俺は運のいい男
―― 外から見てると、河崎さんは学生時代から全然変わらずに自分の世界を作られていると思うんですけれども、河崎さんの中では何か違いってあります? 8ミリ時代と今って。
河崎 全然変わってないよね。
―― やりたい世界は変わってない。
河崎 全然変わってない。システムとかお金とかの部分は当然プロだから変わってるんだけど、おもろいものを作りたいということでは全然変わってないですよ。ただ、あなたもそうだと思うけど、頭の中で考えて「これをやろう」といっても、なかなか企画って進まないじゃない。何本も考えて、実現するのはごく一部じゃないですか。だから、常に考えていて、松島トモ子が出てきたら動くとか、そういったことだよね。でも、それが続いて実現化しているのは奇跡に近いと思うんですよね。だから、俺はなんて運のいい男だろうっていう。
―― すごいタイムリーな企画をどんどん出しているけど、実はその裏に実現しなかったたくさんの企画もあるんですね。
河崎 無数にあるよね。
―― じゃあ、常にどんどん企画開発して、営業をずっとしているんですか?
河崎 営業というか、基本的に飲んでる時にバカなことばっかり言ってるんじゃないですか。で、次の日の朝起きて書いてみたら「あ、これ駄目だ」とか、その繰り返しなんですけど。
―― 河崎さんの作り方だと、お金を出してもらうというよりも、思い立って「これだ」と思ったらやっちゃうという感じですか。
河崎 それがまた不思議なことに、俺の企画が面白いと言う人がいっぱい出てきて。テリー伊藤とか、あといろんなプロデューサーが居るんだけど、なんか知らないけど「やらせてやるぞ」ということになってくるんですよ。しかも、その時はその人が内容にいっさい口出しなしっていう。
―― なるほど。「好きなことやっていいよ」というプロデューサーが。そうですね。叶井さんの前はテリー伊藤さんがいました。
河崎 テリー伊藤さんもそうだったけど、100パーそういうふうになってるんですよ。例えば「この女優を出してくれ」とか、そういう内容にかかわる改変を迫られるようなことはなかったね。それが俺の運のよさというか。
〈 「Yahoo!ニュースになった時、5行で全部が分かる映画をずっと作ってきた」河崎実監督の“笑撃の映画術” 〉へ続く
(小中 和哉/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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