「Yahoo!ニュースになった時、5行で全部が分かる映画をずっと作ってきた」河崎実監督の“笑撃の映画術”
文春オンライン / 2024年12月31日 6時0分
©藍河兼一
〈 なぜ私は『松島トモ子 サメ遊戯』のような映画を作り続けているのか…「バカ映画」の巨匠・河崎実監督かく語りき 〉から続く
壇蜜主演『地球防衛未亡人』が当たったように、自分の映画はタイトルとキャスティングがすべてと明言する河崎実監督。なんと2025年には3本が公開予定だという。日本映画界を第一線で支える映画監督に若き日を振り返ってもらう好評インタビュー・シリーズの第8弾。(全4回の4回目/ 最初 から読む)
◆◆◆
そんなアホな、という展開が好き
河崎 とにかく、何か異様なことが起きるのが好きなんですよ。映画で意外なことが起きるのが。デウス・エクス・マキナだっけ。
―― 機械仕掛けの神。
河崎 要するに、急にすごいものが出てきて全部ひっくり返るという。あれが好きなんですよ。そんなアホな、っていう。
―― 大体そういう展開ですよね。
河崎 大体そういう展開。あきれるものが最後に出てきて終わるっていう。
―― この話にもロボットが出てきたか、みたいなのも多かったですよね。
河崎 『大怪獣モノ』とか。見てないだろうけど。
―― いや、見ましたよ。
河崎 見た?
―― 主役が途中で変わっちゃう。
河崎 オチ、ひどかったでしょう。毒蝮三太夫が。
―― ああ、そうそう。ババアいじりで怪獣を倒す(笑)。
河崎 これもキングレコードに反対されたんだけど。山口(注1)さんに。
―― 「これ、本気ですか?」って一応言われるんだ。でも、押し切ったんですね。
河崎 うん。「じゃあ他に何があるんですか」っていう(笑)。怪獣映画のオチって、海底火山の爆発とか、海に落ちて居なくなるとか、いろんなオチがあるじゃないですか。だから、もう面白くないんですよね。人間が超兵器で倒すとか。なんかねえかなといって、あれになっちゃった。まあ、観てもらえば分かるけど。
―― そういう意味ではインパクトがあった。
河崎 俺の原点は、とにかく笑ってるだけですよ。こうなりゃいいんじゃないか、って笑ってるだけを実現化しているだけと言っても過言じゃないじゃないですか。最初の『フウト』だって、先輩と話して。
―― ほぼ一緒ですね。『三大怪獣グルメ』と。
河崎 リメイクですよ。
―― ですね。すき焼きのネタが海鮮丼に変わっただけですよね。
河崎 そうそう(笑)。セルフリメイクですよね。
一生やるしかない、この路線で
―― でも、そのノリをいまだにやってできちゃうというのはすごいですよね。一つのジャンルを作っちゃったんじゃないですか。
河崎 小っちゃいジャンルだよね。
―― でも、小っちゃいからこそ続けられるし、存在価値がある。
河崎 結局昔からいろんなこういうことをバカがやってる、「またやってる」っていう人が居るじゃないですか。「またやってるの?」みたいな。それが「まだやってる」になると、もうあきれて尊敬もしてくれるんじゃないかという話ですよ。
―― 河崎さんがまた撮ったということ自体がネタになっているというか、そういう存在になってますよね。
河崎 Yahoo!ニュースに出た時に、わずか5行で分かるというね。そういうことしかやってないじゃないですか。「松島トモ子がサメと戦う映画です」って。
―― これはきっと河崎さんだろうというふうに思いますよね(笑)。
河崎 たまに俺じゃないこともあって、「違ったのか」みたいな。まあ、いろいろ変な映画はあるからね。ちょっといつまで生きるか分からないけど、一生やるしかないよね。
―― じゃあ、これからもその路線で。
河崎 死ぬまでやるしかないでしょう。恐ろしいことに。
普通の映画監督との違い
―― 河崎さんは自主映画からCMを経て、一回は普通の映画作りを目指そうとは思ったんですか? 今のスタイルになるのはいろいろあってこうなったんですか?
河崎 あったね。要するに、監督で食っていけるのはサスペンスものだったじゃないですか。
―― ジャンルもいろんなことをやらないといけないし。
河崎 やっぱり『土曜ワイド劇場』とか『火サス』の監督。あと、連続ドラマの監督。普通の青春とか刑事もの。それぐらいしかなかったじゃないですか。映画というと、やっぱり観念的な映画とか芸術映画とか、いろんな映画があるじゃない。俺はどれもできないなと思っちゃってね。よく笑い話で言ってるんだけど、私にも奥さんがいるんですけど、テレビドラマを一緒に見ていて、俺が「いつ怪獣が出るんだ」と言って怒られるという(笑)。
―― 全部そういう目で見ちゃう。
河崎 そうそう。韓流ドラマも全然見ないんだけどね。全然面白くないから。怪獣が出ないから。
―― 撮りたい世界をやるには自分でやるしかないみたいな感じになっていったということですか。
河崎 驚かせてくれればいいんですよ。意外なことが起きれば。予想を外すような。
―― 半分気持ちは分かるんですけど、僕も金子修介さんから「小中君は普通の映画は撮らないの?」と言われたことがあります。金子さんみたいに職人監督として何でもやるというのとはちょっと違う感じがある気がします。
河崎 あなたはファンタジーの天才だから。
―― ファンタジー以外、あまり撮ろうという意欲がないというか。
河崎 そうだよね。だって、普通の男女の恋愛ドラマなんかどこが面白いんだっていう。
―― そうなんですよ。
過去なしに映画は観れない
―― この間、古谷さん(注2)の『ウルトラマンになった男』の本を読み返したら…
河崎 読んだ? 俺も出てきたでしょう。
―― そうそう。河崎さんに「映画に出てください」と言われてすごい感動したという話が締めのほうに出てきました。さっきも話に出ましたが、子ども番組に出たのは一つの通過点だと思っていた方々が、それを見ていまだに自分をヒーロー視して映画を作ろうと言ってくる人が居たことに驚いた。僕が河崎さんの映画ですごく感動したのは、『いかレスラー』のきくち(注3)さんの役。きくちさんが最後に裸になってレスラーとして戦うじゃないですか。帰ってきたウルトラマンの中に入っていた人が、ああやって裸になって戦うというのは、すごいクライマックスですよね。僕らはウルトラマンの戦いを見てきたけど、そのスーツの下ではきくちさんがこうやって戦っていたんだと、生で見れる。
河崎 そうでしょう。そうなんですよ。やっぱり過去なしに映画は観れないと思っちゃうんですよ。スーツアクターってかぶっちゃうじゃない。かぶったら古谷敏がウルトラマンになる、きくち英一が帰ってきたウルトラマンになるっていう、あれがまた面白いんだよね。そういうところを語り出すと延々と語れちゃうよね。
―― そういう意味では、キャストの過去の役も重ねて見るし、怪獣映画のパロディというのもそういう文脈で、新しい映画で、過去の怪獣映画の良さをまた観れる嬉しさがある。だから、河崎さんの映画って過去の映画史を知って観ないと良さは分からないだろうし、それで感動できるという映画ですよね。
河崎 サラッと見てると「なんだこの映画」と思うんだけど、きくちさんがどういう人かということを知ったら、なおさら面白くなるということでしょうね。そういう映画ばっかり撮ってるから。
日本のロジャー・コーマン?
―― プロレスの映画も何本かありますけど、怪獣映画と重なる部分があるんですかね。
河崎 だって、怪獣プロレスって揶揄されたんだもん。『キングコング対ゴジラ』から、あなたもさんざんやったウルトラマンの戦いというのは、しょせんは怪獣プロレスじゃないですか。段取りがあってやってるみたいな部分であると。そういうのを考えると、いろいろやることはまだあるんじゃないかっていうね。
―― そうですね。河崎さんの自伝、ロジャー・コーマンの本と同じようなタイトルを付けてましたよね(注4)。
河崎 そうそう。『私はいかにして30年、一度も自腹を切らずに「電エース」を作り続けられたのか』という。
―― やっぱりロジャー・コーマンは意識しているんですか?
河崎 いや。ロジャー・コーマンはちょっとエログロも撮るじゃないですか。俺はお金がないロジャー・コーマンですね。
―― さらにお金がない(笑)。
河崎 あとは、才能のあるエド・ウッドですからね。そう言ってるんで。
―― なるほど。エド・ウッドに近い。
河崎 エド・ウッドは映画を撮る才能がないと思うんだよ。愛情はあるんだけど、技術はないと思うんだよね。俺は映画を作る技術はちゃんとある。そういう感じですよ。
注釈
1)山口幸彦 キングレコードのプロデューサー。
2)古谷敏 俳優。初代ウルトラマン役、『ウルトラセブン』のアマギ隊員役。
3)きくち英一 俳優、スタントマン、殺陣師。帰ってきたウルトラマン役。
4)ロジャー・コーマンは『私はいかにハリウッドで100本の映画を作り、しかも10セントも損をしなかったか』というタイトルの自伝を書いている。
(小中 和哉)
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