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昭和を生きた一家が目撃した東京…直木賞候補作・荻堂顕『飽くなき地景』

文春オンライン / 2025年1月7日 6時0分

昭和を生きた一家が目撃した東京…直木賞候補作・荻堂顕『飽くなき地景』

荻堂顕氏

〈 科学と地方ミステリー…直木賞候補作・伊与原新『藍を継ぐ海』 〉から続く

 きたる1月15日、東京築地の料亭・新喜楽にて第172回直木三十五賞の選考会が開かれる。作家・荻堂顕氏に、候補作『飽くなき地景』(KADOKAWA)について話を聞いた。(全5作の3作目/ 続きを読む )

◆◆◆

昭和を生きた一家が目撃した東京

「編集者から『日本版のグレート・ギャツビーを』という提案を受け、一人称で描く一代記かと考えた時に、丸山健二さん『ときめきに死す』や柴田翔さん『されど われらが日々――』など、学生運動やテロリズムを描いた左派の小説が浮かびました。ならば僕は右を書いてみようと。何かよいモチーフはないかと辿り着いたのが刀でした。本来武器である日本刀は、終戦後GHQに没収されそうになりますが、美術品との認定を得ることで、所持を許された歴史があります。自分の存在を成立させるために言い訳や建前を考える様は、戦後の保守派の在り方、ひいては戦後日本の在り方にも通ずるように感じます。もともと関心のあった都市開発に重ねる形で、物語が立ち上がっていきました」

 旧家の嫡男として生まれた烏丸治道は、大学のボディビル・クラブに所属しながら、祖父の蒐集した刀剣を展示する私設博物館の設立を志す。しかし思うような進路が叶わず、父の経営する烏丸建設への入社を決意。時は一九六四年、東京オリンピック開催前夜のことだった。広報課に配属され、ある一大プロジェクトに乗り出すが――。

「当時の空気に直接触れることはできないので、映画や映像も参考にしました。ヤクザから俳優に転身した安藤昇の映画を観た時に、改めて、めちゃくちゃな時代だったと感じましたね。若い世代にとっては、昭和という時代そのものが、もはやフィクションのようで、何を創作してもいいと考える人も多いかもしれない。でも、かつて現実に存在した時代を背景にして、作者の伝えたい現代の価値観を入れ込むことは、僕は歴史に対する冒涜でもあると思うんです。治道たちは古い価値観を持っていますが、作者だからといって、彼らの考え方を勝手に曲げてはいけない。急にリベラルな思想に目覚めたりしないように意識しました」

 高度成長期を駆け抜けた一九七九年、烏丸建設はスキャンダルに見舞われる。一家の危機の果てに、祖父がしまい込んだ“秘密”も明らかになる。

 物語の最終盤、晩年を迎えた治道は、東京湾に面したあるビルを見つめ、様変わりした二〇〇〇年代の東京と烏丸家に正面から対峙する――。

「旧華族の家に生まれ、不自由なく育った主人公に対して、全く共感できなくて面白くないと思う人もいるかもしれません。でも、彼は大きな仕事を成し遂げながら、無邪気さと狡猾さも持ち合わせた人物。時代を描きつつ、彼の姿を読者がどう見るかを楽しみに書きました。大好きな『グレート・ギャツビー』に迫れていたら嬉しいですね」


荻堂 顕(おぎどう・あきら)
1994年3月25日生まれ。東京都世田谷区成城出身。早稲田大学文化構想学部卒業後、様々な職業を経験する傍ら執筆活動を続ける。2020年「私たちの擬傷」で第7回新潮ミステリー大賞を受賞。21年、新潮社から同作を改題した『擬傷の鳥はつかまらない』を刊行し、デビュー。23年、第二作の『ループ・オブ・ザ・コード』が第36回山本周五郎賞候補に。24年、第三作の『不夜島』で第77回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞。

〈 この藩主「名君」か「暗君」か…直木賞候補作・木下昌輝『秘色の契り 阿波宝暦明和の変 顛末譚』 〉へ続く

(「オール讀物」編集部/オール讀物 2025年1・2月特大号)

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