“オリジナル主人公&平成舞台&複雑な構造”で脱落者が続出…それでも「おむすび」が“優れた朝ドラ”である深い理由
文春オンライン / 2024年12月27日 8時0分
橋本環奈(番組公式サイトより)
〈 一度は「叩いてもいい朝ドラ」認定された「おむすび」はなぜ5週目に復活できたのか “厭世感に囚われた橋本環奈”という違和感の正体が… 〉から続く
朝ドラ『おむすび』が震災を描いた理由について、脚本を担当する根本ノンジは、制作局がNHK大阪で、オンエア中の2025年に阪神・淡路大震災から30年の節目を迎えるため「その出来事としっかり向き合うべきではないか」と思ったと答えている(「NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説おむすび Part1』より)
そして同時に「昨今の朝ドラのオリジナル現代劇は良くも悪くも、いろいろな意味で注目される。そのため正直オリジナルを描くことを躊躇した」とも語っている。
現代を舞台にしたオリジナル作品は批判されることが多い
濁した言い方だが、近年の朝ドラは過去に成功した偉人をモデルにした主人公の半生を描いた物語が人気だ。対して現代(昭和末~現在)を舞台にしたオリジナル作品は批判されることが多く、2013年の『あまちゃん』と2017年の『ひよっこ』以外は厳しい批判に晒されている。
根本が「躊躇した」と言っているのはそのためで、今や現代劇は朝ドラにとって鬼門だと言って間違いない。特に評価が厳しいのが『おむすび』のような平成を描いた作品だ。
バブル崩壊以降、失われた30年と言われた平成は文化的にはそれなりに豊かで、今振り返ると平和だったが、経済的には低成長の停滞した時代だった。
そんな時代を生きるヒロインを描こうとすると、どうしても物語は内省的で暗いものになってしまい、派手な活躍を描くことが難しくなる。
実在の偉人をモデルにしている朝ドラなら、あらかじめ成功譚となることがわかっているため、視聴者は安心して最後まで見届けることができる。
だが、「主人公の成功」が保障されないオリジナルキャラクターの場合、先が見えない展開になるため、視聴者は不安に晒される。
そこで身内に足を引っ張られて貧乏になるといった鬱展開が続いたり、登場人物の行動に違和感を覚える不可解な描写が続くと視聴者のストレスが溜まり、その捌け口として激しい批判が呟かれ、SNSが炎上する。
それでも三谷幸喜や宮藤官九郎、最近では野木亜紀子といった、過去作の成功で作家性に信頼のある脚本家なら、多少違和感のある展開が続いても、続きを観て考えようと評価を保留にしてもらえる。
根本ノンジも『監察医 朝顔』(フジテレビ系)、『パリピ孔明』(同)、『正直不動産』(NHK)といった作品を手掛ける人気脚本家で、『おむすび』と同じタイミングで放送された『無能の鷹』(テレビ朝日系)も好評だった。
ただ、手がけた作品の多くは原作モノで、漫画や小説の脚色には定評があるが、朝ドラのような長丁場のオリジナル作品は今回が初めて。
そのため、視聴者との信頼関係がまだ固まっていなかった。『おむすび』は根本にとっては勝負作と言える作品で、だからこそ構成やキャラクター描写は複雑で力が入ったものとなっていて、筆者もその複雑さを面白く観ていた。
その複雑さに耐えられない視聴者が早々と離脱してしまったというのが、本作が苦戦している一番の理由ではないかと思う。
わかりやすさよりも、被災体験の実態を描くことを重視
それでは『おむすび』を神戸の幼少期から始め、幼い結が阪神・淡路大震災を経験する場面を導入部で描いていたら、本作の評価は変わっていたのだろうか? おそらくある種の「わかりやすさ」は獲得できただろう。だが、失うものも多かったのではないかと思う。
第8週から米田家は神戸に戻り、結は栄養士になるため、栄養専門学校に通うようになる。そこで栄養士を目指す仲間と出会い、切磋琢磨することで成長していく。同時に描かれるのが、震災から12年が経ち表面上は復興が進んだように見えるが、今も心に傷を抱える神戸の人々の姿だ。
震災渦中の混乱をドラマチックに描いた後、復興する街並みと人々の絆を美しく描けば、物語としては綺麗にまとまる。ただ『おむすび』はそこで終わらず、被災体験がその後、人々にどのような影響を及ぼすのかを、じっくりと追っていく。
こういった描き方は半年という長丁場だからこそできる朝ドラならではの描き方だろう。
ギャルマインドを身に着けた橋本環奈の明るさが全面に出るように
来年2025年は阪神・淡路大震災から30年の年になる。第11週で結は就職し、栄養士として社員食堂で働くようになるが、おそらく劇中では2010年代を描くことになるため、2011年3月11日の東日本大震災も阪神・淡路大震災と対比する型で描かれるのではないかと思う。
震災を背景にした平成史というセンシティブな題材を扱っているため、気軽に観てほしいとは言えないが、ポップでコミカルなやりとりの背後にしっかりとした人物描写があり、真摯に震災体験と向き合っている誠実な作品であることは間違いない。
当初はチグハグに見えたギャルと栄養士という要素も震災を軸に融合し、ギャルマインドを身につけた結もどんどん明るくなり、橋本環奈の持つ明るさが全面に出るようになってきている。だから、来年からでもいいので、序盤で離脱した人にこそ『おむすび』を観てほしい。
(成馬 零一)
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