新しい暗号通貨、分断のないSNS、超小型人工衛星……わたしたちは、いつまで人間でいられるのか?
文春オンライン / 2024年12月24日 6時0分
『暗号の子』宮内 悠介(文藝春秋)
テクノロジーと「優しさ」について
宮内悠介さんの『暗号の子』は、テクノロジーの新時代を描いた作品集だ。
帯のメッセージは、「わたしたちは、いつまで人間でいられるのか?」。
テクノロジーって、なんだろう。
もちろん、いまの人間が生きていくうえで大事なものだ。
テクノロジーによって、人間性をはぎとられるような感覚もある。いまこの瞬間にも、進化を続けている……。
宮内さんにとって、テクノロジーの原体験は「飛行機」だった。
「4歳のとき、家の都合で日本からアメリカに渡ったのですが、そのときに乗った飛行機です。この移動の前後で、自己やアイデンティティといったものが連続していないような、奇妙な感覚をおぼえました」
宮内さんは高校生直木賞受賞作の『ラウリ・クースクを探して』の主人公と同じように、ニューヨークで過ごした少年時代に旧式のコンピューターと出会っている。同賞受賞記念のトークイベントでは、大学卒業後にプログラマーとして働いた経験が「生きていく上で役に立っている」と語った。
全8作のうち、最初に「ローパス・フィルター」を書いたのは2018年のこと。SNSによって社会が分断されることの「悪」を描いた。
「当時は情報環境も、わたしの認識も、いまよりは素朴だったと思います。テクノロジーと完全自由主義が結託していると感じるようになったのは、もう少しあとのことで、誰の目にもわかるターニングポイントはイーロン・マスクによるツイッター社買収でしょうか。完全自由主義を志向する人間が、ひとつの巨大な情報空間を取りしきるようになったわけですから」
2024年に宮内さんが書いたのは表題作の「暗号の子」と「ペイル・ブルー・ドット」で、この本の最初と最後に収録されている。これら全8作を読むうちに、わからないものだったテクノロジーが“自分の手に取りもどされていく”ような感覚をおぼえるのだ。
人間とテクノロジーとの関係性において「信頼」を知ることは、人間同士の優しさにつながるのだろう。
「暗号の子」の梨沙は、2025年を生きている。彼女の父親は梨沙に「暗号の夢を追いかけてほしい」と話した。「やりたいようにやれ」と……。
梨沙の強さの根源には、優しさがある。優しさこそ、強さなのか。
「テクノロジーが遠ざかっていく速度は、追いつこうとする速度に対して上がっていくはずで、もしかしたら“自分の手に取りもどされていく”ような感覚を抱けるのは、わたしたちが最後の世代かもしれません」
宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)
1979年東京都生まれ。2017年『カブールの園』で三島由紀夫賞、24年『ラウリ・クースクを探して』で高校生直木賞を受賞する。
(「オール讀物」編集部/文藝出版局)
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