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“地面師”でもなく、“オレオレ詐欺”でもなく…「ポスト特殊詐欺」のヤバすぎる経済犯罪

文春オンライン / 2025年1月12日 7時0分

“地面師”でもなく、“オレオレ詐欺”でもなく…「ポスト特殊詐欺」のヤバすぎる経済犯罪

©AFLO

 犯罪は変異していくコロナウィルスのようだ――。犯罪の位相をとらえる際、ウィルスに例えたのが『特殊詐欺と連続強盗』(文春新書)である。

 特に、昨今猛威を振るう、特殊詐欺などのような経済犯罪は色々な表情で我々の前に現れる。その時の経済状況、法律の改正や新法の施行、ネットなどツールの進化、そして暴力団や準暴力団(半グレ)など裏社会の変化など様々な要素によって犯罪の位相が変わっていく。そこを踏まえておけば次なる犯罪が我々の前にどのように現れるのか、ある程度推測や解析が出来るというものだ。

歌舞伎町で見つけた〈地面師にご注意ください〉

 5年くらい前、新宿・歌舞伎町の職安通り沿いの土地の一角で、こんな立て看板を見つけた。

 【告 この土地は売り物ではございません。地面師にご注意ください。所有者】

 地面師とは、主として土地の所有者に成りすまし、勝手に売買契約を結ぶなどして、その土地や購入希望者のカネを騙し取る詐欺師のことだ。多くの場合、偽の所有者を演じる役や、売却話に真実味を持たせるブローカー役など、複数人が組んで活動していると見られる。

 地面師の存在が世間の注目を集めたのは、2017年に、大手住宅メーカーの積水ハウスが地面師グループに土地の購入代金として55億5000万円を騙し取られた事件がきっかけだった。ネットフリックスの話題作『地面師たち』はこの事件をモデルにしている訳だが、積水ハウスが偽の売買契約に基づいて申請した登記が認められなかったことから、詐欺であることが発覚した。

 その一方、所有者がまったく気づかないうちに、地面師によって土地が転売されてしまった事件もある。

 買い手もまた、地面師に騙されていたとなれば、土地所有権の原状復帰は裁判を経なければならず、本物の所有者と買い手の双方に損害が生じる。地面師が、不動産のプロであることは間違いない。売買慣行や関連する法令を知り尽くしているからこそ、関係者全員を騙すことができるのだ。

もうひとつ注意すべき新たな犯罪のスタイルとは

 こういった古典的犯罪が社会に根を張り続ける一方、新たな犯罪のスタイルが言わずと知れた特殊詐欺(オレオレ詐欺)であり、匿名・流通型犯罪(俗語で「トクリュウ」とも)だ。結論めいた事を言ってしまうと経済犯罪は「アマチュアとプロの二極化」の方向へ行くと見るべきだろう。

 いわゆる「ルフィ事件」がアマチュア化の最たる例だ。

「ルフィ事件」は主犯格とされている今村磨人被告、渡辺優樹被告らが特殊詐欺をはたらいていたが、連続広域強盗事件も起こしていた。その中で残虐という意味で特筆すべきは狛江市強盗致死事件だ。通信アプリ「テレグラム」で指示された「ルフィ強盗団」が90歳の女性を殴打の末、死に至らしめた。犯行には当時19歳の大学生も加わっていた。アマチュア化の典型と言えるだろう。地面師のようなプロの犯罪とは真逆の、稚拙であり無計画な犯行だ。

 プロの経済犯罪で言えば地面師の他、オレオレ詐欺の元祖ともいわれる五菱会事件が思いつく。SNS詐欺やロマンス詐欺など総称して言うところの特殊詐欺は、オレオレ詐欺から始まったと言ってよい。1990年代後半から2000年代前半にかけて梶山グループ(別名、カジック)と言われた巨大な詐欺グループが存在した。元山口組美尾組(のちに五菱会、現・清水一家)の組員だった人間がトップになり、オレオレ詐欺が始まったと言われている。

 オレオレ詐欺は2000年代前半に隆盛を見せた。2011年に全国に暴力団排除条例が施行されたのを契機に、それまで暴力団が手を出してこなかったオレオレ詐欺もシノギと化していった。銀行通帳、運転免許証さえ作れず、生活することが困難になったヤクザは手段を選ばなかった訳だ。

ある指定暴力団三次団体幹部が漏らした“一言”

 積水ハウス地面師事件の全貌は、まだ明らかになっていないと囁かれている。梶山グループは、トップは逮捕されたものの、幹部や末端の人間はそのまま社会に溶け込んでいった。いわゆる「プロたち」の犯罪の特徴だ。謎を残し、全ては明らかにされていない――。

 翻ってルフィ事件は主犯格の逮捕から始まり、末端の人間も裁判にかけられ、全貌がめくられていっている。この違いこそ、現代の経済事件の特徴を表していると感じている。

 ある指定暴力団三次団体幹部が漏らした。「一発、ぶち上げたいとは思っている」。また、準暴力団の人間も「これで終わりたくないですね」と言う。火種はどこかで燻(くすぶ)っているのだ。

 ルフィ事件の「亜流」のような事件はいまも散見される。大阪では特殊詐欺グループが7月に摘発。105人もの人間が逮捕されている。SNS型の投資詐欺であり、大阪府警がグループの実態を捜査中だが、恐らく「トクリュウ」の範疇だろう。グループのリーダーは指名手配され東南アジアに逃亡中とされている(2024年9月28日現在)が、これほど大量の人間が逮捕されている時点で「失敗」であり、アマチュアの犯罪と捉える事が出来る。そして、失敗しているにもかかわらず、この手のアマチュアの経済犯罪はしばらくは続くというのが筆者の見通しだ。

 アマチュアの経済犯罪はSNSの発達と共に増加していくと思われる。それは分かりやすい形で我々の前に姿を現し、報道されるだろう(目立つだろう)。その水面下ではプロが起こす経済犯罪がうごめいている。深海に潜った魚のように姿を見せず、報道ベースに乗りにくい。こういった二極化が、今後の経済事件の構図になっていくのではないだろうか。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(久田 将義/ノンフィクション出版)

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