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「北朝鮮より子供の数が少ない」「世界で最も子供を産まない国」韓国“超少子化地獄”のリアル《ソウルの出生率は0.55》

文春オンライン / 2025年1月8日 6時10分

「北朝鮮より子供の数が少ない」「世界で最も子供を産まない国」韓国“超少子化地獄”のリアル《ソウルの出生率は0.55》

©AFLO

 東京は0・99、ソウルは0・55。何の数字だか、ご存じだろうか? これは、両都市の2023年の合計特殊出生率である。東京は統計を取り始めて以降、初めて「1」を割り込んだことで懸念が広がったが、韓国の首都ソウルの出生率は、そんな東京の半分強しかないのである。

韓国の“少子化地獄”で起きていること

 実際、ソウルに住む私の近所でも、子供を見かけることが、すっかり少なくなった。近くの幼稚園は、いつの頃からかお年寄りのためのケアセンターになってしまい、廃校になった中学校の運動場は臨時駐車場として使われている。子供たちの笑い声が響き渡った家の近くの小さな公園は、飼い主の手に引かれて散歩に出た子犬たちの遊び場になって久しい。

 ソウルだけではない。韓国の2023年の出生率は0・72で、OECD(経済協力開発機構)加盟国38ヵ国の中で6年連続、最下位を記録。「世界で最も子供を産まない国」と化している。超少子化の韓国の未来展望は、暗澹たるものだ。韓国統計庁の未来人口推計によると、23年11月現在、韓国の総人口は5177万人だが、2041年には4000万人台に落ち込み、2070年には3000万人台になる見通しだ。類例のない韓国の少子化がもたらす人口減少現象を、米国の『ニューヨーク・タイムズ』誌は、「14世紀のペストがヨーロッパにもたらした人口減少を凌駕する」と揶揄したほどである。

 超少子化は生産年齢人口(15~64歳)の減少に直結し、韓国経済を脅かす。2050年の韓国の生産年齢人口は現在より33・2%減少し、2070年には53・2%も減少する。それによって、韓国経済人協会の展望によると、現在の年平均2%台の経済成長率は2061年からマイナスに突入する。

 休戦ラインを挟んで北朝鮮と軍事的に対峙している安保状況にも多大な影響を及ぼす。「常備兵力50万人」の維持という韓国国防部の目標は22年に崩れ、現在は47万人の兵力で防衛しているが、45年には32万9000人まで減る。118万人の兵力を保有している北朝鮮軍の4分の1の水準まで下がってしまうのだ。衝撃的なのは、総人口では2倍以上なのに、子供の数は北朝鮮よりも少ないという事実だ。21年を基準にすると、0~4歳までの韓国の人口は、北朝鮮の170万人より少ない165万人だった。「韓国の最大の敵は北朝鮮でなく超少子化」と言われるゆえんだ。

なぜ韓国の少子化は進行してしまったのか?

 世界的な進化学者のチェ・ジェチョン梨花女子大学大学院教授は、「韓国で子供を産んだらバカに思われる」と述べて物議を醸した。だが実際、韓国社会のそこここに、賢い若者たちが出産を忌避する要因が数え切れないほど転がっている。

 結婚情報会社の調査によると、韓国の若者の平均結婚費用は3億ウォン(約3300万円)近くで、このうち8割程度が新居のために使われる。これでは結婚段階からハードルが高い。ちなみに、会社員がソウルに25坪のマンションを購入するには、給料を一銭も使わずに36年間貯めなければならない計算だ(21年の市民団体の統計)。

 子育てにおいても、世界一厳しい受験地獄と、法外な教育費が立ちはだかる。我が子を大学卒業させるまでには、前述の結婚費用と同等の3億ウォン程度が必要であり、韓国では「子供が2人以上いる家庭は金持ち」とも言われる。

 韓国特有の「見栄の文化」も障壁となる。韓国には「下車感(ハチヤガム)」という流行語があるが、これは車から降りる瞬間に周囲の人から向けられる視線を意味する。安っぽい自家用車から降りる時に劣等感を感じたら「下車感が悪い」といい、高級車から降りる瞬間、周りの羨望の視線を感じたときは「下車感がいい」というのだ。私の親戚も最近、「娘が学校でいじけるのが耐えられない」と、乗用車を外国車に替えた。とにかく、結婚と子供にはお金がかかるのだ。

少子化が進行した分岐点は2015年だった

 韓国の人口学者たちが「少子化への分岐点になった年」とする2015年は、若年層に「スプーン階級論」が広がった時期と合致する。「スプーン階級論」とは、韓国は表向きには身分の差別がなく、本人の努力などによって階層間の移動が自由な社会だが、実際には生まれる時に口にくわえて出てくるスプーン(親の経済力)によって階級が決まる「新世襲社会」であるという主張だ。

 その階層は、富裕層の「金のスプーン」から「銀のスプーン」「銅のスプーン」「土のスプーン」にまで分類される。土のスプーンをくわえて生まれた最下層の若者は、いくら努力しても越えられない階層間の障壁が存在することに気づき、絶望感に苛(さいな)まれる。

 また、いまの韓国の若者たちは、「七放世代」と言われる。恋愛・結婚・出産・マイホーム・人間関係・夢・就職の7つを放棄せざるを得ない世代という意味だ。もし自分たち夫婦の息子もしくは娘が「七放世代」になるとすれば、子供を作りたいと思うだろうか?

 絶望的な状況の中、5年の任期のちょうど折り返し地点を迎えた尹錫悦(ユンソンニヨル)政権は、「超少子化との総力戦」に乗り出している。2024年6月、尹大統領が自ら「人口国家非常事態宣言」を出し、人口政策を総括する「人口戦略企画部」の新設と、大統領直属の「少子化対応首席室」の発足を決めた。出生率のV字回復のため、「仕事と家庭の両立」「養育」「住居」という3つの核心分野を選定。60以上の具体的な対策を立てて、2025年だけで20兆ウォン(約2兆2000億円)を支援するという計画だ。

 だが、それでも、私は楽観的な気持ちになれない。韓国の超少子化は、競争至上主義社会の構造的問題が複雑に絡み合っているためだ。

 いずれにせよ、「今日の韓国は明日の日本」だ。日本は「少子化で先を行く」韓国をよく研究し、教訓とすべきだろう。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(金 敬哲/ノンフィクション出版)

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