「わたしにとって東京という町は……」坂だらけの町で繰り広げられる不思議系ラブストーリー 著者の中島京子さんが思うこと
文春オンライン / 2024年12月26日 6時10分
『坂の中のまち』中島 京子(文藝春秋)
いくら女子大進学者といえど、男子が隣に座ったくらいでうろたえることはない。しかしその男子が、しゅっとしていて、清潔感があり、ピアニストのような繊細な指で文庫本のページをめくっていたりして、しかも横光利一の『機械・春は馬車に乗って』を貸してくれたりしたら――。
中島京子さんの新刊『 坂の中のまち 』は、文豪ひしめく坂だらけの町・文京区小日向(こひなた)で進行する、ちょっと不思議な恋愛譚。主人公・坂中真智は、大学進学を機に上京し、祖母の親友・志桜里さんの家に下宿することになる。昭和初期からタイムスリップしてきたかのような文学青年・エイフクさんの「隣に座った」ところから恋がはじまる……のだが、中島さんは「恋愛の話にするつもりはなかったんですけどね」と笑う。
「彼は、全六話のうち一話だけに登場させるつもりで描いたんです。しかし、いつの間にか他編に進出してきて、一作を通して二人の恋の行方を追うはめに(笑)。予想外ではあったものの、いいキャラクターになった、作品を引っ張ってくれたなあと」
小日向に住んだ数々の文豪たち
本作を描く種になったのは「小日向」という町。中島さんは、小説家デビューをこの町で果たし、四半世紀にわたって居住した。
「住んでいたのは遠藤周作の『沈黙』にも登場する切支丹屋敷のすぐそば。永井荷風が生まれ、安部公房が住み、夏目漱石の作品はほとんどこのあたりで進行すると言っても過言ではないほど、いたる所に文豪の影を感じる町です。わたしが小説家になったのも、この町に住んだから、というわけではないのですが(笑)、文豪の気配が、『小説を書け』と語りかけてくるような気がするんですよ」
切支丹屋敷から出土した「骨」が記憶を語りだしたり、フェノロサの妻と邂逅したり。過去と現在、夢とうつつを軽々と行き来しながら物語は進む。
「東京という町は、わたしにとって現在と過去が同居しているようなイメージなんです。新しいものがポコポコとできる一方で、一本路地を入ればすごく古いものが残っていたりする。そこには人がずっと住んでいた息吹があって、その重層性が東京を作っているような。田山花袋『蒲団』を下敷きにしたデビュー作『FUTON』からずっと、東京に暮らしているからこそ、こういう形で書いてきたのだと思います」
この地に眠る数々の文豪の物語の上に、真智とエイフクさんの新たな物語が立ち現れる。主人公の目で描かれる「小日向」という町に、呼ばれているような気がする。
なかじまきょうこ 1964年東京都生まれ。2010年『小さいおうち』で直木賞、22年『やさしい猫』で吉川英治文学賞を受賞。近著に『うらはぐさ風土記』など。
(「オール讀物」編集部/オール讀物 2025年1・2月号)
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