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《15万部→48万部へ爆増》雑誌『ハルメク』が“アクティブシニア”の心をつかんだ3つの理由

文春オンライン / 2025年1月6日 6時0分

《15万部→48万部へ爆増》雑誌『ハルメク』が“アクティブシニア”の心をつかんだ3つの理由

©AFLO

 他の世代に比べると情報が入りにくい、あるいは色々な商品やサービスをあまり求めなくなる――「高齢者」にそんなイメージを持たれる方がいると思います。ところが私たちが読者の方にお会いすると、70代後半の方でもお元気で驚きます。非常に活動的で行動的なのです。

「ハルメク」はこういった方々をアクティブシニアと位置付け、健康寿命を延ばし、生活の質(QOL)を上げて楽しく暮らすためのお手伝いをする定期購読型の月刊誌です。50代以上の女性を対象に、65歳くらいから80代をコアの読者にしています。60代になると、配偶者やご本人が退職を迎えたり年金受給が始まり、生活や人付き合いに変化が訪れます。この世代ならではのそういう悩みや願望にぴったりと寄り添った情報をお届けすることで、発行部数は2017年の15万部から、現在は48万部となりました。

 読者の関心を知るために、私たちは3つのことからヒントを掴み取っています。

 一つめは誌面に綴じた読者ハガキです。面白かった記事やつまらなかった記事、自由に書き込めるコメント欄を設けたこのハガキは、月2000通ほど編集部に届きます。すべて目を通し、重要な意見はすぐに共有する。そして特にコメントの多い500通ほどは毎月データベース化をして、いつでも読者の考えを誌面作りに活かせるようにしています。

 二つめは社内シンクタンク「生きかた上手研究所」が行う読者満足度調査です。毎号、雑誌を読み終わったころを見計らってアンケートを送付し、年間約3000人の読後の満足度や閲読率を調べます。この結果は次の雑誌作りはもちろん、広告制作や商品開発にも活かされています。

 三つめは受容度調査です。雑誌の企画を立てる際、興味を持って受け容れてもらえるかを編集部とマーケティング課で調べます。雑誌を読む習慣はあってもハルメクを読んだことのない方を対象に、バイアスのかからない意見を集めます。

 たとえば「認知症予防」を次の特集企画として検討中だとします。イメージとしては高年齢の方の関心を集めそうに思いますよね。ところがある年の調査では最も反応が良かったのは50代でした。恐らくご両親が認知症や要介護状態になるのを目の当たりにして、自分の将来についての不安を抱え始める世代なのではないかと思います。一方で70代、80代は、同世代の身近な方に症状が出始めることもあって、ある程度耐性ができてくる。知りたい情報も夫に症状が出たら何をすべきか、薬でどこまで抑えられるか、などに変わっていくようです。

 この調査はさらに細かく確認を行っていきます。仮に一番読みたい切り口に「〇〇を食べて脳の健康を保つ」が選ばれたとしても、どの言葉に反応したのかをしっかり見極めます。「〇〇」なのか「食べて」なのか。「脳」なのか「健康を保つ」なのか。本当のニーズがどこにあるかを把握するのです。さらに、その記事はお金を払ってでも読みたいかについても答えていただきます。本当に雑誌を手に取って下さるか、そこにはとても高い壁がありますから、その壁を超えるくらい切実なニーズかを徹底して調べるのです。

“プレシニア”は紙よりスマホで

 私が編集長を務めるこの7年間も、読者のライフスタイルは変化してきました。スマートフォンがその一つです。以前なら詐欺被害などを心配して、持っていてもあまり使わない方が大半でした。変化のきっかけはコロナ禍でしょうか。病院の予約などで使わざるを得ない場面が増えたのです。ただ、使い始めると様々な用途に使える。最近では推し活に使う方もいます。紅白で藤井風さんを見てファンになった方が家族に教わりユーチューブを見るようになり、いまではインスタをフォローしたりして楽しんでいるのです。人生の新しい楽しみをスマホで手に入れたわけです。

 私たちは雑誌と連動してイベントも行ってきました。誌面にご登場いただいた方の講演会や読者同士で一緒に行ける旅行などです。以前はリアル開催のみでしたが、コロナ禍の苦肉の策としてオンラインでも開催したところ、遠隔地の読者の方も参加できると喜んでいただきました。意外にも新しい楽しみを提供することになったのです。

 その経験から2022年にウェブサービス「ハルメク365(サンロクゴ)」をスタートさせました。講座やイベント、エクササイズなどの動画を定額料金で見られる会員制サイトです。当初は雑誌読者の利用を想定していましたが、予想に反し多くの若い層にもご利用いただいています。私たちがプレシニアと呼ぶ、50代から64歳くらいの方々で、紙よりもスマホで情報を得る方が馴染んだようです。ハルメクが提供するコンテンツやサービスがより若い層にも受け入れていただけることが分かり、嬉しい発見でした。近々、サイトのリニューアルも予定しています。

 いまでは紙とウェブ、それぞれに合ったコンテンツの作り方を考えるようになりました。雑誌は家でじっくり読むものですが、家族の目に触れるものでもあります。一方、スマホはパーソナルな情報に向いている。ということは恋愛相談のような本音ベースの話題はひとりで見るウェブの方が適していると感じています。

 2025年は、戦後の第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代が75歳以上となり、日本の国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者に、3人に1人は65歳以上の高齢者になると言われています。それに伴い、社会保障費の負担が増え、労働力人口が減少し、医療や介護体制を維持する人材も不足する「2025年問題」に直面すると報じられています。

 一方で団塊ジュニアがプレシニア世代に入るのも2025年。ハルメクにとっては次のお客様の世代です。紙で培ってきた顧客理解力やコンテンツ力をデジタルでも発揮して、2025年問題を大きくチャンスに変えたいと考えています。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(山岡 朝子/ノンフィクション出版)

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