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「内部告発の“犯人探し”を徹底」兵庫県庁の職員は“特定”を恐れて顔も手も隠し…それでも「クロ現」に証言した“壮絶な背景”

文春オンライン / 2024年12月29日 20時0分

「内部告発の“犯人探し”を徹底」兵庫県庁の職員は“特定”を恐れて顔も手も隠し…それでも「クロ現」に証言した“壮絶な背景”

(NHK「クローズアップ現代」10月2日放送より)

〈 再選後に「“もう辞めたい”という声も」…職員30人が告白した斎藤元彦知事へ“もの言えぬ空気”とは「理不尽な異動が怖い」 〉から続く

 パワハラ疑惑・おねだり疑惑などの対応をめぐって県議会議員の全会一致の不信任決議案可決を受けて前知事の斎藤元彦氏が失職したことで実施された兵庫県知事選挙。11月17日に投開票が行われて斎藤氏が再選を果たした。

 これまでの数々のテレビ番組で改めて注目したいのが10月2日にNHKが放送した「クローズアップ現代」だ。タイトルは「兵庫県職員30人の告白“もの言えぬ空気”はなぜ生まれたか?」として、選挙前の斎藤県政がどのように運営されていたのか。それを職員の声を中心に再現した番組だ。(全2回の2回目、 前編 から続く)

◆ ◆ ◆

「特定」を職員たちが恐れている

 登場する職員らはみな匿名で声もボイスチェンジャーといって元の声を変質させて誰かわからないような形で証言していた。顔も隠しているが、筆者が特に注目したのは、「顔」を出さないだけでなく「手」さえも手袋をはめるなどして証言者を特定されないように通常の何倍も気をつかっていたことだ。手であっても直接撮影した映像を出さない周到さ。体型などもわからないように、上着などを着せて証言させている。それだけ「特定」されることを本人たちが恐れているという証左なのだろう。

 斎藤知事の“側近”たちは2024年3月の内部告発にあたっての犯人探しを徹底して行い、亡くなった元県民局長に対しても「誰がどういうことを言っているのか」について、かなり執拗に追及し、元県民局長に同調する人間が誰なのかを聞き出そうとしていたという。

 これが取材や撮影にあたっては慎重すぎるほど、慎重に本人が特定されないようにした背景だと思われる。

職員が目にした「問題がありすぎて、問題しかない調査」

「クローズアップ現代」では、斎藤知事のパワハラ疑惑やおねだり疑惑などをメディアなどに告発した元県民局長(懲戒処分を受けた後で自死)に対する県庁側の対応も焦点にしている。パソコンの調査で元局長が告発者だと特定されて、知事の側近だった片山安孝・前副知事が元局長に詰め寄る場面は言葉づかいも高圧的だ。

 かつて人事課にいた職員は幹部たちの対応に違和感があったと証言した。

「書かれていることが事実かどうかをまず調べるのが通常だが、『誰が書いたんだ』『誰が情報を与えたんだ』という調査方法はやっぱり異様というか問題がありすぎて、問題しかない調査」(かつて人事課にいた職員)

 片山前副知事が元局長に聞き取り調査をした際の音声記録によると、

「知事のパワハラ……」(片山前副知事)

「それはでも対外的に出てないじゃないですか」(元局長)

「出てへんから、なんでそれを知っとるんやって聞きよるんやないか」(片山前副知事)

「いや、噂……」(元局長)

 元局長は根拠をもって内部文書を作成していたが、この時に「噂」としか言えない事情があったと親交があった同僚職員は証言する。

「噂話を集めて(内部告発文書を)つくったわけではないのは事実。情報を出した人間も処分をしようとしていたのかもしれない。『実際は誰かから聞いたことでも、名前は出さんといてくれということで名前を出せないだけ』。私が聞いたので間違いないと思う」(元局長と親交のあった職員)

 だが、片山前副知事の調査の結果、元局長による告発文書は噂話を集めただけの信頼性の低いものとされて結論づけられた。

 かつて人事課にいた職員もこうした県の姿勢を批判的に見ている。

「真実相当性があたかもないようにした、非常に恣意的で言葉尻を捉えた調査、判断だったとしか思えない」

「死をもって抗議する」というメッセージ

 調査の2日後、斎藤知事は記者会見で「事実無根の内容が多々含まれている」「うそ八百含めて、文書を作って流す行為は公務員として失格」と元局長を批判。県は元局長が「誹謗中傷性の高い文書を流出させた」として停職3か月の懲戒処分を下した。元局長は2か月後に「死をもって抗議する」というメッセージを残して亡くなった。

 その後、兵庫県の県議会が設置した百条委員会で知事らのふるまいは公益通報者保護法に違反していると指摘されている。職員個人の尊厳や人権を侵害するような対応を二度と繰り返さないように告発者を守る仕組みを整えていく必要がある。

前例を踏襲してきたテレビの選挙報道

 県職員らの証言を集めたテレビのこうした優れた報道番組があったにもかかわらず、斎藤元彦氏は出直し知事選挙で再選を果たして再び4年間の県政を担うことになった。兵庫県庁で幹部や職員たちと現在、どのように会話を交わし、どのように県政を進めているのだろう。職員たちはどういう心境の中にいるのだろうか。

 斎藤氏は失職する前の記者会見で「県政3年間やっていく中で心の中におごりであったり、慢心があったんだと思います。自分の行為が良くない点は自分自身も生まれ変わって改めていく」と再び立候補する決意を表明していた。

「クローズアップ現代」で職員たちが証言した内容が事実であれば、出直し選挙での再選で民意を味方につけたからといって、斎藤知事の仕事の進め方が大きく変わることはあまり期待できないかもしれない。職員たちも戦々恐々としていることだろう。

 ただ、この「クロ現」のように多くの職員たちに取材して、第一次斎藤県政をしっかりと検証した報道番組は数少ない。こうした検証はこれからも続けてもらいたい。今回の出直し知事選ではテレビをはじめとして既存メディアに不信感を抱いた人たちが替わりの情報源としてSNSに一気に向かったことが斎藤氏の再選につながったと言われている。選挙期間中のテレビ報道のあり方など考え直すべき点は数多い。前例を踏襲してきたテレビの選挙報道はSNSの時代には通用しないことがはっきりとした。

 一方、30人もの職員に聞き取りをしていく根気のいる報道は信頼性の高いテレビでこそ実現することが可能だ。そうした調査報道の貴重さも改めて痛感した。はたして第二次斎藤県政はどのようなものになっていくのだろうか。たとえ職員から異論が出ても、それをうまく活用しながらより良い政策に発展させていけるようなスタンスを取れるならば、今回のような事態はけっして起こらなかったに違いない。

 取材陣にはぜひ第二次斎藤県政を検証していく次なる調査報道を期待したい。 

(水島 宏明)

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