37歳で“3男1女の父親”の織田信成が全日本で「4位」になれたシンプルな理由「前の現役のときから…」
文春オンライン / 2024年12月23日 11時0分
全日本選手権で4位に入賞した織田信成 ©時事通信社
涙と笑顔に包まれて、集大成の舞台を終えた。場内には、あらん限りの拍手と歓声がこだました。37歳の織田信成は、その祝福を受けるにふさわしい結果とパフォーマンスを披露してみせた。
12月21日、フィギュアスケートの全日本選手権の男子フリーを終えて、表彰台こそ逃したものの織田信成は4位に入賞した。
1987年生まれ、7歳でフィギュアスケートを始めてすでに30年が経つ。2010年のバンクーバー五輪出場をはじめ第一線で活躍したのち、2013年に引退。その後はアイスショーやテレビ解説などを中心に活動していたが、「おじさんでもできるところをみせたい」と2022年に現役復帰を発表した。
20代半ばで競技生活から退くことが珍しくないフィギュアスケートの世界で、37歳の織田はベテランという域を大きく超えている。それでも11年ぶりに全日本選手権出場を決め、並みいる若手選手たちを抑えて4位入賞という結果を残してみせた。
「全然平坦な道ではなかったです」
ショートプログラムの「マツケンサンバII」の冒頭で4回転トウループ-3回転トウループの連続ジャンプを決めると、場内は大きな歓声に包まれた。その後も曲調をとらえた演技で5位につける。演技が終わると会場はスタンディングオベーションに包まれ、織田も涙を隠さなかった。
迎えたフリーでは最初の4回転ジャンプこそ転倒したものの、その後は持ち直して高得点をマーク。他の上位選手のミスもあり4位に踏みとどまった。
「全然平坦な道ではなかったです」
試合後の織田の言葉が、織田のスケート人生を象徴していた。20代の頃から怪我に苦しみ、1度目の引退後も一本道ではなかった。
2022年に現役復帰を発表してからも、順風満帆というわけではなかった。復帰を決断した織田は目標を2023年の全日本選手権出場に定め、順調に成績を残して予選にあたる2023年の近畿選手権で準優勝。西日本選手権出場を決め、ここで上位6人に入れば全日本に進める。そして西日本選手権では見事に優勝し、出場権を得たかにみえた。
しかし昨年の全日本に織田は出場していない。日本アンチ・ドーピング機構が義務づけている大会6カ月前までの届け出と、競技外検査が履行できていなかったのだ。目標としていた全日本選手権出場は1年お預けになった。
それでも気持ちを奮い立たせて1年後の全日本を再び目指し、近畿選手権で3位、西日本選手権では連覇を決め、11年ぶりの全日本への出場を今度こそ現実のものにした。
引退期間中もアイスショーなどで滑る機会があったとはいえ、競技生活の真っ只中にいる現役選手との練習量の差は歴然だ。11年という長い空白を経て全日本4位に返り咲き、4回転ジャンプまで決められたのはなぜだったのだろうか。
「前の現役のときから、こういう気持ちで練習できていたらよかったな」
織田は全日本へ向けた練習の中で、身体的に「もう限界」だったというが、1度目の現役の時とは違う感覚があったという。
「練習をしている中で苦しい部分もありましたけれど、新しい発見もあって、すごく楽しかったです」
1度目の現役時代は、どうしても成績を残すことを強く意識してしまい、コーチからのアドバイスに対しても受け身なところもあったという織田。
しかし今や3男1女の父となった37歳の織田は、自分がなぜ滑るのか、どんな練習が必要なのか、なんのためにやるのかという気持ちをクリアに持つことができるようになっていた。
「前の現役のときから、こういう気持ちで練習できていたらよかったなと思うくらいです」
そう言って織田は笑った。
「最後って言ってるじゃないですか。ほんとうにもう、体が限界なので」
若いフィギュア選手であれば躊躇する「マツケンサンバ」という曲に4回転ジャンプと円熟の表現力を盛り込み、若い選手たちと互角以上に競った演技が織田の成長を証明している。その演技を目の当たりにした記者からは、「ほんとうに今シーズンで最後なのか」という質問も飛んだ。
「最後って言ってるじゃないですか。ほんとうにもう、体が限界なので。ちょっとゆっくり休みたいな、と」
そう答えながらも、やはり織田自身にも手ごたえがあったことを感じさせる一幕があった。
「ただ、やっぱり今回の全日本のような緊張感を味わうと………」
一瞬、考えるように間を置くと、こう続けた。
「逃げたくなるけど、この場で戦いたいなという気持ちがすごくあって。あと20歳若返ったらいいのにな、とかは思ったりしましたけど、でも、いさぎよく引退ということにしたいと思います」
競技選手としての最後の滑りは、年明けの「国スポ」(旧国体)を考えているという。
“その後”についてももちろん考えている。
「滑るのも大好きなので、アイスショーに呼んでいただける機会があれば、アイスショーも滑りたいです。今、日本の景気的にも大変ですし、なかなかフィギュアスケートを始めるのが大変な状況だと思います。そういう意味でも、スケートを知らない方たちにスケートの楽しさを伝えられるような、そういう活動もできたらと思っています」
織田は今回の試合前、14歳の長男から初めて「試合、頑張ってな」と言われたという。それも現役に復帰し、全日本選手権にたどり着いたからこそ生まれた思い出だ。
「年齢はただの数字で、歳をとったからできないことはないと、やってきてそれを証明することが少しできました」
年齢という壁を乗り越えた織田が次にどんなことをするのか、さらに多くの人が注目することになったはずだ。
(松原 孝臣)
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