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カマラ・ハリスはなぜZ世代を落胆させた? 女性政治家が「ガラスの天井」を打ち破るために“重要なこと”

文春オンライン / 2025年1月10日 5時0分

カマラ・ハリスはなぜZ世代を落胆させた? 女性政治家が「ガラスの天井」を打ち破るために“重要なこと”

カマラ・ハリス氏 Ⓒ時事通信社

 米大統領選投開票日まで100日を切った2024年8月2日、大統領選から撤退したジョー・バイデンに代わり、カマラ・ハリス副大統領が民主党候補に指名された。黒人・アジア系の政治家が、主要政党の大統領候補に選ばれるのは初めてだった。

 ハリス以前に女性大統領に最も近づいたのはヒラリー・クリントンだ。ビル・クリントン大統領夫人から上院議員、国務長官と、政治家としてのキャリアを着実に積み上げ、満を持して大統領選に挑み、トランプと戦ったが、接戦州で競り負けて敗北した。敗北を認めた演説をクリントンはこう締め括った。

アメリカ大統領という「ガラスの天井」

「(女性大統領という)最も高くて硬いガラスの天井はまだ打ち破れていないが、いつか誰かが、私たちが考えているより早く達成してくれるだろう」

「ガラスの天井」とは、経営コンサルタントのマリリン・ローデンが1978年に生み出した言葉で、女性のキャリアパスを阻む見えざる障害を意味する。アメリカの大統領は、世界最強の米軍の最高司令官でもある。軟弱、決定力がない、感情的……女性に対するステレオタイプが最も影響するのが安全保障問題であり、国防は女性には担えないという偏見も依然として根強い。アメリカ大統領という「ガラスの天井」は、確かに「最も高くて硬い」といえるかもしれない。

 さらに女性たちが皆、「ガラスの天井」を一刻も早く打破することで一致しているわけではない。2016年、クリントンは「I'm with her(私は彼女の側にいる)」というスローガンを掲げ、ジェンダー平等の実現に向け、女性大統領を誕生させる必要があると訴えた。しかしこの戦略はうまくいかなかった。

 出口調査によれば、クリントンは、女性への差別発言を繰り返したトランプよりは多くの女性票を獲得したものの、その割合は54%対39%で、圧倒的な差はつけられなかった。人種別にみると、黒人女性やラテン系女性は圧倒的にクリントンを支持したが、白人女性については、大卒ではクリントン票が勝ったが、非大卒ではトランプ票が勝った。「I'm with her」という言葉に託されたジェンダー平等という目標は、必ずしもすべての女性を惹きつけなかったのである。

 女性政治家を取り巻くこうした状況は、8年間で変わったのだろうか。ハリスが正式に民主党の大統領候補者として指名された直後に発表されたCBSニュースの世論調査では、「アメリカは黒人女性を大統領に選ぶ準備ができているか?」との質問に対し、68%が「はい」と答え、「いいえ」と回答した32%の2倍超となった。

 もっとも、2023年9月に行われたピュー・リサーチ・センターの調査では、「自分が生きている間に女性大統領が誕生すること」について「重要でない」と答えた人は、共和党支持者では86%に及び、民主党支持者でも43%に及んだ。アメリカ世論は、女性大統領に敵対的ではないが、初の女性大統領を誕生させることに積極的な意義を見出しているわけでもない。

若い男性ほど……

 さらに憂慮されるのは、若い男性に広がるアンチ・フェミニズムだ。30歳未満の女性が圧倒的にハリスを支持しているのに対し、同年代の男性はトランプをハリスより支持している。どの年齢層にもこの傾向は見出されるが、男女が支持する候補者の違いはZ世代有権者の間で最も大きい。「男性と女性のどちらが政治指導者として優れているか」という質問に対しても、Z世代男性は、上のどの世代の男性よりも、「男性の方が政治指導者として優れている」と答える傾向が高い。その理由として最も多く挙げられたのが、「女性は十分にタフではない」ことだった。

 女性進出への反感も若い男性ほど強い。2024年6月に発表されたピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、年齢や性別を問わず、圧倒的多数の男性有権者が「女性の進出は、男性を犠牲にするものではない」と回答したが、トランプ支持の男性に限定すると、3分の1が「女性の進出は男性の犠牲による」と回答し、50歳未満の男性にこう回答する傾向がより強く見られた。アメリカ初の女性大統領の誕生を歴史の前進ではなく、「男性の犠牲」と捉える人も少なからず、しかも若い世代ほど多くいるのだ。

 こうした世論やクリントンの失敗も影響しているのかもしれない。選挙戦でハリスは、女性であることを強調してこなかった。それどころか、女性=軟弱というイメージを払拭しようとするかのように、タフさを打ち出し、「最高司令官として、私はアメリカが常に、世界最強かつ最も致命的な戦闘力を持つことを確実にする」と強調してきた。1年間で4万を超える犠牲者が出ているパレスチナ自治区ガザでのイスラエルの軍事行動についても、イスラエルの「自衛」として強く支持し、軍事支援を惜しまない方針を打ち出している。この点ではハリスはトランプとまったく変わりはない。

Z世代を落胆させた理由

 今後、ハリスは勝利を追求する中で、歴代の男性大統領とほとんど同じような考えを持ち、同じような政策を遂行する女性政治家へと変貌していくかもしれない。その兆しは至るところにある。上院議員時代にはラディカルな気候危機対策を掲げ、フラッキングと呼ばれる環境負荷が高い天然ガスの採掘方法にも反対していたハリスだが、選挙戦では一転、フラッキング容認を打ち出し、気候危機を自分ごととして考えるZ世代を落胆させてきた。女性大統領の誕生は、それだけでアメリカを変えるわけではない。そのことによって新しい考えや価値観が政治外交に持ち込まれるからこそ意義がある。

 ハリスに続く女性政治家が現れるかという問いは大事だが、同等、あるいはそれ以上に、ハリスや彼女に続く女性政治家がアメリカの政治社会に変革をもたらせるかどうかという問いが重要なのである。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。

(三牧 聖子/ノンフィクション出版)

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