草彅剛と香取慎吾が声優を務めた人形劇でもなく、佐藤勝利の青春映画でもなく…“ジャニオタ”ライターが本気で選んだ“ジャニーズNo.1映画”
文春オンライン / 2024年12月25日 6時0分
『夢物語は終わらない~影と光の“ジャニーズ”論~』(文藝春秋)
30年来のジャニーズ(現STARTO ENTERTAINMENT)ファンであり、2023年の一連のジャニーズ性加害問題以降に感じてきた葛藤と思いを込めた『 夢物語は終わらない ~影と光の“ジャニーズ”論~ 』(文藝春秋)を上梓した霜田明寛さんが選ぶ、“ジャニーズ映画TOP5”。アイドル主演映画と馬鹿にしてはもったいないその魅力とは?
“ジャニーズ興行保証”で成立する異色の企画
アイドルの出ている映画はB級映画――。そう考えている人も多いかもしれない。しかし、ことジャニーズの出演映画においては、それは当てはまらない。
“ジャニオタ”として揺れるジャニーズ事務所への率直な想いを綴り、様々な問題を踏まえた上で見えてくる事務所の特異性と未来に迫った『 夢物語は終わらない~影と光の“ジャニーズ”論~ 』(文藝春秋)。その中で、筆者は“ジャニーズ興行保証”と呼んでいるが、ジャニーズが出演することによってある程度興行の見込みがつくため、受けを狙って表現を丸める必要がなく、監督はその作家性を存分に発揮して作品づくりができるのである。
たとえば、“ジャニーズ興行保証”のもとでは、関ジャニ∞(当時)の渋谷すばるが主演でバンドの赤犬が出演した『味園ユニバース』(2015・山下敦弘監督)や、古谷実の原作を森田剛主演で映画化した『ヒメアノ~ル』(2016・吉田恵輔監督、*吉は土に口))などのように、ジャニーズというメジャーカルチャーとサブカルチャーの境界線を越えるような異色の企画が成立する。さらに、嵐5人の主演映画にも関わらず、当初公開館は1館のみだった『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』(2002・堤幸彦監督)など、公開規模もインディーズとメジャーを行き来する。他にも『夢物語は~』では“ジャニーズ興行保証”が発掘した現在の映画・演劇界を牽引する才能や、藤島ジュリー景子の仕事の功績のひとつである『ピカ☆ンチ』の制作・配給会社、J stormの設立の背景や強みなどを解説している。
筆者は、普段はパンフレットに寄稿をしたり、映画監督にインタビューすることを生業としている。本稿では、2000年代以降のジャニーズ映画はすべて観てきた筆者にとっての“ジャニーズ映画TOP5”を紹介したい。
是枝作品で見せた岡田准一の名演技
(5)『花よりもなほ』(2006)
『花よりもなほ』は、当時、映画俳優として飛躍しつつあった岡田准一を主演に、『誰も知らない』で大きな注目を浴びた是枝裕和監督の次回作として制作された。江戸時代を舞台に岡田が仇討ちをするべきかどうか悩む武士を演じている。ドキュメンタリーのテレビ番組第1作『しかし… 福祉切り捨ての時代に』では自殺を余儀なくされた官僚の家族を、映画第3作『DISTANCE』では加害者遺族を描いた是枝にとって、“残された者たち”を描くのはテーマのひとつだったはずで、その作品群の延長線上に存在する映画でもある。ラストシーンの岡田の表情は、『戦場のメリークリスマス』の北野たけしの笑顔をも彷彿とさせる名演技だ。
(4)『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(2013)
近年は『ミッシング』『空白』など社会派と括られそうな作品が評価されている吉田恵輔監督だが、2010年代の半ばは、本作や前述の『ヒメアノ~ル』、中島健人(当時・Sexy Zone)主演の『銀の匙』などジャニーズ俳優と連続的に作品をつくっていた。
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』は、麻生久美子演じる脚本家を目指す女性と、安田章大(当時・関ジャニ∞)演じる脚本を書いたことがないのに妙に自信のあるビッグマウスな男性が出会うことで始まる物語だ。
自分の才能と夢と現実に向き合う登場人物の心情が痛いほどに伝わってくる上に、安田が自身で作曲した歌を歌唱するシーンもあり、ファンにも嬉しい作りだ。当時の関ジャニ∞は一般的には錦戸亮と渋谷すばるの2人が歌が上手いというイメージで、この映画で安田という“第三の声”の表現力に驚いた人も多いはず。ちなみに、安田の役のモデルは吉田と長らくタッグを組んできた脚本家の仁志原了で、本作でも脚本に名を連ねている。
デンマーク人形劇の名作
(3)『ストリングス~愛と絆の旅路~』(2007)
『ストリングス~愛と絆の旅路~』はデンマークの人形劇である。実際に糸で繋がれたマリオネットの人形たちによって、「人と人とは繋がり合っていて、お互いに影響を及ぼしあっている」というメッセージを視覚的に表現している。子どもから大人まで楽しめるとんでもない傑作なのだが、そのままでは日本で公開されることはなかっただろう。だが当時J stormと対を成していたSMAPの関連会社、J-dreamが制作・配給を担当し、草彅剛と香取慎吾が声優として出演することに。『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明と阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史が脚色を手掛け、ジャパン・バージョンとして公開された。キャストありきで企画が進行することもあるほどのキャストパワーは、ときに批判されることもある。だが、そのパワーが埋もれかけた世界の名作を、日本に届けてくれるといういい方向に働いた例である。
(2)『ブラック校則』(2019)
当然のことながら、俳優自身と役は別物だ。だが、ときに俳優自身の生き様と、作品が重なりを見せることがある。その好例がSexy Zoneの佐藤勝利が主演、King & Princeの髙橋海人とSixTONESの田中樹も出演する『ブラック校則』だ。生徒たちを規律で縛り、画一化しようとする教師たちと、そこに抗い自分を貫こうとする高校生たちの対立を描く。それは『夢物語は~』で主張した“自分の頭で考え”“他と同じになることを嫌う”ジャニーズタレントの存在と大きく重なる。本作は、Sexy Zoneがデビュー曲の歌詞で歌った「大人の決めたやり方 それが正解なの?」というフレーズの映像化と言ってもいいほどだ。とくに髙橋海人の飄々としつつ、どこかにカリスマ性を感じさせる演技が素晴らしい。本作のプロデューサー河野英裕は4年後にドラマ『だが、情熱はある』でオードリー・若林正恭の役に髙橋を起用することになる。映画好きにとって、テレビ局主導の企画は冷笑されがちだし、そこにアイドル主演が加わると尚更その傾向が強まる。だが本作は、その固定観念で食わず嫌いをしていると損をする、隠れた秀作である。
売れなかったときの堂本剛
(1)『まる』(2024)
『まる』は荻上直子監督が、テレビで観た堂本剛に「私よりしんどそうな人がいる」と感じ、荻上にしては珍しくあて書きをした映画である。堂本剛が劇中音楽も手掛けている。
売れなかったときに、それをやりたいと思う気持ちまで否定されていいのか――。純粋にやりたいことを追求しようとして苦悩するアーティストの主人公・沢田は、アイドルとして売れなかったときの世界線に生きる堂本剛その人の姿にも見えるほどだ。
印象的なシーンがある。森崎ウィン演じるミャンマー出身のコンビニ店員・モーが、その片言の日本語を客たちに馬鹿にされる。それを目撃した沢田の行動として、一般的に考えられるのは、彼らに殴りかかったり注意したりといったところだろうか。
だが沢田は、静観したのち、自らがモーに謝るのである。差別などの問題に直面したときに、誰かに怒り、攻撃するのではなく、社会の痛みを自分の痛みとして感じ、悲しむ。コロナ禍でも分断する日本社会を想って、ラジオで涙を流していた堂本剛自身と大きく重なるシーンである。もちろん、堂本と重なるといった点をさしひいても、アーティストが売れる・売れないという話だけでなく、能力主義にも疑義を呈する大きなテーマをもった、今年の邦画NO.1と言っても過言ではない傑作だ。
ジャニーズ映画は広い映画の世界への入り口になる
以上が、筆者の選んだジャニーズ映画TOP5である。
ちなみに、筆者が人生で初めて観た実写映画はSMAP主演の『シュート!』だった。小学2年生のときだったが、すごいものを劇場で観たという感覚が強く残る、強烈な映画体験だった。アイドルが出演しているというのは、若年層にとって十分に映画を観る理由として機能するから、そこが広い映画の世界の入り口になることもあるだろう。
また、『ヒメアノ~ル』の公開初日には、劇場で森田剛のファンと思しき女子高生が隣に座っていて、残虐なシーンにハンカチで目を覆っていたのが印象的だった。ジャニーズが映画に出るということは、本来は出会うはずのなかった作品への旅に、彼らが連れて行ってくれるということでもあるのだ。
『夢物語は~』でも詳述したが、新体制下の事務所タレントたちは、より自由度が増し、映画で組む相手や作風もより幅広くなっていくことだろう。今後も多くの想像を越える旅ができることを期待したい。
(霜田 明寛/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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