「今までの性行為はなんだったの?」と感じる女性も…経験人数1000人超え“カリスマ緊縛師”(40)に「縛られた人」が見せた“驚きの変化”とは
文春オンライン / 2024年12月29日 17時0分
プロ縛師の鵺神蓮さん ©山元茂樹/文藝春秋
〈 「中学生の頃、性行為中に電気コードで彼女を縛って…」経験人数1000人超えの“カリスマ緊縛師”(40)が語る、「縛り」に目覚めた“意外なきっかけ” 〉から続く
カリスマ緊縛師としてその名を轟かせている鵺神蓮(やがみ・れん)さん(40)。近年、緊縛が日本の“文化”として世界的な注目を集めており、鵺神さんもグローバルな活躍を見せている。
とはいえ、世間的には緊縛が身近な存在とは言い難い。いったい「緊縛」とは何なのか。彼は緊縛師として、どのような仕事をしているのか。どんな人が彼のもとに縛られに来るのか。鵺神さんに話を聞いた。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)
◆◆◆
もともと「緊縛」は敵を捕らえる方法として生まれたが…
――まずは「緊縛」について教えてください。
鵺神蓮さん(以下、鵺神) 「緊縛」のルーツは捕縛術(ほばくじゅつ)です。日本には、いろいろな流派の武術があるのですが、それのオプション的な要素で、効率的に敵を捕らえる方法として江戸時代に生まれたと言われています。
それがいつからか、性的な行為をするときにも使われるようになったんです。春画とかにも、そういう雰囲気の絵があるじゃないですか。明治時代になると江戸川乱歩の小説にもそういったシーンが出てきますし、画家の伊藤晴雨の作品には『責め絵』というのもあります。
――鵺神さんが編み出した「責縛」は、普通の緊縛とは何が違うのでしょう。
鵺神 緊縛の中に「責め縄」というのがあるんですよ。責めは「相手に肉体的、精神的な苦痛を与え、責めること」を意味するのですが、それを「縄」を使って行うのが「責め縄」です。
でも私は、「縄以外のものを使ってはいけないのだろうか?」「痛くて苦しいだけではなくて、気持ち良いを追求することはできないのか?」と疑問に思ったんです。
で、自分なりに考えた結果、別に縄にとらわれず、手を握ってもいいし、言葉を使ってもいいんじゃないかと思って。
縄にとらわれず、体の使い方を重視するのが「鵺神スタイル」
――縄にとらわれた方法ではないと。
鵺神 要は「コミュニケーションを取りながら相手の自由を制限する」のが責めであり、縛りなのではないかと。それで、「縄」という言葉を使わずに「責縛」という言い方をするようになりました。
それが新しいもの好きの海外の人に注目されて、流行ったんですよね。ただ、今はあまり「責縛」という言葉も使ってなくて。あくまで「鵺神スタイル」のひとつという位置づけです。
――鵺神スタイルとは?
鵺神 武道の捕縛術的にフォーカスした体の使い方を「鵺神スタイル」と呼んでいます。だから「鵺神スタイル」は、緊縛に限りません。
縄を使う場合も、「鵺神スタイル」をどう縄の縛り方に活かすか、というのが重要。もちろん独自の縛り方や型はありますが、私が何よりも大切にしているのは体の使い方なんです。
――手などを使わずに女性を絶頂に導けると聞きましたが、それも鵺神スタイル?
鵺神 メディアでその話をしましたが、あれは演出の部分もあります。そもそも「絶頂」の定義って曖昧じゃないですか。主観なので、本当に絶頂したかどうか、こちら側にはわからない。
私は目に見えるもの主義だから、そこは深く追求していません。もちろん鵺神スタイルで性的な快感を得ることはできますが、絶頂したかどうかは本人次第なんです。
「特殊な性癖を持っている方は極めて少ない」女性が縛られに来る“本当の理由”
――鵺神さんに縛られに来るお客さんは、どんな人が多いのでしょう。
鵺神 基本、女性のお客さんが多いです。たまに男性が縛られに来ることもありますけど、私は性的対象が女性なので、男性のお客さんに対しては「嫌な思いをするかもしれませんよ」と伝えています。ときどき「なんでそんなに素っ気ないんですか?」と言われることがあるので。
――男性は縛り方を学びに来る?
鵺神 そうですね。より良いセックスのために技術の提供はするけど、それ以上はないですよ、という意味もあって、男性の方には「嫌な思いをするかも」と事前に言っています。
――女性はどういった理由で縛られに来るんですか?
鵺神 理由はさまざまですが、性的倒錯症候群やパラフィリア、マゾヒストといった特殊な性癖を持っている方は極めて少ないんですよ。
ただ、多くの女性がなんらかのストレスを抱えていますね。ストレスを発散したい、あるいは寂しさを埋めたいという感じで私のところに来ます。
「今までしていた性的行為はなんだったんだろう?」と感じる人も…
――縛られること自体が目的じゃないと。
鵺神 お酒を言い訳にストレスを発散するのと同じで、自分を認めてもらうためだったり、自分を解放したり発散したりするための口実として、縛られに来ているんじゃないかと。いろいろ抱えて限界の人が多いんです。
だから私がやっているのは「憑き物落とし」のようなものです。ただ、こちらは医療の専門家ではないので、ストレスによる心身の不調までは解決できないのですが。
――鵺神さんに縛られたあと、皆さんどう変わっていくんですか?
鵺神 縛られてストレスを発散することで、多幸感を覚える人もいます。そういう人たちは、憑き物が落ちたかのようにスッキリして帰ることが多いです。それこそデトックスみたいな。
性的快感を求めたり、アップグレードしたい人は「今までしていたセックスや性的行為はなんだったんだろう?」みたいな感じになりますね。「カニと信じて食べていたのが、実はカニカマだった」という感想を持って帰っていく。
ただし「気持ちいい=幸せ」ではないんです。それがわからないで来る人もいるんですよね。
縛られに来たお客さんに恋愛感情を持たれてしまうことも…
――性的な快感は得られるけど、それで幸せになれるわけじゃないと。
鵺神 自分がどんなストレスを抱えていて、自分の生活には何が足りていないのか。それがわからないまま「縛られたら何かひらけるんじゃないか」と期待して来ていただいても、一過性の快感になってしまう。
そのまま日常生活に戻っても、何かが変わったわけではないから、またすぐに縛られに来てしまうんです。
――お客さんに恋愛感情を持たれてしまうこともあるのでは?
鵺神 そういう方もいると思います。ただ、お客さんには「愛と信頼は置いてきてください」と伝えています。
――それはどういう意味でしょうか。
鵺神 信頼関係や愛情がないと縛れない、なんてことはないんです。例えば、医者は患者さんに対して好意を持ってなくても、治療できますよね?
それと同じです。縛る・縛られるという行為に感情はいらない。私が提供しているのは“技術”だけなので。だから、もしお客さんから好意を寄せられても、こちらがそれに応えることはありません。
世界的に有名な緊縛モデルから突然DMが来て…
――鵺神さんに縛られに来る人は、月にどれくらいいるのですか?
鵺神 具体的な数字はわからないですが、ある程度先まで予約は埋まってます。海外にも行っているけど、日本での活動のほうが忙しいですね。
――海外で活動を始めたきっかけは。
鵺神 Facebookがきっかけで、海外ツアーをやってからですね。ある日突然、フランス人の女性から「海外ツアーに興味はないか」というDMが届いたんです。
最初はどうせ嘘だろうと思って、テキトーに返事をしていたんですけど、彼女のプロフィールを見に行ってみたら、ヘッダー写真にうちの業界のドンが映っていて。「……あ、これは本物だ」と。
――その女性は何者だったのですか。
鵺神 世界的に有名な緊縛モデルだったんです。彼女はモデルとしての実績もあり、日本の緊縛についても知り尽くしていて信頼できると思いました。だから彼女の提案に乗っかって、海外ツアーをさせてもらいました。
――今では海外に支部もあるそうですね。
鵺神 ブルガリア、スペイン、ベルギー、ドイツ、香港、韓国、オーストラリアに支部道場があります。
――ヨーロッパが多い。
鵺神 縛りの文化やコミュニティは、ヨーロッパが進んでいるんです。アメリカに比べたら10年くらい進んでいるんじゃないかな。
日本だと緊縛=変態のイメージだが…海外の人はどう捉えているのか?
――海外と日本では緊縛の捉え方が違う?
鵺神 日本だと緊縛=変態のイメージなので、エロとして捉える人が多い。そういう文化背景があるから仕方のないことなんですけど。
一方、海外では、エンターテインメントとして見る人、アートとして見る人、性的コミュニケーションとして見る人など、多種多様です。緊縛に対する偏見がないので、海外のほうがやりやすいですね。
――いわゆるVIPの人に縛りを教えることもあるのでしょうか。
鵺神 国内外問わず、私の顧客には著名な方もいますし、お金持ちの方に教えることもありますね。
そういう方々は口を揃えて「ベッドの上で、裸一貫で戦える術がほしい」と言うんです。ベッドの上で裸になったら、お金を持っているかどうかとか、どんな地位についているかとかも関係ないじゃないですか。
だから、肩書きや権力、財力……そういったものに頼らず、技術だけで戦えるようになりたいらしいんです。
「一歩間違えたら取り返しのつかないことになる」縛りのリスクや危険性にも言及
――とはいえ、縛ることは危険を伴うことでもありますよね。
鵺神 そもそも人の体にとって、縛ることはよくないこと。神経麻痺のリスクとかもあるので、できればやらないほうがいい。
それでも、もしやりたいと思うなら、最低限の知識や技術を身につける必要があります。一歩間違えたら取り返しのつかないことになるので。
――AVなどを見て気軽にやってしまう人もいそうです。
鵺神 AVは非常に身近なものじゃないですか。だから「自分にもできそう」と思って、試してしまう人も多い。でもAVはあくまで作品で、ファンタジーでありフィクション。現実の世界では違うんだよ、と言いたいです。
正直、そこまで説明しないとわからないのかな、と思ってしまう部分もあるんですけど、仕方ないですね。日本人の理解の進度や読解力が落ちているので。とにかく、安易に真似はしないでほしい。
――今後はどのような活動を?
鵺神 周りには、エロ業界始まって以来の重要無形文化財になりたい、と言っています(笑)。
現実的なことをいうと、これからはセックスワーカーの地位向上に取り組みたいと思っています。最近は取り締まりなどが厳しいけど、セックスワークを必要とする人たちがいるのは確かなんです。
もちろん、胸を張れるような仕事とは思っていませんが、少しでもセックスワーカーが生きやすくなればいいなと思っています。
――ご自身は、緊縛師という仕事への偏見は感じますか?
鵺神 偏見は感じないです。差別的なことを言われたとしても、「そうでしょうね」としか言いようがない。緊縛師という仕事を高尚なものにしようとは思っていないですが、緊縛が必要なシーンでは役に立っていきたいですね。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
(桃沢 もちこ)
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