【足立区バラバラ殺人】生徒から人気の女性教師(26)が警察官の夫(28)を殺害→世間からも同情を集めたワケ(1953年の事件)
文春オンライン / 2024年12月29日 17時0分
女性はなぜ内縁の夫を殺害し、荒川に捨てたのか…。写真はイメージ ©getty
「お化けだ!」――1952年5月、少女3人によって、新聞紙などに包まれた、首と両手足のない男性の胴体が見つかった。警察は絞殺後バラバラにされたものと断定。その後、遺体は28歳の警察官のもの、そして犯行は内縁の妻の女性教師によるものだとわかる。生徒からも慕われ、勤務ぶりも真面目だった彼女はなぜ愛した男を殺さねばならなかったのか? 新刊『 戦後まもない日本で起きた30の怖い事件 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/ 続き を読む)
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足立区で見つかった「首と両手足のない男の胴体」
1952年(昭和27年)5月10日午前10時ごろ、東京都足立区本木町の荒川放水路(通称・日の丸プール)の入り江から、新聞紙などに包まれた、首と両手足のない男性の胴体が見つかった。第一発見者は入り江周辺で花摘みをしていた少女3人で、「お化けだ!」と絶叫。事情を聞いた大人たちが西新井署に通報し、警視庁捜査一課の刑事、鑑識職員が現場に急行する。
現場検証の結果、首は鋭利な刃物で切り取られ、左足はノコギリ様のものを使って骨まで切断。右足と両腕は肉を刃物で切ったうえ、付け根の関節部から抜き取られていることがわかった。推定身長は164~167センチ。細い麻ひもで3ヶ所縛られていた遺体にホクロや傷痕などの特徴はなかったものの、首の付け根に絞められたような跡があったことから、警察は絞殺後バラバラにされたものと断定。西新井署に特別捜査本部を設け、捜査を開始する。
事件発覚から5日後の同月15日に同じ放水路で頭部が、翌16日に両腕発見。新聞が戦後初のバラバラ殺人として連日のように事件の行方を大きく報じるなか、見つかった頭部より作成されたモンタージュ写真から被害者と思しき警察官の男性が捜査線に浮上。ほどなく、指紋照合により遺体の身元は胴体発見の数日前から行方不明になっていた志村署勤務の伊藤忠夫巡査(当時28歳)と特定される。
そして、その後逮捕されたのは伊藤巡査と内縁関係にあった小学校教師の宇野富美子(同26歳)。いったいなぜ、女性教師が現職警察官を殺害するに至ったのか。そこには世間も同情を禁じ得ない深い事情があった。
「加害者女性」と「被害者男性」が出会った理由
富美子は1927年(昭和2年)、大阪の裕福な綿問屋の4人兄妹の長女として生まれた(兄1人、弟1人、妹1人)。母シカの愛情を受けて何不自由なく成長し、1944年に高等女学校を優秀な成績で卒業する。時を同じくして米軍からの空襲が激しくなり、家は店を閉め、父の郷里の山形県米沢市へ疎開。空襲により家は財産を失ったものの、富美子は米沢で教員養成所に通う。伊藤と出会うのは終戦翌年の1946年春。まさか、後に自分が殺めることになる相手とは想像もしなかった。
一方、伊藤は1924年(大正13年)、山形県置賜郡豊川村(現・飯豊町)で生まれた。1941年から徴用工として川崎市の日本光学で勤務し、1944年に召集。復員後は仙台市で古物商の父を手伝いをしていた。富美子とは、継母が彼女の母親シカの実姉であった関係から自然と知り合い一目惚れ。頻繁に恋文を出し、想いを伝え続けていた。
しかし、富美子は伊藤になびかず、1947年から単身で大阪に戻り小学校教師として働き始める。1人で部屋を間借りし、月給7千円(現在の貨幣価値で約28万円)から毎月2千円を実家に送る日々。苦しい生活を余儀なくされていた父母の支えになることが最優先で、伊藤からいくら積極的にアプローチされても、それを受け入れる余裕などなかったのである。
大阪で教師に就いて2年が経過した1949年、彼女のもとに伊藤から知らせが届く。なんでも、2年前に上京し、昨年警視庁巡査を拝命、現在は板橋区の志村署に勤務しているという。もっとも伊藤の手紙には、上京後に浅草で露天商となり、テキ屋仲間と付き合っていたことは書かれていなかった。
近況を知らせるこの手紙をきっかけに2人は再び連絡を取り合う仲となる。実は、富美子は大阪で同僚の男性教師に心を奪われ本気で結婚を考えていたものの、相手にその意志はなく関係が消滅していた。そんな頃合いを見計らったように届いた伊藤からの手紙。彼女は一途に自分のことを慕ってくれる伊藤のことを本気で考えるようになり、その後、頻繁に手紙を交換する。
プロポーズは成功したけれど…
1949年夏、富美子は伊藤が住む警察の寮を訪ねプロポーズを受ける。即答は避けたものの、以降、伊藤を慕う気持ちは日に日に増していく。そのころ、彼女が伊藤に出した手紙が後に新聞で公開されている。
〈〈忠夫さん、危ない所には絶対に行かないでね。もし警察官の名の下にそうした行動をとらねばならない時は、弱虫のようですけれど、巡査を辞めてください。私はどんなことをしても、離れるのはいや。私を泣かせないでね。私を置いてどこへもいらっしゃらないとは信じていますが、離れないでね。富美子。私の大事な忠夫さまへ〉〉
1951年春、富美子は大阪から上京、板橋区の志村第三小学校へ転勤すると同時に、結婚を視野に入れ伊藤との同棲生活を始めた。自分は小学校教師で、伊藤は現職の警察官。安定した暮らしが送れるとの見込みがあったことは言うまでもなく、近いうちに富美子の母親と弟も同居するという頼み事を伊藤が快諾してくれたのも安心だった。
富美子の仕事は上京してからも順調で、学校側の評価は高く、児童からも慕われる。が、私生活では予想だにしない現実が待っていた。真面目で優しい、自分に一途な警察官だと思っていた伊藤が同棲を始めてまもなく、実際は極めて素行の悪い人間であることが発覚したのだ。
〈 【なぜ?】真面目な女性教師(26)が“2歳年上の内縁夫”をバラバラ殺人…彼女の母親も「共犯者」になったワケ(1953年の事件) 〉へ続く
(鉄人ノンフィクション編集部/Webオリジナル(外部転載))
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