「夫を殺した瞬間、ホッとした」借金あり、女癖も悪い暴力夫(28)を母親と協力してバラバラに…世間からも同情集めた「26歳・女性教師」のその後(1953年の事件)
文春オンライン / 2024年12月29日 17時0分
警察官の内縁夫を殺した女性教師(26)のその後とは…。写真はイメージ ©getty
〈 【なぜ?】真面目な女性教師(26)が“2歳年上の内縁夫”をバラバラ殺人…彼女の母親も「共犯者」になったワケ(1953年の事件) 〉から続く
「夫を殺した瞬間、ホッとした気持ちでした」――素行が悪く、ときには暴力もふるう内縁夫を殺害した26歳の女性教師。やがて逮捕された彼女は裁判で何を語り、その後どんな人生を生きたのか? 新刊『 戦後まもない日本で起きた30の怖い事件 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/ 最初 から読む)
◆◆◆
母親とともに「内縁夫の遺体」をバラバラに…
まずは富美子が左足の付け根に包丁の刃先を置き、のこぎりを引くようにギザギザと切り始めた。が、刃が骨に当たり完全には切断できない。すると、母シカが慣れた手つきで関節を外し骨と足を分断。こうして他の部位も切断していき、約2時間で作業を終える。この後、切り刻まれ小さくなった遺体を一つ一つ油紙と新聞紙に包み、富美子が自転車で、母はバスで新荒川大橋に運搬。そのまま包みを放水路に投げ込んだ。運びきれず自宅に残していた包みも深夜に富美子が運び出し、今度は戸田橋から荒川に投棄。遺体を隠すのに使った柳行李は細かく壊し焼却した。
翌5月10日午前11時ごろ、富美子は伊藤の勤務先である志村署を訪れ、「9日までの休暇届けを出していたが、実は主人は7日の晩に酔って帰宅し、私と口論になった後外出し、そのまま行方がわからなくなった」と告げる。もちろん、殺人が発覚しないための偽装工作だ。
が、前記したようにその1時間前に身元不明の胴体が発見されたことを彼女は知らなかった。さらに富美子は11日に伊藤の継母に伊藤が帰宅しないこと、実家に来ていないかを問う電報を送達。数日後、継母から、実家には戻っていないが、荒川でバラバラの死体が見つかり心配で食事も喉を通らないとの手紙が戻ってきた。
富美子が内縁の夫を心配する妻を演じているなか、16日になりバラバラ遺体の身元が伊藤であることが判明。警察は当然のように彼女に事情を聞く。ただ、15日に頭部が発見され伊藤が被害者である可能性が浮上した時点で、警察は内密に富美子の調査を進めていた。結果、夫婦仲が悪く喧嘩が絶えなかったことが明らかに。そして、遺体を包んでいた新聞紙も大きな手がかりとなった。
使われていた新聞は毎日12枚、朝日6枚、読売2枚、東京1枚の計21枚。その中に朝日新聞大阪本社発行分が1枚混じっていた。発行日は1951年3月25日。富美子が伊藤と同棲するため上京する直前のものである。さらに、5月10日の夜中、パトロール中の警察官が大きな荷物を積み自転車を漕ぐ富美子の姿を目撃し、数分後に見かけた際には荷物がなくなっていたことを確認していた。こうした状況証拠から捜査本部は富美子を犯人と断定。
16日夕方に赤羽署で取り調べたところ、最初こそ「私は教育者です。殺人など働くはずがありません」と毅然とした態度をとっていたものの、事情を把握し彼女への同情を示しながら真実を話すよう諭す警察に対して、17日になり「お手数をかけて申し訳ありません。私がやりました」と自供、そして逮捕。母のシカも同日に娘と同じ殺人・死体遺棄損壊容疑で逮捕された。また、同日に行われた家宅捜索では2階4畳間の押入のカーテンやタライなどから血痕が見つかった。
取り調べが一段落したところで、富美子は次のように語ったそうだ。
「夫を殺した瞬間、ホッとした気持ちでした」
「世間の人は私のことを異常性格と言うかもしれませんが、私は伊藤に対して心から詫びるつもりはありません。あのまま生活を続けていれば、どちらかが殺していたでしょう。私は夫を殺した瞬間、ホッとした気持ちでした」
1952年7月11日、東京地裁で開かれた初公判で富美子とシカは起訴事実を全面的に認めた。ただ、被告弁護人は「シカは富美子の言うとおりにするほかに道はなく、刑事責任は免れるべきだ」とシカの無罪を主張する。
その後、自宅や新荒川大橋などの犯行現場の検証や、かつての居住地の大阪、実父の居住地の山形で出張公判が開かれるなどして、同年9月17日、検察は「反省が見られない」などとして富美子に無期懲役、シカに懲役3年の求刑。10月28日に下された判決は、富美子が懲役12年、シカが懲役1年6ヵ月だった。
2人は控訴せず刑が確定。共に栃木女子刑務所に収監されたが、シカは1953年に尿毒症で獄中死。富美子は1959年に「皇太子ご成婚」特赦で減刑され、7年の服役で出所した。その後、彼女がどんな人生を送ったのかは不明である。
(鉄人ノンフィクション編集部/Webオリジナル(外部転載))
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