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「僕には生活費すらない」地方公立校から塾ナシで東大合格→仕送りナシで“貧困生活”…地方出身の東大生が、入学後に突きつけられた“厳しい現実”

文春オンライン / 2025年1月7日 6時10分

「僕には生活費すらない」地方公立校から塾ナシで東大合格→仕送りナシで“貧困生活”…地方出身の東大生が、入学後に突きつけられた“厳しい現実”

東京大学 ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 複数の上場企業で活躍しながら、東大大学院に通う矢口太一さん25歳。「両親高卒、地方生まれ、塾ナシ」で東大に入学した。しかし、「仕送りナシ、貯金ナシ、学費・生活費自費」で学生生活を送らなければならなかったという。彼は東大でどんなことを学び、どうやって卒業したのか?

 ここでは、矢口さんの著書『 この不平等な世界で、僕たちがスタートラインに立つために 』(朝日新聞出版)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/ 2回目に続く )

◆◆◆

教養なんかより、生きていくことに精一杯

 東大の前期教養学部の授業の必修科目ではなじみのあるクラスメイトが多くいるのだけれど、文理問わず、受講する授業では初めましてのメンバーが多くなる。そのうちの1つが英語の授業だ。

 カタカナ英語の域を出ない僕を尻目に、ペラペラと流暢に英語を話す受講生たち。話を聞くと、小さいころ海外に住んでいたとか、何かのプログラムで海外に行っていたとか、そういう人が少なくなかった。

「夏休みどうする?」

「海外行こうと思って!」

「え? 私も! どこ行くの?」

 そんな会話が授業の合間やキャンパスで耳に入るたびに、僕は違う世界に迷い込んだ気がしてならなかった。

「せっかくの大学生活、どうして海外経験しないの?」

 そう言われている気がした。でも、今の僕には生活費すらない。4年間、親に頼らず生き抜かなくちゃいけない。リベラルアーツ? 勘弁してくれよ、と正直思っていた。僕は教養なんかより、生きていくことに精一杯。

 運転免許もみんな取りに行くらしい。でも、車の免許にお金を使うくらいなら、明日も生きるためのご飯や寮費、教科書代に回さなくちゃいけない。

 理系だけれど本当は大好きだった古典や歴史の本を読むなんてことはなくなっていった。そんな心の余裕はどこにもない。

 ずっと遠い将来に役に立つかもしれない教養なんて、僕の人生を豊かにしてくれるかもしれない教養なんて、今日1日を生き抜くのに必死の僕にとっては何の役にも立たない。

日々の何気ない会話で心がすり減ってしまったワケ

 奨学金が決まらない中、三鷹寮から東大までを往復する日々。僕みたいにお金がない学生が周りにはほとんどいないことにも衝撃を受けていた。両親の職業の話題になっても、びっくりするくらい「凄い」人が親だったりする。

「大変なところに迷い込んでしまったのかもしれない…」

 ただでさえ、慣れない土地での一人暮らしだ。伊勢高校での勉強ともわけが違う。何より、4年間を乗り切るための奨学金を必死で探し、節約し日々を生きている僕がそんな「小さなこと」で心をすり減らしている間に、同級生たちは勉強に集中したり、海外で経験を積んだり、「有意義なこと」にエネルギーを注いでいる。

 僕みたいな貧乏人はこんなところにいる資格はないのかもしれない。日々の何気ない会話でそのことを突きつけられるような気がして、気づけば心がすり減っていった。

 人は長期的な最低限の保障がなければ、未来に向けた努力を落ち着いてすることなんてとてもできない。そのことを身に染みて実感する日々だった。

〈 “エリート育ち”の東大出身者は「普通の日本人」を知らない…両親高卒・地方出身の“苦労人”東大生が、大学入学後に抱いた違和感の正体 〉へ続く

(矢口 太一/Webオリジナル(外部転載))

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