《山の神誕生前夜》「おまえが5区だ」「えっ今、誰に言った?」今井正人が2年生で箱根5区に指名されたワケ
文春オンライン / 2025年1月2日 17時0分
“山の神”と呼ばれた今井正人
2005年、第81回箱根駅伝の5区で11人抜きを達成し“山の神”と呼ばれた今井正人。ここでは『 箱根駅伝5区 』より一部抜粋し、今井が才能を開花させるまでの日々をたどる。(全2回の前編/ 続き を読む)
◆◆◆
監督に見抜かれた「山の適性」
今井正人が、東京箱根間往復大学駅伝競走(通称・箱根駅伝)で「初代・山の神」になる発端になったのは、順天堂大学1年の夏、北海道・士別合宿でのことだった。
ウォーミングアップがてら士別陸上競技場まで、今井は同期の3、4人と一緒に走っていると、その後ろから電気自動車に乗った澤木啓祐総監督がきて、横で止まった。
「おまえが5区だ」
そう言って、去っていった。
「えっ今、誰に言った?」
「今井、おまえじゃーねーの?」
「いやいや俺じゃない、おまえだろ」
同期の間で大騒ぎになったが、すぐに今井が指名されたことが明らかになった。
「あのとき後ろから見ていて、膝の使い方や走り方の特徴から、山の適性があると見抜かれたようでした。でも、1年のときは最終的に5区じゃなかったんです」
2004年に行われた第80回箱根駅伝で、今井は1年生ながら2区のエース区間に配置された。1区が出遅れ、18 位で襷を受けた今井は、スタートからエンジンがなかなかかからなかった。
「最初の10キロが29分50秒くらいだったんです。その間、19位まで落ちてしまって。緊張感があって、なんか雲の上を走っているみたいにフワフワして全然ペースが上がらなかった。そのとき、後ろから国士舘大学の坂齋亨さんが来られたのですが、ついていけなかったんです。その後、やっとエンジンがかかり権太坂あたりからリズムが良くなり、自分の足で走れている感があって、前との距離が詰まってきたんです」
権田坂から下って最後の戸塚の壁を越えていくラスト3キロメートルで、今井は4人を抜いて区間10位、12位で襷を渡した。
レース後、今井は澤木総監督から厳しい表情で、こう言われた。
「2区で、最初の10キロを29分50秒で入ったやつを初めて見た。でも、後半は区間3位じゃないか。後半あれだけ順位を上げて走れたんだから、前半、なにトロトロ走ってたんだ。もったいないな」
今井が下をうつむいて聞いていると、澤木総監督は最後にこう付け加えた。
「後半の走り、とくに上りの走りは良かったぞ」
両親と恩師の教え
このときの走りがフックになり、大学2年時、今井は5区に置かれることになる。
2区の坂で強さを見せたのは、小学校のときから磨かれてきた体幹と、両親と恩師の教えがあったからだ。今井の故郷は、福島県相馬郡小高町(現・南相馬市)だ。地元では「相馬野馬追祭り」が開催されるが、その馬場の裏が公園になっており、クロカンコースのようになっていた。高校での基本的な練習はそこを走り、その1周1キロのダートコースを15周するなどして体幹を鍛えていった。
また、つねづね両親からは、「きついところで勝負をかけろ」と言われ続け、高校時代の恩師からも、「きついところでいける選手が強い選手だ」と言われてきた。
「両親や先生からそう言われて育ってきたので、きついところを自らいくのは癖みたいになっていました」
山の神の誕生前夜
当時、部内では5区は人気薄で5区をあからさまに嫌う選手もいた。だが、今井は監督にいわれるまま、ポジティブな気持ちで5区を受け入れた。
「5区だと言われてからは、腹を括りました。2区のエース区間で4年間、走りたい気持ちもありましたが、チームが勝つことが大事ですし、与えられた区間で自分の力を発揮することが自分の仕事だと思っていたので」
11月の全日本大学駅伝(秩父宮賜杯全日本大学駅伝対校選手権大会)を終えると、体を「山仕様」に変えていった。順天堂大学さくらキャンパスにある坂で練習をこなし、前傾の取り方や膝の使い方を山に合わせていった。そのときも、それからもそうだが、今井は万全の準備をして、レース前日を迎えた。
山の神の誕生前夜だった──。
〈 「とりあえず3番くらいで」「イヤです。勝つために走るんです」柏原竜二が5区快走前夜、監督に言われて“カチンときた言葉” 〉へ続く
(佐藤 俊/Webオリジナル(外部転載))
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