「ナゾの野生動物の映像」が差し込まれた中森明菜、スリッパ姿で登場した藤井風だけじゃない…何度も見返したくなる「思い出の紅白」5選
文春オンライン / 2024年12月31日 11時0分
思い出の紅白を一挙紹介。写真は今年「サプライズ登場」も期待される中森明菜さん(写真:ニッポン放送ホームページより)
「年末といえば紅白歌合戦」と思い込まされてきたけれど、熱く語れるほどの昔の記憶はない。子供の頃でぼんやり覚えているのは、「輝く!日本レコード大賞」の授賞式会場(帝劇か武道館か)から紅白の会場であるNHKホールへ、人気歌手が生放送をハシゴする臨場感くらいかな。
出場するのは演歌歌手が大半で、年寄りが観るモノという印象だった。あとは大物女性歌手の名前を呼び間違えたアナウンサーのその後のいたたまれなさ、客席審査の票を数える日本野鳥の会の暗躍など。私とほぼ同い年のNHKホールも、昔は豪華に見えたが、番組自体の人気と質の低迷とともに老朽化と手狭感が気になっていった。
いつの頃からか、歌手をアーティストと呼び、口パク&大所帯で出場する演者が増え、歌合戦の看板に偽りありとなった紅白。つい先日、昔の紅白のデジタルリマスター版が放送され、SNSでその感想が流れてきたが、「みんなちゃんと歌ってる」「歌のうまい人ばかり」という声だった。
そうなんだよ、平成に入ってからは、歌合戦なのに歌っていない、歌合戦なのに歌に集中させてくれない過剰な演出、秒単位の時間制限で出役も裏方も歌を楽しむ余裕はなくなった。生放送にこだわり続ける地獄の祭典は、もはや歌番組ではなく、ツッコミどころ満載のバラエティ&余興忘年会と化したわけだ。
それでもここ14年は、原稿を書くためにほぼ毎年、紅白を観続けてきた。基本はツッコむためではあるが、やはり本物の歌い手の才能や迫力に、素直に感動することもある。朝ドラ&大河の出演俳優や脚本家が司会や審査員を務めるようになったので、ドラマ好きとしては馴染みもあるし、魅力を感じることもある。思い出とまではいかないまでも、「観てよかった」紅白の名場面をいくつか振り返ってみる。
2012年――初出場、漆黒の衣装で美輪明宏が披露した力強い歌声
美輪明宏が作詞・作曲した「ヨイトマケの唄」は、歌詞の中に差別用語が含まれるためにテレビ放送では忌避されてきた。聴いたことはあったが、生放送では初めてだ。
舞台上は真っ暗、中央にスタンドマイクひとつ。スポットライトが当たった美輪は黒髪に漆黒の衣装。紅白恒例というか悪しき因習となった、他の歌手やダンサーによるにぎやかしは一切ナシ。余計な映像や舞台装置もナシ。
お祭り騒ぎの会場の空気が一変、すべての人が美輪の力強い歌声に聴き入った。汗まみれ・泥だらけで懸命に働く母親の姿を思い出し、今の自分があるのは母のお陰と感謝したくても、もうこの世にいないという歌である。テレビの画面はほぼ真っ黒なのに、母と子の光景が目の前にひろがるような錯覚を覚えた。歌の力ってこういうことだよなと実感したのを、今でも覚えている。
2014年――ナゾの映像を差し込みながらも中森明菜が登場
あの歌声をもう一度、と復活を願う人が多い中森明菜。2014年に久々の登場(ニューヨークのレコーディングスタジオから中継)をはたしたものの、完全復活とは言い難く。話し声は弱々しくて聞き取りづらく、待ち望んだ姿ではなかったものの、歌への情熱は枯れていないことを確認。
明菜の表情をはっきりと映し出すことはなく、歌っている最中も、太陽とか(日曜劇場か!)、鷹とか豹とかナゾの野生動物の映像やニューヨークの街並みの映像が差し込まれていく。消化不良ではあったが、「明菜、今じゃなくてもいいよ、じっくり待つ」と誰もが心に決めた瞬間だった。あれから10年…そろそろではないかしら?
2018年――米津玄師が実在の人物であることを確認
ドラマ「アンナチュラル」(TBS)の主題歌「Lemon」を中継で披露した米津玄師。名作ドラマの空気感にシンクロした名曲を生み出しながら、公の場にあまり出てこないため、実在しないのではないかと思っていた。存在を確認できてよかった。歌手だからといって紅白に喜んでホイホイ出る人ばかりではない。その舞台設定や音質、歌そのものの扱いにこだわる歌手は、昭和の時代からいたしね。
そんな米津、翌年はVTRのみの登場。彼が作った歌を子どもやアイドルや役者が歌うという「忌避の一手」。聴きたいのは米津本人の歌であって、他人が歌うのはどうでもいい。そんなイケズに歯ぎしりした紅白だった。
今年は毎朝毎晩、下手したら1日3回、米津の歌声にまみれた。そう、「さよーならまたいつか!」が名作朝ドラ「虎に翼」の主題歌だったからね。9月には特別番組「虎に翼×米津玄師スペシャル」にも出演。で、今年は特別枠で出演、歌うんですってよ!
録画&永久保存版、決定。
2020年――そつなくこなして見事に仕切った二階堂ふみ
過去、朝ドラや大河から引っ張られて、紅組司会を担当させられた女優が数名。最もきびきびと仕切って、好感度爆上がりだったのは二階堂ふみだ。総合司会の内村光良も、白組司会の大泉洋も、安心してボケ散らかすことができたのは、ふみのおかげである(と思っている)。衣装のジャンプスーツやパンタロン(死語?)もスッキリまとまっていて可愛らしかった。
台本通りの進行をするだけで、審査員の上沼恵美子に「初々しい」と皮肉られても気づかないほど、緊張感とぼんやりのお飾りで終わった女優もいた。その点、ふみは落ち着きと安定感のある司会っぷりで、満点だったと記憶している。ま、コロナのせいで会場は無観客だったんだけどね。
2021年――東京国際フォーラムに、家着の神が降臨 藤井風
NHKホールが改修工事のため、東京国際フォーラムで開催した珍しい年。実は、会場がすごくよかった。ガラス張りで吹き抜けになっているロビーと外廊下は、抜け感があって美しく幻想的な絵面が完成。紅白はいつもすし詰め・ぎゅうぎゅう詰めのステージで、イナバの物置状態だったから、この年は新鮮だった。劇場として動線も計算されているし、またあそこでやらないかしら…。
で、初出場、トリッキーな登場で話題をかっさらったのが藤井風だった。稲妻走ったわよ、その出で立ちのそっけなさ(家着にふわふわスリッパ履いて)と美しいピアノの調べと歌声に。音楽の神が家着で降臨!! と思った。今年も出場すると聞いて、最も楽しみにしている。
「いつまでやるか」「誰が観るのか」と言われ続けている紅白だが、かといって他に観たい番組が地上波にあるわけではない。「消去法で紅白」だとしても、本物の歌い手が心を震わせてくれる瞬間は、必ず、ある。
(吉田 潮)
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