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『イシナガキクエを探しています』で注目されたプロデューサーがフェイクドキュメンタリーを作り続けるワケ

文春オンライン / 2024年12月25日 17時10分

『イシナガキクエを探しています』で注目されたプロデューサーがフェイクドキュメンタリーを作り続けるワケ

〈 「謝罪すれば罪を償ったことになるのか」人気フェイクドキュメンタリー作品が私たちに突きつける“儀式としての謝罪” 〉から続く

 23日から4夜連続でテレビ東京で放送されているTXQ FICTION第2弾『 飯沼一家に謝罪します 』。プロデューサーがフェイクドキュメンタリーを作り続ける理由とは…。(全3回の2回目/ ♯1 、 ♯3 を読む)

 ◆◆◆

“不安”は最も人間らしい感情

──前作『イシナガキクエを探しています』放送後に届いた反響の中で印象的だったことはありますか。

大森 思わぬところで“ここはリアルじゃない”と言われることが多いです。僕たちの間では一度も議題に上がっていない、まったく問題ないと思った場所を、そう指摘してくださる方が10人、20人いると新たな何かを発見したという気持ちになります。

 ドラマだとどんなに面白くて心が動いても、そこまで自分の近くに寄せてない感じが僕の中にあるんですが、不思議なものでフェイクドキュメンタリーの手法だとフィクションを謳っていても皆さん自分の身体にグッと近づけて見る。体験自体を面白いと思ってくださる方が多いから、現在モキュメンタリーホラー的なものが大きな潮流となっているのかなと感じます。

──大森さんは“不安”というものに対して、とても興味があると語っています。

大森 なぜこんなに“不安”という感情に興味があるのか自分でもよく分かっていないところもあるんですけど、ひとつは最も人間らしい感情のような気がするんです。

“恐怖”は動物にも発生するもので、火が怖かったり天敵が近づくと逃げますが、“不安”はもはや対象の輪郭がはっきりしていなくても感じるし、ひいては対象がなくとも内側に向いて生まれるものです。そうなるには自分自身に距離が近づいたフィクションであること、つまりフェイクドキュメンタリーというフォーマットが最適解のひとつだなと。

 フェイクドキュメンタリーを作り始めた頃は、現実なのか虚構なのかわからないラインこそ不安になると思っていたんです。ところが、ここ1年ぐらいでそこじゃないかもと思い始めているムードの変化が僕の中であって。

 物語として不安になることこそ、その人にとっての本当の不安であって、真実か嘘かは物語に近づくうえで逆にノイズになるんじゃないかという考え方になってきています。

フェイクニュースの数が増えて真実と虚構がわからなくなっている

──それはどうしてですか。

大森 ここ1、2年でフェイクニュースの数がすごく増えて、何が真実で何が虚構なのかわからなくなってきたことが大きいです。

 例えば、先日起きたとある殺傷事件も、犯人が逮捕される前にX(旧Twitter)で「被害者の父親はその地域のマル暴(暴力団対策を担当する警察関係者)で、おそらくプロによる犯行だろう」というポストを目にして反射的に“そうなんだ”と思ってしまったんです。

 結局それは事実無根のフェイクニュースだった可能性が高いわけですが、騙された感覚もないまま情報を得た気持ちになっていたわけです。“自分には関係ない”というフィクション的なものに回収できる情報だからスッと入ってきた。

 それって実は恐ろしいことで、陰謀論とかなり近い構造があると思うんです。納得できなかったことや自分自身に近づく怯えに対して、ストーリーを作ることによって遠ざける。

 陰謀論にしても、ほとんどの人は“どうしてそんなものにハマるんだろう?”という立場だと思うんですけど、フェイクニュースに翻弄された自分も含めて同じ穴のムジナだったと。それくらい真偽が分からないことがベースになっている今の世の中で、コンテンツの真偽そのものに興味が持てなくなっているかもしれないという思いが僕の中で生まれたことで、そこじゃなく物語なんだという気持ちが強くなっている感じです。

 TXQ FICTIONを“この番組はフィクションです。実際の人物や事件とは無関係です”とかなり強く打ち出したうえでやっているのは、そういうムードの変化も大きいです。

作り手として『飯沼一家に謝罪します』に込めた思い

──SNSで誰でも発信できるからこそ、腑に落ちるストーリーさえ作れたら真偽に関わらずどんどん拡散していく。昨今のコンテンツ人気を支えている考察ブームにもつながるところですね。

大森 考察自体、そもそも陰謀論とかなり近いですよね。例えば“バイデン大統領はゴム人間とすり替わっている”と言われた写真を見ると、確かに首元のしわがゴムマスクの切れ目のように見えなくもない。そこからストーリーを紡いでいく行為は、フェイクドキュメンタリーの中でも“背景のカレンダーに映っていた数字の位置に汚れがついていたのは何か意味があるに違いない”と考察する行為にすごく近いと思うんです。

 そうした考察的なものがフェイクドキュメンタリーを盛り上げてホラーブームを起こしていただいているのは間違いないんですが、そういうところで面白さを作っていくよりは大きな物語を作りたい気持ちが強まっているのも、そういうことへの危惧であり怯えでもあります。

『飯沼一家に謝罪します』に関しても、作り手である僕たちがこうしたいと思う物語にちゃんと収束させて、見てくださった人全員がその物語に何か感じてくださると嬉しいです。

INFORMATION

【タイトル】 TXQ FICTION「飯沼一家に謝罪します」
【放送日時】 2024年12月23日(月)〜26日(木)深夜2時00分~2時30分
【放送局】テレビ東京
  TVerで配信中 https://tver.jp/series/srog0v9atu

〈 「砂嵐のテレビ画面を見てなぜ人は恐怖を感じるのか」フェイクドキュメンタリーの旗手が考える“怖さの正体” 〉へ続く

(秦野 邦彦)

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