「初詣は稼ぎ時」「お年玉は?」「大々的な新年会は…」意外と知らない“ヤクザの年末年始”のリアルな実態「正月にケンカはしないという不文律はあるが…」
文春オンライン / 2024年12月28日 10時0分
6代目山口組の司忍組長
12月は忘年会シーズンが続き、クリスマスが終わったかと思うとあっという間に正月と、楽しいイベントが続く。
実はこの時期は、暴力団のヤクザたちにとっても「めでたい」行事が続く時期である。華やかな空気が流れる年末年始、ヤクザたちはどんな風に過ごしているのか。暴力団の幹部たちから「ヤクザと正月」の意外な実態について話を聞いた。
12月13日、国内最大の暴力団「6代目山口組」は1年の締めくくりであり、事実上の新年会にあたる「納会」を静岡県内の傘下組織の事務所で開催した。警察当局の捜査員が監視するなか、6代目山口組組長の司忍や、直参と呼ばれる直系組長らが集まった。
組長と新たに子分となった幹部の間での盃儀式などが行われた後、ナンバー2である若頭の高山清司が代表して組長への挨拶を述べ、昼食会ではカラオケで歌声を披露する幹部もいたという。
「年末年始は稼ぎ時だから。明治神宮なんかは…」
12月の半分も終わっていない時期に「新年会」とは気が早いが、6代目山口組以外にも、この時期に新年の行事を開催する暴力団組織は多い。
その理由についてあるテキヤ系の暴力団幹部は「年末年始は稼ぎ時だから」と話した。初詣客で賑わう全国各地の神社仏閣の露店が、暴力団の資金源になっているのは有名だ。
「大晦日から正月の元旦は多くの初詣客が訪れる。東京で言えば、明治神宮なんかは大晦日の夕方あたりから初詣のお客さんが集まりだして、徹夜で元日の夜まで商売が続く。その後の三が日もお客さんは絶えない。その商売の仕込みや露店の場所決めなどの会合で12月の中旬以降は忙しいんだ。今年の年末年始は天気が良さそうだから期待できる」
各地域の有名な神社仏閣には、ほとんどの場合テキヤを管理している暴力団がついている。露店を出す人はそのヤクザに申請し、地域によって差はあるが1万円ほどのショバ代(場所の使用料)を支払うことが多い。申請を受けたヤクザは、同じ商品のテキヤが近いエリアに重ならないように調整して営業場所を指定する。
「人気がある初詣スポットでも、店を構える場所によっては利益に差が出る」とも明かす。屋台の商品はりんご飴やたこ焼きなど数多いが、「粉ものは儲かる」と強調した。
「ベビーカステラなんかは材料が小麦粉と水、砂糖ぐらいだから、材料費はわずかで利益が大きい。上手く配合すればお客さんが前年の味を覚えてくれていて、また来てくれることもある。たこ焼き、お好み焼きなどもそうだ。綿菓子も材料は砂糖だけだから同じ理屈で利益率は高い。ウチは多ければ5店舗ほど出すが、儲かる時は1店舗で100万円以上ということもある」
「年末の2週間で1000万円以上になることも。親分に200万円ぐらいを届けて…」
テキヤ系以外の暴力団に話を聞いても、答えは「年末は忙しい」というものだった。首都圏に活動拠点を構える博徒系の暴力団幹部は、年末年始の活動実態をこう話す。
「かつて我々の業界の景気がよかったころは、12月上旬から地域のクラブやキャバクラ、居酒屋、パチンコ店などに正月用の門松やしめ縄などの松飾り、鏡餅の注文を聞いて回っていた。鏡餅は5万円、松飾りは20~30万円ぐらいで売って、若い衆に配達させる。年末の2週間で1000万円以上になることもあった。そのうち親分のところに200万円ぐらいを届けて、仕入れ費用や配達の経費などを差し引いても自分の手元にはかなり残った」
ただお正月についてはテキヤと違い「比較的のんびりだ」とも話す。
「元旦は家族と過ごす。2日は我々子分が揃って本家の親分のところにおじゃまして、若頭が代表して新年のあいさつの口上を述べる。その後は食事会だ。この時に親分から『お前の所には小さい子供がいたよな。これを持って行け』と子供へのお年玉をもらうこともあって、中には10万円が入っていた」
2日に本家の親分に挨拶に行き、3日になると今度は“立場が逆”になったという。
「3日になると、今度は自分が子分たちから新年の挨拶を受ける。ここでも食事会となるが、適度な時間で解散することが多かった」
ピラミッド型の階層組織である暴力団組織ならではの新年の光景と言えそうだ。
年末の子どもの楽しみである「お年玉」は、ヤクザの世界でもあるという。
ヤクザの世界には、入門したばかりの若い衆が親分の自宅兼事務所に住み込み、世話をする「部屋住み」という役目を与えられることが多い。掃除、洗濯、食事作り、お客さんの接待などのほか、親分が外出する際には運転手兼ボディーガード役も担う。こうした部屋住みの若い衆には、親分からお年玉が出るのが慣習だという。
前出の幹部は、「何十年も前になるが、自分が部屋住みだった頃は、お年玉は毎年もらっていた。当時だと5万円は入っていた」と振り返る。
近年は反社会的勢力である暴力団排除の取り締まりが強化され、松飾りなどの販売を拒否されるケースも増えたことで、年末のシノギ(資金獲得活動)は低調だという。
暴力団の年末のシノギと言えば、かつては賭場を開いて博打で稼ぐ組織も多かった。
暴力団の新年会に「有名な俳優や歌手がゲストとして来ることも多かった」
前出の博徒系の暴力団幹部は、博打華やかなりし時代の新年会を懐かしそうにこう語った。
「年明けの7日あたりにホテルの宴会場を借りて、数百人が出席する組織全体の新年会を大々的にやっていた。夕方から始まり、途中でカラオケも。延々と続くので飽きてきた連中の中には部屋に戻って麻雀、サイコロ賭博などの博打を始めるのもいた」
そして「昔の話だが……」と断ったうえで、「新年会には当時は有名な俳優や歌手がゲストとして来ることも多かった」と話す。
「国民的な人気がある演歌の重鎮、大物俳優、ヒット連発の歌謡曲の人気歌手なんかが出席していたが、歌手がカラオケで歌うのは見たことがなかったな。対応が丁寧で紳士的、帰る際に車代を渡そうとしても固辞していた俳優もいたな」
芸能界と暴力団の距離が今よりもずっと近かった時代だが、それでも異なる世界が接することで“一触即発”の事態に発展することもあったという。
「芸能人の中には、言葉も態度も横柄なのもいた。(本家の)親分に対して『そりゃそうだろう、ねえ親分さん』となれなれしく話しかけて、肩をポンとたたくことも。周囲に居並ぶ最高幹部たちがその態度に厳しい目を向けて緊張感が漂うこともあったが、その芸能人のことを姐さん(親分の妻)が気に入ってかわいがっていたから、誰も口をはさめなかった。その人はお車代の他に小遣いも当然のように受け取って帰った」
今であれば、暴力団との交流が発覚した時点で芸能界から追放の憂き目にあうことは間違いない。島田紳助が2011年に引退に追い込まれたのも、6代目山口組の若頭・高山らとの親密な様子の写真が週刊誌で報道されたことが発端だった。
近年では、ホテルの宴会場を借り切っての新年会などはまずない。ホテルの宿泊やゴルフ場でのプレー、賃貸住宅の入居などでは約款を交わす必要があるからだ。
約款には「反社会的勢力に属していますか」という項目があり、ヤクザが身分を偽って契約すれば、事業者をだましてこうしたサービスを享受することが詐欺罪にあたり逮捕されることになる。実際にホテルの宿泊やゴルフプレーなどで暴力団幹部が逮捕される事例は多くある。
冒頭の6代目山口組の納会が、静岡県内の傘下組織の事務所で開催されたのも、宴会場などを使って警察の介入を招くのを避けるためと見られている。
「不文律として『正月にケンカはしない』というのが我々の常識としてあるが…」
6代目山口組の本家は神戸市内にあるが、新年会が神戸で行われないことにも理由がある。6代目山口組は「特定抗争指定暴力団」に指定されており、神戸市内は「警戒区域」に設定されている。神戸市内で6代目山口組の関係者がおおむね5人以上で集合すると即座に逮捕される。100人単位が集まる新年の行事などはとても行えないということだろう。
それでも、ヤクザにとっても正月はめでたいものだという。ある幹部はこの時期の暗黙の了解について、こう指摘する。
「不文律だが、『正月にケンカはしない』というのが我々の常識としてある。ただ、守られるかどうか分からないのも我々の社会特有のことだ」
(尾島 正洋)
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