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初日の出定番スポット「江の島」へ向かう“知られざる移動手段” まるでジェットコースターのような“乗り物”の正体

文春オンライン / 2024年12月30日 6時10分

初日の出定番スポット「江の島」へ向かう“知られざる移動手段” まるでジェットコースターのような“乗り物”の正体

電車でもバスでもない...江の島観光“第3の足”とは

〈 「ホームには電車の形をした売店が...」湘南の玄関口「藤沢」には何がある? 〉から続く

 江の島は、いうまでもなく湘南、いや関東地方を代表する行楽地だ。橋を渡った先の弁財天やしらす丼、浜辺には新江ノ島水族館、またヨットハーバーまである始末。まあここであれこれ語るまでもなく、江の島一帯には大小さまざまな見どころが目白押しだ。

 10年以上前だったか、取材で真夏の江の島を訪れたことがある。そのとき、10人ほどの見るからに屈強な外国人グループと出くわした。聞けば、「アツギ」から来たという。米軍厚木基地の兵隊さんだったのだろう。やたらとノリが良く、たまたま居合わせた日本人観光客とも一緒になって江の島を楽しんでいたのを覚えている。 

 そんなわけで、1年を通じて日本人にも外国人にも人気の江の島の町。せっかく藤沢までやってきたので、少し足を延ばして師走の江の島も歩いてみることにした。

江戸時代には庶民の人気観光ルートのひとつに

 江の島が行楽地になったのは、かなり昔の話だ。信仰の地としての江の島は、なんと欽明天皇の御代からはじまったという。欽明天皇は聖徳太子のおじいさんだから、大化の改新よりも前のこと。陸繋島の江の島に、古代の人々も神秘的な何かを感じたのだろうか。 

 本格的に多くの人々が江の島を訪れだしたのは鎌倉時代。源頼朝が奥州藤原氏の調伏を祈願させて弁財天を勧請、以後鎌倉武士が足繁く通うようになる。時代が下って江戸時代には芸能の神さまという一面も持ち、歌舞伎役者も多く参詣していたという。そうして江の島には参詣者のための宿坊(旅館)なども生まれ、中にはいまも営業を続けているところもある。大山から江の島、そして鎌倉を巡る旅は、江戸時代の庶民の人気観光ルートになった。

鉄道が開業し、戦後ますます発展

 明治に入ると、それまでは徒歩しかなかった交通の便も向上する。1902年には藤沢・鎌倉との間を結ぶ江ノ電が開業。1929年には小田急江ノ島線も開業した。もともと藤沢は江の島に通じる江の島道が東海道から分かれる要衝。それが鉄道の時代にも引き継がれた形だ。

 そうした交通機関の充実にも助けられ、江の島は戦後になってますます発展。海水浴場が整備され、1954年には日本初の近代的な水族館・江ノ島水族館がオープン。ヨットハーバーもできて、1964年の東京オリンピックでヨット競技の会場にもなっている(2021年の東京五輪でもセーリング競技の会場になった)。

江の島にやってきたら、江ノ電に乗るのもセット

 そんな江の島に、いちばん近いのは小田急江ノ島線の片瀬江ノ島駅だ。新宿駅から直通の特急ロマンスカーもやってくる、江の島観光の玄関口といっていい。竜宮城を模した駅舎に江の島ムードが高まって、そのまま駅前から橋を渡って右に折れれば、まっすぐ正面江の島大橋を渡った先が江の島である。

 ただ、そんな便利な片瀬江ノ島駅なのに、歩いている人の流れは違っている。江の島を堪能した、またはこれから江の島に渡ろうというだいたいの人は、江の島大橋からまっすぐ続くすばな通りを歩いてゆく。海鮮を食べさせる店や観光地にありがちな小洒落たカフェやスイーツの店が並ぶすばな通りの先にあるのは、江ノ電の江ノ島駅だ。

 江ノ電は、藤沢駅から江ノ島を通って鎌倉までを結んでいる。民家の軒先をかすめるように走り、途中には七里ヶ浜や稲村ヶ崎、例のバスケマンガでおなじみの海バックのフミキリと、路線そのものがすっかり観光スポットと化している。あまりに観光客の利用が多いものだから地元の人が乗り切れなくて困っている、などという事態にも発展しているらしい。典型的なオーバーツーリズム、というやつだ。

 ともあれ、だから江の島にやってきたら、だいたいの人は江ノ電に乗るのもセットになっている。江の島と江ノ電江ノ島駅はすばな通りを挟んで江の島まで一直線。沿道を含めたロケーションもいうことなし。鎌倉にも行けることができるわけで、江ノ電に乗りたくなるのも納得である。

多くの人は見向きもしない、第三の手段

 だがしかし、である。江ノ電も楽しいし、小田急江ノ島線も便利だ。けれど、第三の手段があることを忘れてはいけない。丘陵地の真ん中を大船駅から江の島まで15分足らずで結ぶ、湘南モノレールである。

 湘南モノレールの駅、湘南江の島駅は江ノ電江ノ島駅のすぐ近くにある。多くの人は江ノ電の駅の中に消えていってしまって見向きもしないが、少し北、線路を渡ったところに湘南モノレールのターミナル。なんともまあ、5階建ての立派な駅ビル、そのいちばん上にモノレールののりばがある。改札の前には江の島の町が一望できるルーフテラスも設えられて、なかなかおもしろい。せっかくだから、そんな湘南モノレールに乗って大船駅に戻ってみることにしよう。

急勾配・急曲線に強く、まるでジェットコースターのよう

 湘南モノレールの何よりの特徴は懸垂式、つまり車両が軌道からぶら下がっているスタイルにある。言い換えれば、ロープウェイがだいぶ立派になったもの、といったところだろうか。屋根上の軌道にゴムタイヤが引っかかり、それで前に進む構造だ。

 この方式の何よりのメリットは、急勾配・急曲線に強いことにある。湘南モノレールも、最大で74パーミルという急勾配を登っている。一般的な鉄道の限界が20パーミル程度とされているから、なかなかのハイパワー。急曲線も半径50~100mほどで、およそ普通の鉄道では走れないところを走っている。

 だから、実際に乗ってみると、急なカーブを曲がったりトンネルに入ったり、急な上り下りを繰り返したり。まるでジェットコースターのようだ。もちろんジェットコースターほどにはスリリングではないし、万全の安全も期されている(ジェットコースターも安全なんですが)。

 だから、毎日のように乗っている人にすれば何のことはない普通の乗り物なのだろう。けれど、めったに乗らない人が江の島観光のついでに乗ったなら、アトラクションのひとつのような楽しみを得られるのではないかとも思う。高いところが大の苦手な筆者のような人は、ちょっと足がガクガクするんですけどね……。

 湘南モノレールがアップダウンを繰り返しながら進んでゆく沿線は、丘陵地を切り開いた住宅地がほとんどだ。途中の小駅で降りてみると、朝の通勤時間帯は混みますよ、といった案内書きが掲げられていた。沿線風景ともども、江ノ電などとは違って江の島観光よりは通勤通学路線としての側面が強いのだろう。

湘南モノレール開業の大きな目的

 湘南モノレールが開業したのは、1970年。大船~西鎌倉間で開業し、翌1971年には湘南江の島駅まで延伸して完成した。このとき、小田急の片瀬江ノ島駅前まで乗り入れる構想もあったという。ただ、その場合はすばな通りの上空を横切ることになり、商店街の反対もあって実現しなかった。

 湘南モノレールの目的のひとつは、いうまでもなく江の島へのアクセス強化だ。加えて、すでに開発がはじまっていた沿線の住宅地の通勤通学の利便性を高めるという狙いもあった。

 ただ、それ以外にももっと大きな目的もあったという。それは、懸垂式モノレールの“テスト”だ。

 湘南モノレールで採用されている「サフェージュ式」と呼ばれる懸垂式のスタイルは、もともとフランスのサフェージュ社が開発した。それを日本に導入、実用化しようと目論んだのが三菱グループだ。三菱重工・三菱電機・三菱商事の3社が中心になって1961年に日本エアウェイ開発を設立。1964年には、名古屋の東山公園内に約460mの実験線を建設している。

 その実験線をさらに発展させたのが湘南モノレール、というわけだ。500mに満たない実験線ではせっかくの急勾配や急曲線への強さも測れない。そういう背景もあって、積極的にカーブと勾配を多くするルートで建設。ちょうど京浜急行が大船と江の島を直結する自動車専用道路を持っており、その上空に建設できるというメリットもあって、湘南が選ばれた。まだどこの馬の骨ともしれない懸垂式のモノレール。それを一般道の上に建設するにはいくらかのハードルがあったのだろう。

湘南モノレールのDNAを受け継いだ千葉モノレール

 こうした経緯で誕生した湘南モノレール。だから、最初からいままで車両はもちろん三菱製。他にも何もかもが三菱の手によってつくられたという、三菱の三菱によるモノレールだった。沿線にはいまも三菱電機の工場があって、通勤でモノレールを使う人もいるようだ。なお、いまでは湘南モノレールは三菱の傘下からは外れている。

 そして、この湘南モノレールによって得られたデータは、その後になって千葉モノレールなどに活用されている。いま、国内のモノレール路線のほとんどは懸垂式ではなく跨座式と呼ばれるスタイル。ただ、千葉モノレールは懸垂式では世界一の営業距離ということでギネスにも登録されているらしい。湘南モノレールそのものは、テスト路線という役割もあったからか、江の島への観光路線というよりは比較的地味な通勤路線。それでも、このモノレールのDNAは千葉の町中にも受け継がれているのだ。

遠く富士山も見え、車窓からの見晴らしもバツグン

 などと、湘南モノレールを堪能しながら大船駅に着いた。大船駅は、藤沢方面の東海道線と鎌倉方面の横須賀線が分岐するターミナル。そこから15分足らずで江の島に着くのだから、あんがい無視はできない江の島アクセス手段のひとつではないかと思う。

 何しろ、アップダウンも激しくて、高いところを走っているから車窓からの見晴らしもバツグンだ。冬の江の島からは、初日の出だけでなく遠く富士山だってよく見える。大船駅からモノレールに乗って江の島に向かえば、窓の外ではずっと富士山とともに。お正月、江の島に出かけてみようと思うなら、江ノ電もいいけれど、モノレールもぜひともおすすめしたいのである。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

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