旧皇族を名乗る「殿下系YouTuber」華頂博一は“ニセ殿下”だった!《全国で講演会活動、第2の有栖川宮詐欺事件か》
文春オンライン / 2024年12月30日 12時0分
華頂殿下(「華頂宮チャンネル」公式SNSより)
「殿下、お疲れ様です!」
そう声をかけられると、椅子に身体を預けながら慣れた様子でお辞儀を返す初老の男性。YouTubeの『旧皇族 華頂宮チャンネル』にアップロードされたある動画の冒頭場面だ。ボーラーハットにフォーマルな装いの男性が画面に映し出されると、テロップには、〈旧皇族 華頂宮家 現当主 華頂博一〉と表示される。
男性が口を開く。
「旧約聖書は日本語を使う人が書いた。それ以外に方法がない」
表情は柔和ながらも、時折鋭いカメラ目線で自説を滔々と語る“華頂宮家の当主”。背後には日の丸が掲げられ、エンディングでは君が代の重厚なBGMが流れ出す――。
スタッフから“殿下”と呼ばれるこの華頂博一(かちょうひろかず)なる人物、実は登録者数11万人を誇るYouTuberなのだ。
日本初の“殿下系YouTuber”
「華頂宮チャンネル」の視聴者が語る。
「華頂殿下は旧皇族『華頂宮』の末裔で歴史研究家を名乗り、日本の発展や世界平和を謳って2021年から活動している。皇族の秘話を語り尽くすスタイルで人気を博しており、いわば日本初の“殿下系YouTuber”です」
“華頂宮”とは聞き慣れない名称だが、実在した宮家の一つだ。
「戦後に廃止された11宮家(旧皇族)の一つである『伏見宮家』の分家にあたります。1924年(大正13年)に第4代博忠王が独身のまま22歳で薨去したことから、華頂宮家は断絶。しかしその後の1926年(大正15年)、博忠王の弟・博信王が臣籍降下するにあたり、華頂侯爵家を創設して華頂宮家の祭祀を継承しました。そのため、華頂姓の子孫は今も存在します」(宮内庁関係者)
たしかに、華頂殿下のプロフィールには、〈曽祖父 伏見博恭〉〈祖父 華頂博信〉と記載がある。つまり、伏見宮家と華頂宮家、2つの宮家に連なる系譜に生まれた人物として活動しているのだ。
「華頂殿下は祖父の博信氏に養育されたそうで、動画でも、『天皇陛下しか知らない秘事』など、皇室の謎に言及するものも多いです」(前出・視聴者)
自身の出自について問われると「宮内庁に呼ばれまして」
例えば2021年に投稿された他のYouTuberとのコラボ動画のタイトルは〈旧皇族華頂宮殿下 皇室の真実を語る〉。
そこでは自身の出自について問われると「宮内庁に呼ばれまして」と切り出し、「戦争で負けると男系が切れる。だから戦争が終わる前に潜らされている」と述べている。あたかも自身は男系男子として世間から隠された存在であり、皇族数の減少を危惧する宮内庁から呼び出されたという口ぶりなのだ。
〈華頂博一にしか語れない、祖父華頂博信の秘話〉と題して、自身の“祖父”や“曽祖父”について語る動画もある。そこでは、自身を育てた祖父についてこう語っている。
「(博信氏は)政治にはすごく興味があったと思う。新聞何紙もとってたし、日曜日は必ず『時事放談』って番組を見てた」
さらに「祖父から聞いた」とした上で、歴史認識についても言及している。
「おじいちゃんは、慰安婦の問題は、基本的に軍は関与していないよと言っていた」(〈激動の時代になる〉より)
華頂殿下は実際に、旧皇族の関連団体にも関わっていた。宗教関係者が語る。
「一般社団法人『日本文化振興会』の役員から、彼を紹介されたことがあります。この会は日本文化の隆盛や発展に力を注ぐことを目的としており、歴代総裁は旧皇族が務めている。現在の総裁は伏見家の当主・伏見博明氏です。そんな同会で、華頂さんは『副総裁』の役職に就いており、名刺をもっていました」
別の一般社団法人の公式サイト上に、華頂殿下と伏見氏が一緒に写る写真が掲載されたこともあった。
露呈する不審点の数々
YouTubeだけでなく、全国各地で講演会も開催。確認できる限り料金は1000~5000円で、今年5月に大阪でゲストとの対談形式で開催された講演会には、約300人が参加したとされる。
旧皇族という立場をアピールして活動の場を広げている華頂殿下。だが、そんな彼にいま、不審点が露呈しつつあるという。前出の視聴者はこう首を傾げる。
「これまで華頂殿下と華頂宮家をつなぐ客観的な証拠が示されたことは一度もないのです。そもそも、華頂殿下が祖父の博信氏に養育されたというストーリーは、時系列があわない。博信氏は1953年に渡米し、1970年に米国で亡くなっています。一方、博信氏に育てられたという華頂殿下は1959年生まれと公表している。こうした矛盾について、殿下は動画で、“博信氏が米国で逝去したというのは偽装で、その後佐世保に住まいを移し、自身を養育した”と語っているのですが……」
にわかに雲行きが怪しくなる、荒唐無稽な説明。さらに、華頂殿下を古くから知る人物は、こう断言するのだ。
「彼が話していることはデタラメです。10年以上前から彼を知っていますが、出身は佐世保であるものの、本名は『華頂』ではなく、『豊田佐一』(仮名)といいます。かつての彼は派遣労働で生計を立てる傍ら、バンド活動に長らく身を投じていた。歴史研究家は自称に過ぎません」
華頂家の関係者を直撃すると...
そこで、「週刊文春」記者は華頂家の家系図を確認。家系図から博信氏の孫として確認できるうちの1人である、華頂尚隆氏(67)を訪ねた。
――「華頂博一」を名乗り華頂宮家の当主の肩書で活動するYouTuberがいる。
「初耳ですが、何か私の家族や親族に実害があるわけではありませんし、接触を受けたわけではないので、私としてはあまり関係ないです」
――動画では、華頂博信氏は米国で亡くなったのではなく、佐世保に移住したと述べているが。
「それは無いですね。祖父は私が中学のときに亡くなって、米国で葬儀してから、原宿の教会でも葬儀が執り行われています。私も参列しているので、(佐世保に移住したという)事実はありません」
――確認だが、「華頂博一」という親族がいるか。
「私は聞いたことがありません」
さらに、日本文化振興会にも詳しい経緯を尋ねると、事務局長が回答した。
「信頼する役員から紹介されたため、彼を信頼して副総裁の肩書や名刺を渡してしまった。一方で、華頂宮との関係を証明できるものを提示してほしいと長らく求めてきたが一向に応じてもらえなかったため、やむを得ず今年春に名刺を返却するよう要請した。伏見総裁と彼に面識はなく、写真は偶然会合で声をかけて撮影したものにすぎないようだ。当会との関係も現在は解消されている」
伏見氏も困惑しているようで、関係者にこう述べているという。
「本当に私の親族なら私に何か連絡があってもいいが、それもない」
「荒唐無稽な話と言わざるを得ない」
宮内庁関係者が語る。
「旧皇族の当主は宮内庁が発行する身分証を貸与されている。もし出自にまつわる呼び出しがあったなら、こうしたものを貸与されている可能性があるが、誰にも客観的な証拠を見せない以上、荒唐無稽な話と言わざるを得ない」
つまり、華頂殿下は全くの偽物である可能性がきわめて高いのだ。“ニセ殿下”は、有償の講演会活動で収益をあげていたうえ、本物の旧皇族の関連団体までダマしたことになる。思い起こされるのは、2003年に世間を賑わせた「有栖川宮詐欺事件」だ。
「2003年には、断絶した『有栖川宮』を名乗って偽の結婚披露宴を挙げた男女が招待客から祝儀などを騙し取ったとして詐欺罪で逮捕され、懲役2年2カ月の実刑判決を受けました。裁判長は『皇室、皇族を敬う参会者の心情に巧みに付け入る悪質な犯行』と結論づけています」(社会部記者)
ニセ殿下はどう弁解するのか。「週刊文春」記者が携帯に電話すると、
「この電話では取材は受けられない」
と語るのみ。11月18日、多くの講演会を主催していた一般社団法人「厩戸ノ華頂」に取材依頼のメールを送付したが、回答はなかった。そして2日後、「華頂宮チャンネル」は全動画を削除して名称を変更し、「厩戸ノ華頂」が12月に予定していた華頂殿下の講演会も「都合により中止」とHP上に記載された。それ以降も記者の連絡には一切返答がなかったが、11月22日、「週刊文春」編集部宛てに本人から電話があり、電話口で一方的にこう語ったのだった。
「私は自分のルーツについてそう思っている、としか言えない」
“華頂殿下”は「パチンコ屋のオーナーが見つけてきた」
雲隠れしてしまった“ニセ殿下”。だが一体、彼はいかにしてYouTubeで11万人もの登録者数を獲得するに至ったのか。別の知人が明かす。
「実は『華頂宮チャンネル』はそもそも、神奈川県のパチンコ店『A』(現在は閉店)の宣伝の一環で始まったものだったんです。パチンコ店の前オーナーがどこからか華頂殿下を見つけてきて、『旧皇族の末裔らしい』と、店に出入りしていた映像編集のできる関係者に紹介したことからスタート。試行錯誤を重ねるうち、『旧皇族』を前面に押し出した内容となり、登録者数も伸びていった。2023年には、登録者数30万人超えの人気都市伝説YouTuber『コヤッキー』らともコラボ。これを機に登録者数が5倍以上に増えました」
この知人によれば、華頂殿下は当初、「A」の店舗の2階に住んでいたが、22年に「A」が閉店。以降は彼の住まいをスタッフたちが探し、家賃も持ち出しで負担していたという。
華頂殿下に近い人物が重い口を開く。
「彼らは、“華頂殿下”はホンモノの華頂家の末裔だと、本気で信じ込んでいるようでした。しかし実際のところは彼らも証拠などは見ていないようです。ただ最近では、彼と関わりを絶つ人が現れ始めていた。昨年末ごろから華頂殿下がYouTubeの収益を『すべて自分の取り分としたい』と言い出したのです。自腹を切って支えてきたスタッフが『本当の華頂宮でも、もう関わりたくない』とさじを投げたと聞きました」
皇室を敬う人々の気持ちを弄んだ“ニセ殿下”は、近しい人からの敬意も失ったのだった。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 電子版オリジナル)
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