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関空でも神戸でもない…“ナゾの関西第3の空港の駅”「伊丹」には何がある?

文春オンライン / 2025年1月6日 6時10分

関空でも神戸でもない…“ナゾの関西第3の空港の駅”「伊丹」には何がある?

関空でも神戸でもない…“ナゾの関西第3の空港の駅”「伊丹」には何がある? ©鼠入昌史

 いつも、大阪の玄関口は新大阪駅である、と繰り返してきた。何しろ、新大阪駅には1時間に12本という、大都市の通勤電車もびっくりの高密度運転で東京から新幹線「のぞみ」がやってくる。大阪を訪れる大部分の人が新大阪駅でまず大阪の地を踏むのだから、玄関口といって間違いはない。

 だが、それも一面的な見方に過ぎない。そう、大阪には、というか関西には他にも玄関口がある。空の玄関口・大阪国際空港、またの名を伊丹空港である。

 手元の時刻表を繰ると、東京・羽田空港と伊丹空港の間にはJALとANAを合わせて1日30往復もの飛行機が飛んでいる。新幹線ほどではないが、立派な大動脈ぶりだ。

 だから、「伊丹」という町の名も、新大阪駅に負けず劣らず全国に轟く。同じく関西の空の玄関口であり、海外から来日する人が主に使う関西国際空港と区別するため、空港での案内表示や予約時の選択肢には「大阪(伊丹)」などと書かれていたりもする。

 そもそも1994年に関空が開港するまでは、伊丹が国際便も受け入れていた。伊丹は、日本全国どころか世界中に名の知れた大阪、関西の玄関口なのである。

 そんな玄関口の伊丹なのだからきっと国際色豊かな町……といっても、伊丹に国際線が飛んでいたのはもう30年以上も前のこと。いまの伊丹とは、いったいどんな町なのだろうか。

“ナゾの関西第3の空港の駅”「伊丹」には何がある?

 そういうわけで、伊丹にやってきたのだが、少しその前に解説をしておかねばならない。伊丹というのは、兵庫県伊丹市のことだ。もちろん大阪国際空港も、滑走路を含めて大部分が伊丹市内にある。

 ただ、さすがの大空港というべきか、空港の敷地は大阪市豊中市や池田市にも跨がっている。つまり、伊丹市において、空港は町外れ。本来の伊丹の中心は、空港のターミナルビルとは滑走路と猪名川を挟んでだいぶ西側に広がっている。

 伊丹の中心部にアクセスする鉄道路線はふたつある。ひとつは、阪急電車だ。阪急神戸線の塚口駅から北に分かれる伊丹線という支線に乗り継いだ終点がその名も伊丹駅だ。もうひとつはJR宝塚線(福知山線)の伊丹駅。阪急伊丹駅の東側、いくぶん猪名川に近い(といってもだいぶ遠い)ところにある。

 関西には、JRと私鉄の駅が同じ名乗りでありながらも乗り換えには適さないくらいに離れていることが少なくない。

 尼崎駅(JRと阪神)もそうだし、伊丹駅もそうした例のひとつだ。それでいて、大阪駅と大阪梅田駅のように、名前は違うのに同じ場所、なんてことがあるからヨソ者にはややこしいのだが、それは別のお話。

阪急を乗り継いで梅田から約20分。ホームはそれほど大きくないようだが…

 ともあれ、伊丹の町にはふたつの鉄道駅、玄関口があるということだ。こういう場合、だいたいは私鉄のほうが中心的な存在になっていることが多い。だから、まずは阪急電車の伊丹駅にやってきた。

 阪急電車を乗り継いで、大阪梅田駅から20分ちょっと。伊丹駅に着いた。

 人口約20万人という伊丹市のターミナルらしく、駅ビルの中にある駅だ。ホームは支線の終点ということもあってかそれほど大きくはないが、「リータ」という名の駅ビルはなかなか立派。

 駅ビルの北側にはバス乗り場を備えた広大なロータリーもある。その傍らにはかつてサティが入っていた、いまは関西スーパーが核の伊丹ショッピングデパートという名の商業ビルも建っている。

 他にもいくつもの商業ビルが駅の周りを取り囲み、陸橋でそれぞれが結びつく。さらに東側にもあるバス乗り場の向こう側には、細い路地の商店街が続いている。人通りもなかなかのもので、20万都市の真髄というべきか。ともかく賑やかな、阪急伊丹駅前の風景であった。

 阪急伊丹駅から広がる繁華街は、主にJR伊丹駅がある東側に向かっている。かといって、反対の西側が閑散としているわけではなく、こちらとて立派な市街地だ。商業ゾーンというよりは、どちらかというと住宅エリアなのだろう。大きなマンションも目に留まる。

 実は、阪急伊丹駅はかつていまよりも少し南側に置かれていた。1968年に高架化されるといまの場所に移転している。もう半世紀以上も前のことだから、地上時代の旧駅の痕跡はすっかり消え失せている。

 ただ、そちら側にも古いアーケードの商店街があったりして、きっとこれは地上駅の時代に駅前商店街として賑わったのだろうと想像させてくれる。

米と水、水運に恵まれた町にできるもの

 阪急伊丹駅東側の商店街を抜けてゆくと、すぐにちょっとした広場に出た。三軒寺前広場というらしい。周囲には神社仏閣が集まり、立派な蔵造りの建物も見える。この広場からさらに東に続く道は、「伊丹酒蔵通り」と名付けられている。

 江戸時代、伊丹の町は摂関家のひとつ・近衛家の領地で、現在の伊丹市街地に通じる伊丹郷町は年貢米の集積地という一面もあった。さらにすぐ東側には猪名川が流れる。

 つまり、酒の原料となる米が集まり、水も確保でき、できた酒を運ぶ水運の便にも恵まれていた。こういう事情もあって、古く伊丹では酒造業が栄えたという。近代以降も、伊丹は酒造りの町。そうした雰囲気を残す町が、伊丹酒蔵通りというわけだ。

 伊丹酒蔵通りをさらに東に抜けてゆくと、マンションの間を通った先にJR伊丹駅が見えてくる。

 駅ビルを従え、広々としたロータリーも備えた阪急の伊丹駅と比べれば、JR伊丹駅はだいぶ規模が小さく感じられる。駅ビルなどはもちろんないし、それどころか駅前広場すら乏しい。

阪急側にはない「尼崎みたいな風景」とお城の跡

 ただ、阪急伊丹駅にはないものもある。ひとつは、駅から陸橋で直結しているイオンモール。もともとは猪名川沿いの東洋ゴムの工場で、その跡地を再開発して2002年にオープンした施設だ。

 このあたり、かつては港湾部の尼崎から続く工業地帯という側面も持っていた。いまでも猪名川沿いにはそうした工場がいくつか残っている。

 もうひとつは、JR伊丹駅から線路と並行する道を隔てて西側にある、城跡だ。

 城跡といっても、天守閣のような建物があるわけではなく、残っているのは石垣だけだ。それでも、石垣の下には「史跡 有岡城跡」と刻まれた石碑が立っていて、ちょっとした駅前広場も兼ねた史跡公園になっている。JR伊丹駅を降りた伊丹の人々は、この有岡城跡を横切って市街地に向かうことになる。

 有岡城は、中世にこの地を治めた伊丹氏によって伊丹城として築かれたのがはじまりだ。のちに伊丹氏は織田信長家臣の荒木村重によって滅ぼされ、伊丹城は村重によって改修、有岡城と名を改めた。

 ただ、村重はのちに謀反を起こし、怒った信長の大軍に包囲されて有岡城は落城。その後も信長家臣が入ったこともあったが、ほどなく廃城となって歴史からは姿を消している。

 ちなみに、村重謀反の折に説得に訪れたのが黒田官兵衛だ。官兵衛は説得に失敗し、城内に幽閉されてしまう。官兵衛はわずかな明かり取りから藤の花が咲くのを見て生きる勇気を得たというエピソードが残る。それにちなみ、官兵衛の当時の拠点だった姫路城の藤から育てた藤の花が、城跡に植えられている。

約30年遅れてできた「もうひとつの伊丹駅」が町を変えていく

 と、そんな時空を超えた旅をして、JR伊丹駅である。ふたつの伊丹駅のうち、先にできたのはJR伊丹駅。1893年に摂津鉄道の駅として開業した。阪急伊丹駅はそれよりだいぶ遅れて1920年の開業だ。ただし、現在のようなベッドタウンとしての伊丹に発展する契機となったのは遅れて登場した阪急伊丹駅の存在であった。

 阪急伊丹駅を中心に、旧来からの市街地が拡大するように町が成長してゆく。1958年に大阪国際空港が大阪空港として開港したことも一助として、1960年代以降は急速にベッドタウン化が進んでいった。

 1995年には、阪神・淡路大震災で阪急伊丹駅が倒壊、周辺の商業施設なども含めて町全体が大きな被害を受けている。現在の阪急伊丹駅は、1998年に再建されたものだ。

 ともあれ、伊丹の町は、古くからの酒造りの町にはじまり、阪急電車の登場によってベッドタウン化がスタート。そこに“空港の町”としての一面が加わって、現在の20万都市が完成したのである。

 そういうわけで、「伊丹」といいながらもふたつの伊丹駅を中心とする市街地と、伊丹空港はまったくといっていいほど別の場所にある。ふたつの伊丹駅前からも空港に向かうバスが出ていることは出ている。

 とはいえ、伊丹の市街地を歩いていて、ここが空港の町だということを意識させられることはほとんどない。せいぜい、JR伊丹駅からイオンモールに向かう陸橋の上から、イオンのさらに東側に離着陸する飛行機が小さく見えるくらいだ。

 ちょうど伊丹空港は南北に滑走路があるから、その西側の伊丹市街地の上空を飛行機が飛ぶことはない。そうした事情も、伊丹の町の“空港感のなさ”につながっているのだろうか。

 それにしても、伊丹空港に行こうと思ったら間違えて伊丹駅にやってきて、あれれ飛行機がいないぞ、と途方に暮れた、などという人の話は聞いたことがない。

 青梅と青海を間違えるくらいで話題になるのだから、伊丹空港と伊丹駅を間違えたらさぞかしバズりそうなものを。ということは、ひと昔前はともかく、いまどきそんな間違いを犯す人はいない、ということなのでしょうか……。

(鼠入 昌史)

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