Number_iでも、BE:FIRSTでもなく…日本のボーイズグループが変わるきっかけを作ったトップランナーグループと、3年前の「意味深」な歌詞
文春オンライン / 2024年12月31日 17時0分
Da-iCEの5人(Da-iCE公式Instagramより)
2024年のNHK紅白歌合戦に初出場するアーティストは10組。そのうちの1つが、男性ダンス&ボーカルグループのDa-iCEである。
「スキルがものをいう時代」に躍進したDa-iCE
2011年に結成され、2014年にメジャーデビューを果たしたDa-iCEは、工藤大輝、花村想太、岩岡徹、大野雄大、和田颯の5人組。メジャーデビューから10周年という節目の年にこの大舞台への切符を手にしたのは、これまで積み重ねてきた彼らの実力の証と言えるだろう。
この編成にしては珍しくメンバーの工藤自らが作詞作曲にかかわり、さらに5人それぞれがダンスやボーカルに関する卓越したスキルを持っているDa-iCEの存在は、ダンス&ボーカルのシーンを追っているファンの間では長年注目されてきた。その名がより広く知られるようになったのは、2020年代に入ってからのことだ。
まず、2020年11月にリリースされた「CITRUS」が2021年の日本レコード大賞を受賞し、高い歌唱力が一躍評判を呼ぶ。その後もダンサブルなパフォーマンスとハイトーンのボーカルが炸裂する「スターマイン」がバイラルヒットを記録し、2024年にはドラマ主題歌としてリリースした「I wonder」が大きな話題に。この楽曲の振り付けがソーシャルメディア上でバズを巻き起こすとともに、歌番組への出演ではステージ上で静止する緩急を盛り込んだ演出も注目された。これらのトピックが、Da-iCEをボーイズグループのトップランナーへと押し上げたのである。
彼らの人気を支えているのは、磨き抜かれたダンススキルにほかならない。ボーイズグループの共演が一般的になってきた昨今においても、Da-iCEの存在感は群を抜いている。2024年7月に放送された音楽番組「音楽の日」(TBS)では、複数のグループが順々にカバーダンスを披露する企画において、コミカルさとハイレベルな技術が融合したYOASOBI「怪物」のパフォーマンスを披露してその高い表現力を誇示した。
また、12月に放送された「それSnow Manにやらせて下さい」(TBS)の年末特番では、花村がSnow Manの面々やGENERATIONSの小森隼、Travis Japanの松倉海斗らと共演し、随所でスタジオの感嘆を呼ぶダンスを見せていた。
2020年代におけるダンス&ボーカルのシーンは、スキルの価値が見直される局面に突入している。K-POPの隆盛や、かつての主流だった48グループや坂道グループ、さらには旧ジャニーズ事務所の影響力が相対的に低下したことで、真に歌い踊れるグループが支持を集める流れが生まれた。この潮流を作ることに一役買い、かつさらにそれを加速させているのがDa-iCEである。彼らはそのスキルとパフォーマンスで、時代が求める新たなアイコンとしての地位を確立していると言えるだろう。
紅白の出演者から見るボーイズグループの栄枯盛衰
Da-iCEがレコード大賞を受賞する直前の2021年8月9日、彼らは「Kartell」(※1)という楽曲をリリースしている。ハードなギターサウンドで始まるこの曲で歌われているのは、「嘘くさい常識」「くだらない暗黙の了解」「忖度と不感症」(いずれも工藤の作詞による同曲の歌詞)。
この歌詞についてグループ側からの具体的な説明はなされていないが、実力派の男性ダンス&ボーカルグループがこんなことを歌うのはなんとも意味深である。なお、Kartell=カルテルとは市場における競争を阻害する不当な取引制限のことを指す。
この曲の発表から1週間後となる2021年8月16日には、今年紅白に3度目の出場を果たすダンス&ボーカルグループであるBE:FIRSTのプレデビュー曲「Shining One」が発表されている。BE:FIRSTを生み出したオーディション「THE FIRST」には工藤もゲストとして登場していた。
この「THE FIRST」は、日本の音楽業界への問題意識を抱えていたラッパーのSKY-HIが「才能を殺さないために。」をスローガンに起業した会社BMSGによる企画である。つまり、今のダンス&ボーカルのシーンにおいて大きな影響力を持っている存在が、3年前の夏に期せずして日本の音楽業界に対する異議申し立てをともに行っていたと言える。
この3年間、つまりDa-iCEのレコ大受賞年である2021年から紅白初出場を決めた2024年の間に、男性ダンス&ボーカルグループを取り巻く環境は大きく変わった。この変化は、紅白に出場するアーティストの顔ぶれに表れている。以下に名前を挙げたのが、各年の紅白に出場した歌って踊るタイプの男性グループである(グループ名の後ろの(初)はその年が初出演となったグループ)。
2021年→GENERATIONS、SixTONES、KAT-TUN(初)、King & Prince、Snow Man(初※)、関ジャニ∞
2022年→SixTONES、なにわ男子(初)、JO1(初)、BE:FIRST(初)、Snow Man、King & Prince、関ジャニ∞、KinKi Kids
2023年→JO1、Stray Kids(初)、BE:FIRST、SEVENTEEN(初)
2024年→JO1、Da-iCE(初)、TOMORROW X TOGETHER(初)、Number_i(初)、BE:FIRST
2021年のGENERATIONSを最後にLDH所属のグループが姿を消し、2021年の5組および2022年の6組と大きな影響力を誇っていた旧ジャニーズ事務所のグループは性加害問題に端を発して2023年から0組となった。代わりに台頭してきたのが、Stray KidsらのKポップのグループ、日韓合同のオーディション企画によって生まれたJO1、TOBE所属のNumber_i、そして前述のDa-iCEやBE:FIRSTである。
2010年代にシーンの中心にいた存在が新たな勢力に入れ替わっていったのが、2020年代前半から半ばにかけての出来事だった。そしてその動きは、前述したスキルの高さを見直す流れともリンクしている。様々なことが起こっている令和の音楽業界の中でも、男性ダンス&ボーカルに関する状況の変化は、特にインパクトの大きなものだった。
さらなる自由競争と向き合う
もっとも、大きな流れの中で後退を余儀なくされている勢力も今のシーンの動きに適応できていないわけではない。
旧ジャニーズ事務所を出自に持つグループにおいてもSnow ManやKing & Prince、Travis Japanなどは他のグループにひけをとらないダンススキルを見せており、LDHからもスキルの高さを披露する新たなグループが安定的に登場している。
Da-iCEが一つのきっかけを作ったボーイズグループに関する新たな流れは、ここからさらに加速していくだろう。この後繰り広げられるのは、所属事務所やこれまでの影響力にとらわれない形でのさらなる自由競争である。今後どんなグループがどのように存在感を発揮するのか、そして迎え撃つ側はどんな矜持を見せつけるのか。今年の紅白を経て、2025年の動向が楽しみである。
◆◆◆
※1 「Kartell」(作詞:工藤大輝、作曲:工藤大輝・島田惇)
※2 Snow Manはデビューの翌年、2020年に初出場が決定していたが、メンバーが新型コロナウイルスに感染し、全員が濃厚接触者に該当したことから出場を辞退したため、2021年が初出場となる。
(レジー)
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