「タトゥー問題」説も囁かれたが…「アイドル」で沸かせたYOASOBIが、今年の紅白に出ない“納得の理由”
文春オンライン / 2024年12月30日 17時0分
YOASOBIのAyase(左)とikura。一部では紅白不出場について「NHKがAyaseのタトゥーを問題視したからではないか」と囁かれたが…… ©時事通信社
昨年大晦日の『NHK 紅白歌合戦』は、YOASOBIのステージが番組最大のハイライトだった。ふたりは、Stray KidsやNewJeans、乃木坂46など日韓アイドルたちに囲まれて華々しく「アイドル」を披露した。
しかし、今年の『紅白』ラインナップにYOASOBIの名前はない。
その理由はシンプルで、今年発表した4曲――「舞台に立って」、「UNDEAD」、「モノトーン」、「New me」がいずれも大きなヒットに結びついていないからだと考えられる。
もちろん、それでもYOASOBIの人気は高い。今年のBillboardチャートの年間Artist100では3位にランクインしている。これは、昨年までに発表した楽曲が今年も聴かれたからだ。楽曲チャートの年間Hot100にも6曲がランクインしている。4位「アイドル」、14位に「勇者」、50位に「夜に駆ける」――といった具合に。
YOASOBIの人気はけっして衰退はしていない。むしろ、J-POPのグローバル化を象徴する存在として着実に歩みを進めている。
デビュー曲「夜に駆ける」でいきなり注目を集める
振り返れば、YOASOBIは2019年11月に発表したデビュー曲「夜に駆ける」がいきなりの大ヒットとなった。小説を楽曲化するプロジェクトとして誕生したこのユニットは、『タナトスの誘惑』という原作をもとに創った「夜に駆ける」で、YouTubeやストリーミングサービス、TikTokなどでバイラルなヒットを続けた。企画(タイアップ)によるものではあったが、楽曲の力で自然とヒットにつながっていった。
当時、「夜に駆ける」の人気がバイラルに拡大したことはチャート推移からもわかる。BillboardチャートHot100にはじめて登場したのは、発表から4か月経った2020年3月18日付。そこから右肩上がりにチャートを駆け上がり、同年5月27日付で初の1位を獲得する。そして、年間チャートでも1位となった。
パンデミックによる音楽業界の変化
時期的には、新型コロナウイルスのパンデミックによって社会が停滞を続けるなかだった。それはけっして偶然とも言い切れない。周知のとおりそのウイルスは、音楽ライブやテレビ番組の制作などを難航させた。とくに大きなダメージを受けたのは握手会などに力を入れていたAKB48などの女性アイドル勢で、対面コミュニケーションを中核に据えていた女性アイドルのビジネスモデルは、この環境変化によって破綻を迎える。
しかしいま思えば、巣ごもりを余儀なくされていた我々にとって、この時期は音楽(楽曲)と素直に向き合える環境にあった。つまり、楽曲そのものの価値が再評価される契機となった。そこでしっかりと見出されたのがYOASOBIだった。
日本アニメへの評価とともに高まったYOASOBI人気
「夜に駆ける」の大ヒットを経て、YOASOBIはその後もコンスタントにヒットを重ねていく。その次の大ヒットは、はじめて『紅白歌合戦』に出演した直後の2021年1月に発表された「怪物」だった。
この曲はアニメ『BEASTARS』シーズン2の主題歌として発表された。映画とのタイアップは前年にも存在したが、アニメはこのときがはじめてだ。ここからYOASOBIとアニメの強い関係が進展していく。翌2022年の大ヒット作「祝福」は、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』シーズン1の主題歌だった。
そして、この流れがさらに加速するのが2023年だ。この年、『【推しの子】』の主題歌「アイドル」と『葬送のフリーレン』の主題歌「勇者」を発表し、ともに大ヒットを記録する。
「アイドル」が世界的に大ヒット
とくに「アイドル」は海外でも大きなヒットとなった。Billboard Global 200(全世界の楽曲チャート)では最高7位にまで到達し、年間でも42位に入った。YouTubeの再生回数は約6億に達している。動画配信サービスによって日本のアニメがグローバルに評価を高め、それにともなってYOASOBIも浸透し、人気が高まっていった。
以上を踏まえれば、YOASOBIのこれまでのキャリア展開もクリアになるだろう。デビュー曲「夜に駆ける」で獲得したバイラルな人気を、YOASOBIは「アイドル」などアニメタイアップで拡大させていった。
それは数字にも表れている。発表曲のYouTubeのMVとSpotifyの再生回数を比較すれば、「怪物」「アイドル」「勇者」だけYouTubeのほうが上回っている。「祝福」も他曲と比べれば再生回数が拮抗している。これらはアニメの人気がMV再生数に結びついたことを意味すると見ていい。
もちろん、アニメの主題歌だからといって必ずしもヒットに結びつくとは限らない。『〈物語〉シリーズ:オフ&モンスターシーズン』の主題歌として、 今年9月に発表された「UNDEAD」は、 動画の配信先が限定されていたことなどもあり、大きなヒットにつながっていない。こうした近年のヒットの仕方は、バイラルヒットだった初期の「夜に駆ける」などからは変化した。タイアップするアニメの人気が反映される傾向があるからだ。
そうした状況は、「アニメ頼り」と認識されるかもしれないが、YOASOBI自体がタイアップありきで生まれたことを考えれば、現在の活動はけっして否定されるべきではないだろう。フィクション作品の世界観をみずからに落とし込んで音楽として具現化していくことが、このユニットのそもそものコンセプトだからだ。むしろ、そこでしっかりと結果を出していることは、その成り立ちを考えれば称賛に値する。
そして現在は、かねてから日本のコンテンツ産業において一般化していたタイアップやメディアミックスが、アニメを中心にグローバルに展開している状況だ。それは、コンテンツ単体だけでなく、メディアミックスの方法論そのもののグローバル展開と捉えられる。その状況において、YOASOBIはみずからの実践を通して中心的な存在になったと言える。
積極的に海外ツアーを行っていた
当人たちも、意識的かつ積極的に海外展開をしている。2023年末から2024年1月にかけてはアジアツアーを、そして4月と8月にはアメリカの西海岸と東海岸でそれぞれ2公演をおこなった。4月には世界最大の音楽フェスティバル・コーチェラでも単独ステージを披露。現在(2024年末)も2025年2月にかけてふたたびアジアツアーを展開している。
そうした活動は、アニメを起点とした人気を、現地でのライブを通じてエンゲージメント強化へと発展させる戦略的展開として受け止められる。つまりアニメファンを中心とするのでなく、アーティストとしての人気をさらに拡大させる方向に力を注いでいるように見える。
その点で、まさに現在は勝負の時期と言える。
「アイドル」のテレビ初歌唱がなぜ韓国だったのか?
こうした一連の活動のなかで、ひとつ気になることがある。それは昨年の「アイドル」をめぐることだ。
2023年4月に発表され、すぐに大ヒットしたこの曲は、日本の地上波テレビでなかなか披露されなかった。はじめてかつ唯一のパフォーマンスが、昨年大晦日の『紅白歌合戦』だ。だが、それは決して“テレビ”初披露でもなかった。その3か月前の9月21日に、韓国の音楽チャンネル・Mnetの『M COUNTDOWN』に出演しているからだ。
もちろん、YOASOBIはもともと積極的に国内の音楽番組に出演するタイプでもないし、出演にはスケジュール等のタイミングもある。ただ、「夜に駆ける」と並ぶ大ヒット作をわざわざ韓国にわたって先に披露したことは象徴的な意味を帯びている。
日韓の音楽番組の“違い”
日本の音楽番組の多くは、狭くて代わり映えのしないスタジオでパフォーマンスを披露せねばならず、かつ国内の放送とTVerで1週間程度しか公開されない。
対して『M COUNTDOWN』に出演すれば、そのパフォーマンスは即座にYouTubeで全世界に公開される。さらに、メンバーのikuraとAyaseのみをそれぞれ追ったFanCam(「チッケム」とも呼ばれる)、そしてステージ全体を定点で撮ったものと、4種類の動画が公開されている。これは韓国の音楽番組ではずいぶん前から当然のようにおこなわれている方法論だ。
CJエンタテインメント傘下のMnetは、放送局と言ってもケーブルテレビのチャンネルのひとつであり、どちらかと言えば製作会社に近い。年末には音楽イベント「MAMA AWARDS」を日本などで開催し、年々盛り上がりを高めている。
そしてそうした番組やイベントで創られた音楽コンテンツは、YouTubeでほとんどが配信される。これはコンテンツの二次使用など知的財産の運用を重視しているからであり、同時にYouTubeでそれなりの売上が見込めるからでもある。
実際に、『M COUNTDOWN』などが配信されるMnet K-POPのYouTubeチャンネルの登録者数は約2150万人にもなる。再生回数が1000万以上の動画も多い。「アイドル」のパフォーマンス動画も、4種類すべてを足すと約1100万回再生に達する。このチャンネル自体が、強い伝播力を持つメディアだ。
音楽コンテンツの伝播力を考えたときに、YOASOBIが日本の地上波テレビではなく、このグローバルに向けた韓国の音楽番組を選択したのは実に合理的な判断だった。つい先日も韓国SBSの音楽番組「THE SHOW」に出演して、「アイドル」と新曲「New me」を披露したばかりであることは、それを裏付ける事実だろう。
“紅白出演ナシ”は大きな問題ではない
そうした状況からは、グローバルな活躍を志向し、それを一線で実践するアーティストと、現在の日本のメディアシステムとの温度差を強く感じる。今回の『紅白歌合戦』の出演見送りも、YOASOBIにとっては大きな問題ではないのだろう。
[テレビ-CD]時代の方法論ではなく、[YouTube・動画配信-ストリーミング]時代にそれらのメディアにいち早く乗り、人気をグローバルに拡大させていったのがYOASOBIだ。『紅白歌合戦』に求められるのは、そうしたメディアの変容のなかでどのような構成にしていくかだろう。
そしてYOASOBIにとって来年(2025年)に注目されるのは、アニメタイアップによって得たグローバル人気を、しっかりと自身の人気に変換し、そして定着させていくことだ。そのとき必要なのは、デビュー曲「夜に駆ける」のような楽曲の力によるバイラルなヒットをグローバルでも生み出すことにあるだろう。
本人たちの意欲=強い海外志向は十分にある。あとはさらなる結果を出せるかどうかだ。
(松谷 創一郎)
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