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知らぬ間に12回苗字が変わっていたホームレスも! “地面師”に戸籍を悪用された男性が語る「17億円詐欺」の一部始終「若ければ1人の戸籍で3000万円は…」

文春オンライン / 2025年1月11日 7時0分

知らぬ間に12回苗字が変わっていたホームレスも! “地面師”に戸籍を悪用された男性が語る「17億円詐欺」の一部始終「若ければ1人の戸籍で3000万円は…」

写真はイメージです ©AFLO

〈 “地面師たち”が本当に起こした「住宅ローン50億円事件」の狡猾すぎる手口とは「ホームレスの戸籍を買って成りすまし…」 〉から続く

 2005年秋、住宅ローン詐欺が大きな関心の的になっていた。

 10月11日の『スーパーモーニング あれこれニュースショー』(テレビ朝日)も特集を組み、銀行が巨額の金を騙し取られ、戸籍を悪用されたホームレスが多額の借金を背負う事件を特集していた。

 ホームレスの替え玉にマンションを買わせ、銀行でローンを組ませる手口を番組の中で解説していたのが、“すべてを知る人物”として紹介されたX氏だ。

 X氏自身も、自身の戸籍を住宅ローン詐欺に使われたことがある。

 X氏が巻き込まれたのは、総額17億円にのぼる住宅ローン詐欺事件。首謀者は顔見知りの不動産会社の経営者だったが、X氏は「手口は実に巧妙だった」という。

 ホームレスの戸籍を利用して養子縁組を行い、苗字を変えて架空の人物を作り出し、その人物の成りすましを用意する。あとは成りすましが銀行で住宅ローンを組み、金をだまし取る。

「免許証やパスポートはあるか」「保険証を持っているか」

 驚くべきは、ホームレスを首謀者に紹介していたというのが「社会福祉センターの人や支援ボランティアなど」だったことだ。困っている人をサポートするはずの立場の人間が、小遣い稼ぎのためにホームレスを詐欺師に紹介していたことになる。

「ホームレスが見つかったらワンカップの酒でもやって、『住所と名前を紙に書いて下さい』と紙とペンを渡すんだ。『住所はない』と言われたら住民票のあった場所を聞けばいい。

 後でその住所の役所に行き、住民票を取得して勝手に養子縁組し、関係者の息子や娘にする。そうすればその人の苗字が変わる」(X氏)

『スーパーモーニング』でも、知らない間に12回苗字が変わっていたホームレスが登場していた。

 他には「免許証やパスポートはあるか」「保険証を持っているか」などを質問。「更新してない」「持っていない」という答えが返ってくれば、詐欺師らの思うつぼだ。ある程度ホームレス生活が長い者であれば、親族が探していたり住民票を確認する可能性は低い。

「あとは成りすましになる身代わりを見つけて、パスポートを作らせる。数日で成りすましの顔写真がついたパスポートが出来上がりだ」

 次に詐欺師たちは、用意しておいたダミー会社やペーパーカンパニーの社長に成りすましをつけ、銀行から金を借りられる“きれいな人”に仕立て上げる。わざわざ社長にするのは「会社員にするより、会社を作って社長にした方が金は動かせる」ためだという。

「数カ月間その会社と架空の会社で金のやり取りをして、成りすましに給料が振り込まれているように見せかける。実際はいくつかのダミー会社の間で金を移動しているだけだから金は減らないが、銀行は『週に数百万円が何回も入ってくるちゃんとした会社』と信用する。そうすれば、成りすまし社長が住宅ローンの申請をしても疑うことなくローンが組める」

 しかし一般的に住宅ローンは、銀行が売主に一括で不動産代金を払い、成りすまし社長がローンを背負うことになる。銀行からの担保がついた物件のためそのままでは売買もできない。詐欺師はどこから金を生み出すのだろうか。

「リフォーム費用などを上乗せして6000万円のオーバーローンを組むんだ」

 X氏はそれに対して「オーバーローンを組むんだ」と語気を強めた。

「5000万円の物件を購入するのに、リフォーム費用などを上乗せして6000万円のオーバーローンを銀行で組む。リフォーム費用はこちらで用意した会社が見積書を出す。5000万円は売主に振り込まれるが、リフォーム代金は見積を出した会社に入金される。上乗せした1000万円はここで抜ける」

 詐欺師たちはここまでに、ホームレスの紹介料やペーパーカンパニーを作る登記費用などを“先行投資”し、さらに成りすましを用意した養子縁組するなどの手間もかけている。その費用を、オーバーローンでまず回収する。

 その後は不動産を所有しているという信用を使って消費者金融から金を借り、車をローンで購入する。

「会社があるので個人用と社用と2台購入可能だ。トヨタの新車を購入するなら、トヨタファイナンスのローンは使わない。トヨタで車をローンで買うと、ローンの完済まで所有権がトヨタファイナンスになるため転売できない」

 自動車をディーラーローンで購入すると、代金の立て替え払いで購入する契約になるため、ローンが完済されるまで車の所有者はローン会社か販売店のままで、返済が完了してはじめて購入した人物の所有になる。しかし銀行のマイカーローンでは自動車は担保として扱われず、購入したらすぐに所有権が手に入るのだ。

「必要書類をすべて揃えて銀行に行き、車の購入もローンを申請する。不動産を購入した信用があるため銀行はローンを組んでくれる。銀行は所有権をつけないから、新車が納車されたその日にそのまま、金融屋に転売できる」(X氏)

 この時点で、詐欺師たちの手元にはオーバーローンで借りた金、消費者金融で借りた金、車を転売した金が入っている。さらに、彼らは住宅ローン付きの物件を人に売るという。

「半年ぐらい返済したら、住宅ローン付きの物件はブラックリストの人間に売ってしまうんだ。抵当権つきで100万円とか、安い値段でいい」(X氏)

 ローンの返済がストップした場合、普通であれば銀行が物件を差し押さえて競売になる。しかし詐欺師らは先回りしてローン付きの物件さえ現金に変えてしまうのだ。

ブラックリストに載ってローンが組めない人間に家を売るメリット

 これは、買う側の人間にとってもメリットがあるという。

 返済遅滞や自己破産などでブラックリストに載った人間や反社会的勢力の人間は、家を買おうと思ってもローンを組むことができない。しかしローン付きの物件を詐欺師から買えば家を持てるのだ。

「ブラックリストの人間に家を売ったら、成りすましが作った通帳とキャッシュカードと印鑑も同時に渡す。その通帳で毎月銀行にローンの返済分を払っていれば、その家に住んでいられる。銀行は住んでいる人が誰でも、ローンさえ払ってくれればいいからだ」

 そうして詐欺師グループからローン付きの不動産を買い、今でも住んでいる人が複数いるという。さらに「ローンを支払って住んでいる人間にとっては、20年経てば名義は自分の物になる」(X氏)という。

 これは民法の「取得時効」という仕組みである。ある物件が他人のものだと最初から知っていても、20年間住み続ければ自分のものにできる。

「返済が終われば抵当権も抹消されて自分のものになるし、もし返済を飛ばしたって、自分がブラックになることはない。ローンの名義は成りすましのホームレスだからだ」(X氏)

 購入した人間にとっては、金が払えなくなっても、そこを追われるだけ。物件は競売にかけられ、銀行がその金を回収する。

 消費者金融から借りた金も、もちろん全額は返さない。

「2~3カ月は返済するが、その後は払わない。しかし金を借りたのはホームレスの戸籍を使って作り上げた“実在しない人物”だから探しようがない」(X氏)

 物件所有者がいるはずの家に消費者金融の社員が訪ねても、すでに違う人が住んでいる。

「『○○さんは?』と尋ねられても『○○さんから買ったけど、どこにいるかわからない。自分も決済したのに、抵当権をはずしてもらえない。自分も被害者だ』と言えばいい」

 実在しない人物に金を貸してしまった消費者金融は泣き寝入りするしかない。

1人の戸籍で「若ければ1人3000万円」をだまし取る

 オーバーローンに消費者金融、車のローン、ホームレスの1人の戸籍でいくらだまし取れるのか。X氏の答えは「若ければ1人3000万円。40代ぐらいで2000万円、50代だと500万~1000万円」。それが数十人となれば、17億円という被害総額も現実的だ。

 ホームレス自身は一連の詐欺に関与しておらず、戸籍を悪用されたことに気付くのは、社会復帰や体調不良などで施設に入所する場合が多いという。

「そうすると住民票が施設に移されるが、本人が本籍だと思っていたところにすでに戸籍はなく、しかも『鈴木から木村になってますよ』とか『もう4回も名前が変わってる』なんてことになる」

 不幸中の幸いは、彼らにローンを返済する義務はないことだろうか。

「もともとはホームレスの戸籍でも、ローンを組んだ人物は苗字の違う成りすましだから別人ということになる。だから銀行もホームレスにローンを請求することはできない」

 住宅ローン詐欺は、今でも形を変えて数多く起きている。X氏のスマホにはそういう話がひっきりなしに入ってきている。

(嶋岡 照)

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