〈死亡〉「私は死刑は覚悟してる。やっぱり…」11人の死亡で数億円の遺産、筧千佐子死刑囚(78)が獄中で明かした言葉
文春オンライン / 2024年12月27日 16時0分
筧千佐子死刑囚 ©共同通信社
夫や交際相手11人の死亡で数億円の遺産を手にし、その後、殺人と強盗殺人未遂の罪に問われ、死刑が確定した筧千佐子。
事件後、獄中で23度もの面会を重ね、取材を続けてきた『 全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体 』(幻冬舎アウトロー文庫)の著者である小野一光氏が、死亡した筧死刑囚の素顔を明かす。(全2回の1回目/ 続き を読む)
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「後妻業の女」筧千佐子、獄中で死亡
12月26日、大阪拘置所に収容されている筧千佐子死刑囚(78)が、その日の午前中に死亡したことが明らかになった。
2007年から13年にかけて、京都府と大阪府、それに兵庫県の計4人の高齢男性に対する、3件の殺人と1件の強盗殺人未遂の罪に問われていた彼女は、1審と2審で死刑判決を下され、いまから3年半前の21年6月に、最高裁が彼女の上告を棄却。同年7月に死刑が確定した。
なお22年9月、彼女は内縁関係にあった兵庫県の男性が被害者となった事件について、京都地裁に再審請求をしたが、今年3月に棄却されている。そのため即時抗告をした大阪高裁で、審理が続けられている最中だった。
私が千佐子と最後に会ったのは、死刑が確定することで、実質的に一般面会ができなくなる少し前の21年7月5日、大阪拘置所に於いてである。詳しくは後述するが、その際の彼女に死の翳は感じられなかった。どちらかといえば、生への執着を強く感じていた。
夫や交際相手の男性に対し、青酸入りカプセルを飲ませて殺害した千佐子の事件は、「近畿連続青酸死事件」という呼び方をされる。しかし、作家の黒川博行氏の小説『後妻業』(文藝春秋)のなかで、年配の女が資産家の高齢男性と結婚、死別を繰り返して多額の遺産を奪う物語が、彼女の事件を彷彿とさせることから、「『後妻業』の女による事件」として、認知されているのではないだろうか。
いくつもの府県をまたぐ連続殺人事件
13年12月に死亡した70代の夫であるIさんへの殺人容疑で、当時67歳の千佐子が逮捕されたのは、14年11月のこと。「(千佐子による)連続殺人の疑惑が濃厚で、京都府警による内偵捜査が行われている」との情報が入ったことで、私が取材に動いたのは、それよりも約8カ月前の同年3月上旬だ。
Iさんの死因が青酸によるものであること、それ以前にも千佐子の周辺で不審死が相次いでいることは、この時点ですでに知っており、一部ではあるが被害者であるとされる男性についての情報も得ていた。
とはいえ、それらの該当者が近畿エリアのいくつもの府県をまたいでいること、他府県警が事故死や病死として扱ってきたという、「誤検視」が露呈してしまう可能性などが障壁となり、その他の案件については、立件が難しいのではないかとの見方もあった。
だが、警察庁が音頭を取ったことで、14年3月頃から他府県警も協力するようになり、結果として千佐子は、8人に対する殺人や強盗殺人未遂容疑で逮捕が続き、そのうち4件について起訴された。
なお、私にわかった限りの情報ではあるが、1994年9月に大阪府で死亡した最初の夫を含め、逮捕されるまでの間に、夫や交際相手など、彼女と近しい間柄の男性11人の死亡が確認されている。
法廷で繰り返された「私は老人性痴呆症」
「私は老人性痴呆症で……。1週間前のことも思い出せないです」
2017年7月に京都地裁で開かれた第8回公判での被告人質問において、千佐子は検察官による問いかけに対し、上記の答えを返している。このときに限らず、法廷で彼女はしきりと、加齢による記憶力の低下を訴えていた。だがそうした発言は、彼女にとって便利な「方便」であったようだ。
私は京都地裁で彼女に死刑判決が出て2日後の、17年11月9日から18年3月6日にかけて、収容されていた京都拘置所で、22回にわたって彼女と面会を繰り返した(その後、3年4カ月の間を空けて、収容先の大阪拘置所で23回目の面会をする)。
そのなかで、「長谷川式認知症スケール」という、医療機関でも活用されている、認知症のチェックシートを、彼女にやってもらっていたのだ。その結果を知人の精神科医に見てもらったところ、同医師は言う。
「これは認知症とはいえないレベルですね。まだ全然大丈夫な人ですよ」
そこで私が、千佐子が「憶えてない」という言葉を多用していることを伝えると、同医師は続けた。
「『憶えてない』がいちばん強いんですよ。それで話が終わるので、突っ込みようがないでしょ。私自身もそういう人を診察しますけど、こっちにとっていちばん難しい、やる方にとっていちばん簡単という手段で、いちばん厄介なんです」
「そら生きられるなら、生きていたいと思うわ」
ちなみに千佐子との面会時に、彼女は京都地裁で死刑判決を受けた自分への、刑の執行がいつになる予定なのかを私に尋ねている。そこで私が、いまはたとえ最高裁で刑が確定しても、すぐに執行されないことを伝えたところ、彼女は聞いてくる。
「私いま70でしょう。75まで生きられるんかなあ?」
それは生きてるでしょう、と、希望を持たせる言葉を返した私に対し、千佐子は「私は死刑は覚悟してるから。いつ執行されても仕方ないと思ってる」と言い切ったが、すぐに考えを改めたようだ。「やっぱり私も人間やからね」と前置きして、「そら生きられるなら、生きていたいと思うわ」と続けるのだった。
また、自分の身体については次のように話していた。
「ほんでな、目もいいし、胃も丈夫なんやけど、肺だけが悪いんや。子供のときから肺炎を起こしたりしてて、よう熱を出してたの。ただな、拘置所で生活するようになったやろ。そうしたらここは社会とは遮断されとるから風邪の菌がないねん。だから、いっぺんも風邪ひかんようになったわ」
〈 死刑囚からの手紙に「どこでくらしても、女ですもの」と…夫や交際相手11人の死亡で逮捕された筧死刑囚(78)との最後の面会 〉へ続く
(小野 一光)
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