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死刑囚からの手紙に「どこでくらしても、女ですもの」と…夫や交際相手11人の死亡で逮捕された筧死刑囚(78)との最後の面会

文春オンライン / 2024年12月27日 16時0分

死刑囚からの手紙に「どこでくらしても、女ですもの」と…夫や交際相手11人の死亡で逮捕された筧死刑囚(78)との最後の面会

筧千佐子が書いた手紙 ©小野一光

〈 〈死亡〉「私は死刑は覚悟してる。やっぱり…」11人の死亡で数億円の遺産、筧千佐子死刑囚(78)が獄中で明かした言葉 〉から続く

 夫や交際相手11人の死亡で数億円の遺産を手にし、その後、殺人と強盗殺人未遂の罪に問われ、死刑が確定した筧千佐子。

 事件後、獄中で23度もの面会を重ね、取材を続けてきた『 全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体 』(幻冬舎アウトロー文庫)の著者である小野一光氏が、死亡した筧死刑囚の素顔を明かす。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

千佐子からの手紙にうかがえる手口

 体調など身の回りの話題には能弁だが、事件についての話になると、千佐子の顔はスイッチを切られたように、感情を表す光が消え、目の奥が漆黒の闇で満たされる。途方もない無表情だった。そんな彼女に、どうやって男たちを惹きつけてきたのか尋ねたところ、身を乗り出してきた。

「このままの自然体やから。もうスッピンのまま。相手で変えない。男に媚びない。だからどっちかというと頼られるほうやったな。嘘を言わないし、本当のことをバンバン言うから……」

 そう話す彼女だが、私への手紙では「寂しい」や「会いたい」といった言葉を頻発し、明らかな“秋波”を送ってきた。ある手紙には次のようにある。

〈とじこめられた場所にいるので人恋しいのです。こんな処(? シューン)にいるのに、こんな出会い(? ?)があるなんて夢のようです(夢ならさめないで)〉(※かっこ内の文字も含め原文ママ)

 この手紙では、幾度も私に会いたいと記したうえで、〈どこでくらしても、女ですもの。女ですもの……〉と締め括られていた。それは千佐子が現役の“女”であることを強調した文面であり、これまで“年上の異性”である被害者たちを籠絡してきた、彼女の手口が窺える文面だった。

 私が面会途絶を覚悟のうえ、千佐子の発言の矛盾を指摘したことにより、激怒した彼女とは、18年3月6日の面会を最後に音信が途絶えてしまう。それから3年4カ月の時を経た21年7月5日、間もなく死刑が確定する彼女のいる、大阪拘置所を訪ねることにした。

 その際、「千佐子はたぶん会ってくれないだろう」と考えていた私の予想は、あっさり覆されることになる。

3年4カ月ぶりの最後の面会

 面会室の向こうの扉が開かれ、白髪を肩の下まで伸ばした小柄な老女が姿を現したのだ。当時彼女は74歳だが、それよりも老けている印象だった。白地に青と赤の花柄の入ったシャツに、水色の膝丈ズボン。マスク姿の彼女は、まず目の前のアクリル板越しに声を張り上げた。

「あのねえ、私、耳が遠いやろ、やから話すときは声をワントーン大きくして。そうやないと聞こえんから」

 挨拶よりもまず、その言葉だった。それならばと私は、千佐子に最後の挨拶に伺ったことを伝えた。すると彼女は表情も変えず言う。

「まあね、私も覚悟してるから。生きる気力もなくなって、明日、1年後、3年後、まったくわからんからね。そうや先生(※彼女が使ってきた私への呼称)、私が死ぬのわかったら、教えに来て」

 私が言葉に詰まると、彼女は話し始めた。

「そら、怖さがないと言ったら嘘になるよ。もともと小学校の頃から怖がりなんやから。せやから、(死刑については)あえて思わないようにしてるんよ。これからなにしたいとか考えたら、よけい落ち込むわ。もうね、明日なに食べるかとかしか考えとらんのよ」

「ありがとうね。私はこれでサヨナラ」

 その後、この機会ならば聞けるのではないかと思い、事件についての詳細を尋ねたが、3年前の返答と変わらない。そうした点では一貫性があったのである。やがて彼女は私の顔をまじまじと見つめると、口を開く。

「こうやって見ると先生若いわあ。帽子被ってるから頭がどうなってるのかはわからんけど、肌つやもええしね。体悪くないやろ」

 この言葉で、彼女が高齢男性を籠絡する際に使っていた“褒め”の技が染みついていることを感じた。面会時間の終わりに私は言う。

「千佐子さん、私がこう言うのもなんだけど、お元気で。どうもありがとう」

「ありがとうね。私はこれでサヨナラ」

 はっきりした声で彼女はそう告げると、広げた両掌をこちらに向け、少女のように胸の前でひらひらと振る。そして踵を返すと、金属製の扉の向こうに消えて行った。

 被害者のご遺族からしたら、刑死ではないことに腸が煮えくり返る思いだろう。だが、彼女の唐突な死は、そのときに面会室を出ていくような、この世の去り方だったのである。

(小野 一光)

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