「なぜ訴えられるのか、わからない」“和歌山毒物カレー事件の林真須美”が《鳥取連続不審死事件》上田美由紀を訴えた理由とは…? 亡くなる前に語った「共感と戸惑い」
文春オンライン / 2025年1月4日 17時10分
亡くなった上田美由紀死刑囚の自宅 ©文藝春秋
〈 「わかっているだけで6人が死亡」《鳥取連続不審死事件》上田美由紀が亡くなる前に匂わせた「ある支援者=東京の父親」の存在 〉から続く
2023年に収容先の広島拘置所で死亡した上田美由紀死刑囚だが、生前、彼女は和歌山毒物カレー事件の林真須美死刑囚に訴えられていた。亡くなる前の上田美由紀が取材したジャーナリストに語った、林真須美への「共感と戸惑い」とは? ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『 殺人の追憶 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)
◆◆◆
林真須美との因縁
この上田美由紀に、首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗死刑囚、和歌山毒物カレー事件の林真須美死刑囚を加えて、「平成の3大悪女」と報じられることもある。
「東の毒婦」と呼ばれた木嶋佳苗は、婚活サイトで知り合った男性3人を練炭自殺と見せかけて殺害した容疑で、上田美由紀の4日後に逮捕された。直接証拠はないものの、練炭や睡眠薬の入手履歴などの状況証拠があった。木嶋佳苗は裁判で一貫して無罪を主張したが、2017年5月、死刑が確定した。
地域の夏祭りで出されたカレーを食べた住民4人が死亡、63人が急性ヒ素中毒になった凶悪事件が起きたのは、1998年7月のことだ。近くに住む林真須美が殺人などの罪に問われ逮捕、起訴された。2009年、死刑は確定。林真須美は一貫して無罪を主張していたが、カレー鍋に混入されたものと同じ特徴のヒ素が自宅などから見つかったこと、頭髪から高濃度のヒ素が検出されたこと、そのヒ素を林真須美のみがカレー鍋に混入できる状況にあったことが有罪認定の根拠とされた。
同年、和歌山地裁に再審請求を申し立てたが、棄却。林真須美はその後も再審請求申し立てをしている。
林真須美と家族の書簡集「死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら」を読み、涙したという上田美由紀。この本を「私の宝物」とし、かつて月刊誌に「同じ母親として、被告として、頑張って欲しいと思います」と綴ったこともあった。林真須美は4人の母親。5人の子供がいる上田美由紀としては、そこに共感を覚えてのことだったようだ。
だが林真須美は、2017年5月、上田美由紀に対し計1千万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。林真須美は上田美由紀とは面識がなく、関わりを持ちたくないにもかかわらず、上田美由紀と親しいかのような文章が林真須美の支援誌に掲載されたりなどして精神的苦痛を受けたというのを、その理由としていた。
――その林真須美が、あなたが自分と親しいかのような文章を書いて精神的苦痛を受けたと、1千万円の損害賠償を求めて提訴したことについて、どう思うのか?
「何も悪いことは書いてないです。私は林さんを攻撃するつもりはないし、いまも悪く思っていません。なぜ訴えられるのか、わからない。身に覚えがありません。ほおっておいてほしいです」
事実、過去の上田美由紀の発言内容には、林真須美を攻撃するような記述は見られなかった。
「まるで落武者みたいでしょう」
このとき、髪は腰のあたりまで伸び、薄いピンク色のTシャツ姿だった上田美由紀は、恰幅が良く「西の毒婦」と呼ばれた逮捕時の印象と違い、すいぶんと痩せて小さく見えた。それについて聞くと、フフフと静かに笑って、「まるで落武者みたいでしょう」としおらしく、それでいて淡々と答えた。
――5人の子供たちとは連絡をとっていますか?
「家族に心配をかけたくないので……」
その淡々とした口調は変わらぬまま言及を避けた。
――判決については?
「考えないようにしています。弁護士さんを信じています」
悔しさや憤りを表に出すことはない。即答だった。
(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
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