7歳の少女に欲情し、いたずらしただけじゃない…《文京区小2女児殺害事件》22歳・薬物中毒男の「卑劣すぎる犯行手口」(1954年の事件)
文春オンライン / 2025年1月5日 17時0分
7歳の少女を襲った犯人男の卑劣な手口、そしてのちの社会に与えた影響とは? 写真はイメージ ©getty
〈 「お便所に行ってくるわ」7歳の娘がいたずら・殺害されて母親は半狂乱に…学校のトイレが「男女共用だった時代」に起きた悲劇(1954年の事件) 〉から続く
トイレを借りに小学校を訪れたヒロポン中毒の男が女子児童を暴行・絞殺した「文京区小2女児殺害事件」。同事件はなぜ起きたのか? そしてのちの社会にまで与えた影響とは? 新刊『 戦後まもない日本で起きた30の怖い事件 』(鉄人社)より一部抜粋して紹介する。(全2回の2回目/ 最初 から読む)
◆◆◆
トイレに残された「犯人逮捕の手がかり」
強姦殺人事件として捜査を開始した警察は、ほどなく有力な手がかりを掴む。トイレの配管から犯人の持ち物と思しき「S・S」のイニシャルが入ったハンカチを発見。さらに現場周辺で不審者の目撃情報がなかったか聞き込んでいたところ、元町小学校の近所に住んでいる男性から着目すべき証言が得られた。なんでも、事件当日の午後、友人の坂牧修吉(同20歳)という男が家を訪ねてきたのだが、いかにも挙動がおかしく、会話は成立せず、洗面所でしきりに手を洗っていたという。
こうした状況から警察は坂牧を容疑者として取り調べ自供を得る。事件から10日後の4月29日のことだ。
坂牧は1935年、青果問屋を営む比較的裕福な家庭に生まれた。ただ、派手好きな母親が外に愛人を作り、それが原因で両親は常に言い争っていた。成長した坂巻はやがて母親に激しい憎悪を抱くようになる。
小学校高学年期、日本は戦争末期で、米軍の空襲から逃れるため学童疎開へ。終戦で東京に戻ったころは勉強に対する意欲を失っており、しだいに不良グループの溜まり場に顔を出し始める。それを心配した父親は息子を栃木県の中学に入れるが、この栃木の下宿先にも母親が愛人を連れてきたことで関係はさらに悪化。人格が荒み、傷害や暴行事件を起こして捕まり保護観察処分を受ける。
その後、両親は離婚。父親は再婚したが、継母になじむことはなく、やがて当時流行していたヒロポンに手を出し、中毒者(通称「ポン中」)となってしまう。
ヒロポンとは、現在では使用・所持すれば厳罰処分を受ける覚醒剤の一種だ。ただ、戦時中の日本では兵士の士気向上や暗視能力の向上のために使われ、一般人も勤労や工場の能率向上のために強壮剤感覚で常用。
戦後、軍が保有していた大量のヒロポン注射剤が市場に出回った。扱いはタバコや酒などの嗜好品と同等で、酒よりも安く気軽に入手できたため、芸能界を始め、娼婦や戦争孤児の非行少年の間で流行。そのうち、ヒロポン欲しさに犯罪に手を染める青少年が増えていき、1950年に警察に補導された者は1万5千人以上、翌年には倍の3万人以上が中毒になっていたとされる。
こうした状況を鑑みて、1951年7月30日に覚醒剤取締法案が施行されたものの、ポン中による犯罪は後は絶たず、警察がその対応に苦慮していたころに起きたのが鏡子ちゃん殺害事件だった。
1954年、静岡県のサナトリウムで結核の治療を受けていた坂巻は、ポン中の影響で問題ばかり起こしていた。同年4月19日朝、サナトリウムを無断で抜け出して東京に戻り、金を借りる目的で後に情報提供者となった友人宅に向かう。が、あいにく留守だったため周辺をうろついていたところ、尿意を催し、近所の元町小学校へ。以前、この辺りに住んでいたことがあり、校内のトイレの位置も把握していた。
用を足し終わり何気に振り向くと、便所の個室でお尻を少し出している鏡子ちゃんの姿が目に入った。彼女は戸を閉め切るのを怖がっており、戸を開けて用を足すのが癖になっていた。そんな鏡子ちゃんに坂牧は欲情、近づきいたずらをすると、彼女が声を上げて泣き出した。そのため鏡子ちゃんの下着を剥ぎ取り口に無理やり詰め込んだうえで暴行。持っていたハンカチで首を絞め殺害する。その後、ハンカチをトイレに流し逃走。それが排水管に残っていることなどは考えもしなかった。
強姦殺人罪で起訴された坂巻に、事件から1年後の1955年4月15日、東京地裁は死刑判決を下す。控訴・上告は棄却され、1956年10月25日に最高裁が刑を確定。8ヶ月後の1957年6月22日、宮城刑務所にして絞首刑が執行された。最期の言葉は「お先にっ!」だったという(享年22)。
のちの社会に与えた影響とは?
事件を受け、国会は1954年6月、それまで懲役3年以下だった覚醒剤の所持・使用の罰則を懲役5年以下に変更する法案を成立(2024年10月現在は懲役10年以下)。
一方、事件翌月の同年5月、東京都教育庁は都内の小中学校宛てに6項目の「新管理方針」を示した。
■学校長は男女のトイレを別にせよ。
■トイレの個室は必ず戸を閉めるように学童に注意せよ。
■来賓と学童のトイレを別にせよ。
■授業のない教職員は小使とともに校内を巡視せよ。
■外来者の出入りには、必ず教職員、小使が見られる通路を通るようにせよ。
■学校の垣根や柵を厳重にし、無闇に外来者が出入りできないようにせよ。
都内に通達された指針はそのまま全国に広がり、現在ではほぼ全ての公立小中学校のトイレが男女別に分けられている。
(鉄人ノンフィクション編集部/Webオリジナル(外部転載))
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