4.9メートルの津波が襲い、火災も発生…甚大な被害を受けた能登町白丸地区が“恐るべきスピード”で道路啓開できた“意外な理由”
文春オンライン / 2025年1月1日 6時10分
能登町内浦をはじめ通行が困難な箇所が数多くあった(2024年1月撮影)
〈 〈写真多数〉「もう家に帰れないと諦めています」「行政も頑張ってるけど」…能登半島地震から1年、現地を訪れて聞いた“リアルな惨状” 〉から続く
能登半島地震で甚大な被害を受けた能登町白丸地区。最大4.9メートルの津波が沿岸部を襲い、火災も発生した同地区だったが、その他の被災地と比較して、車両が通行できる最低限の交通路が切り開かれるまでのスピードは極めて迅速だった。
現地を訪れ、海辺で作業していた男性に話を聞くと、その裏にはNGOによるボランティアの貢献が大きかったという。通常、道路を啓開するには、国や県が業界団体に依頼し、自衛隊や消防、警察とも連携しながら地元の土建業者が中心となり実施するという流れがあるが、なぜ民間団体であるNGOがいち早く命の道を切り開けたのか。
◆◆◆
民間の支援がなければ災害対応が立ち行かない
男性が話していた災害NGO“結(ゆい)”に話を聞いた。
災害現場には、日本各地から様々な民間の支援団体が駆け付ける。結は、そうした支援団体の活動が円滑になるよう、サポートすることを得意としている。発災翌日の2日には能登町に入り、能登半島の先端に位置する珠洲市にも3日午前には到達したという。
まずは現地で情報を収集して被害の全体像を把握。支援物資を運び込む団体や、重機を扱うなど技術系支援を得意とする団体と情報を共有し、調整役を担ったそうだ。
3日に支援物資を運んできたのは、九州の支援団体。いち早く道路啓開も始めたかったが、現場に至るまでの道路事情の悪さもあり、時間がかかった。重機を得意とする岐阜県の支援団体が現地で作業を始めたのは、5日のことだったという。
機動性を重視し、物資や重機の運搬には2トン車や3トン車が使われた。こうした判断に活かされたのは、過去の災害現場での経験だ。支援団体が能登地区で最初に着手した道路啓開が、白丸地区の県道だった。
そのほかにも、日本各地から多くの団体が駆けつけ、技術支援などを行っている。こうした民間の支援がなければ災害対応が立ち行かないというのが、災害現場の現状だ。
私は話を聞きながら、2011年に発生した東日本大震災の被災地を訪れた時のことを思い出していた。
「帰るガソリンも無いし、片道切符になることも覚悟して来た」
東日本大震災では、発災直後に石巻市内の避難所を訪れ、運営の主体を担っていたボランティアの方と少し話をした。
当時はガソリン不足が深刻で、福島第一原発も不安定な状態が続いていた。
そんな状況で埼玉県から駆け付け、避難所を運営していた方は「帰るガソリンも無いし、片道切符になることも覚悟して来た」と話していたのだ。それほどに重大な覚悟をもって被災地を訪れ、いわばプロフェッショナルな活動を展開するボランティアの方々が、以前から存在していた。
月日が経ち、民間団体の活動が進化している印象を受けた。
私たちはこれまでに、多くの自然災害を経験してきた。
阪神大震災や東日本大震災のような巨大地震だけではなく、台風やゲリラ豪雨による災害も頻発している。その度に、多くの人命が失われてきた。ご遺体が発見された現場では手を合わせ、数々の被災地を歩いてきたが、これほど悲しいことはない。
災害により、無念にも犠牲になられた方々に報いられることがあるとすれば、過去の災害を教訓として活かし、今後発生する災害による犠牲者を最小限に留めることではないだろうか。
今回の能登半島地震では、阪神大震災を機に設立された緊急消防援助隊の制度が活用され、全国の消防から救助隊が能登半島に向かった。
必要な機材を少しでも多く積み込むため、緊急消防援助隊の車両は低床の大型車が多いのだが、能登半島地震では、道路の状態が悪く、被災地の手前で足止めされる部隊が多かった。災害による道路状態の悪化など容易に予測されそうなものだが、霞が関の机上で考えられる施策は、現場では役に立たないケースもある。
東日本大震災で注目を集めた道路啓開だが、その重要性から全国に事前の計画策定が求められていた。しかし、北陸地方は未策定だった。もちろん復旧の遅れの要因を限定することはできず、様々な要因が絡み合うが、人命救助の目安とされる72時間以内における道路啓開が進まなかったことは事実。救助隊が到達できない地域もあった。
日本における災害対応は2015年に発生した東日本豪雨への対応がピーク…?
能登半島地震の取材を通じ、過去の震災や豪雨災害の例と比べて、避難所の居住性など進化したと感じることもあれば、人命救助や被災家屋への対処など、退化したと感じざるを得ない部分もあった。
個人的な印象でしかないが、日本における災害対応は2015年に発生した東日本豪雨への対応がピークで、それ以降は、無理のない範囲で、無理のないスピードでしか行われなくなったと感じる。
その背景には、二次災害防止の徹底や働き方改革など、ひと言でいえば時代の変化も要因として挙げられるかもしれない。しかし、人命が懸かっている以上、いかなる言い訳も通用しない。災害対応に満点はないのだから、時代の変化に適応した方法で進化を続けなければ、過去の教訓を十分に活かしているとはいえないだろう。
今回の地震を受けて、警察に悪路走破性の高い軽自動車ジムニーが配備されるなどの動きも出ている。過去の災害による犠牲を無駄にしないよう、今後の動きに期待したいところだ。
今回の地震で犠牲になられた方のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた全ての方が一日も早く日常生活を取り戻せることを切に願っている。
撮影=鹿取茂雄
(鹿取 茂雄)
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